10数機のヌエの一団と20台以上のトレーラが渓谷地帯を猛進していく。
トレーラは悪路を物ともせずに突き進むが所々で車体が盛大に跳ね上がる。正直、遊園地の絶叫系アトラクション以上の乗り心地の悪さである。
またヌエの方は殆どが損傷しており損傷が軽いのは二機しか居ない。
そしてそんな二機のヌエのパイロット、ユイとマイの双子の姉妹。誰もが無駄口を開かない中、マイが秘匿回線でユイに話しかける。
『なぁ姉貴、アイツ等の言葉を信じるの?』
「………………」
が、ユイからの反応は無い。マイはもっと大きな声で呼びかける。
『姉貴? 姉貴! ユイ姉!!』
「!? な、何? マイ?」
漸く見せる反応。その反応はユイにしては珍しいものでマイは内心でちょっと驚いていた。
『いや姉貴は、さぁ…アイツ等の言葉を信じるの?』
「…マイ、私達は何?」
『???』
姉の言葉に要領を得ない。だがマイとしてはこれだけは言えると思っている。
『アタシ等はアタシ等だよ、ユイ姉。ユイ・キサラギとマイ・キサラギの双子姉妹』
「そうね。間違っては無いわ」
だからこそだ。
「マイ。私達は無知だったわ」
『姉貴?』
「幼少の頃から研究所の人間達によってあらゆる戦闘に関する英才教育を受けた。でもそれ以外は知らない」
目を瞑ってても簡単に思い出せる。あのモルモットや実験動物を見るような狂った目が。
そう彼等のような研究者達にとって自分達はただ実験体。今も新しい人間の形をしたバトルマシーンを作り出そうとしている。
「でも私達は今回外に出る機会を得れた。そして知った。外の世界を」
『……うん』
そう知ったのだ。新しい世界を。そこにあるモノを。新しい出会いを。
今回の作戦で出会った彼等は自分達をモノを見るように見なかった。
寧ろ一つの個として、一人の人間として見てくれた。
「初めてだった。こんな感覚。でも嫌な感じはしない、寧ろこれが“嬉しい”という気持ち。なのかもしれないわね」
『姉貴も気持ちも分かるよ。アタシも同じような感じだから』
「だから今は彼等を見定めるわ。まだ本当に彼等の言う“理想”が築けるのか分からないからね。でももし、もし本当に彼等がその“理想”を成就できるようなら私は彼等に力を貸すわ」
『アタシは姉貴に付いていくだけだよ』
双子を生み出した研究者達にとって大きな誤算は彼女等に戦う以外のことを教えなかった事である。もしかしたら洗脳に近い刷り込みをしていればまた変わったかもしれない。
だが賽はすでに投げられている。
『ところで姉貴、この通信も後でレコーダとして回収されんじゃないの?』
「帰還する前に通信装置等のその他諸々を壊せばいいのよ」
『さっすが姉貴ィ~~。―――――ねぇ、姉貴の話を聞いていてさ、アタシもそうだねって思う所があるんだ』
「どうしたの行き成り」
『いやさぁ、自由っていうのを知りたいな~~なんて姉貴の話を聞いていて思ったんだ。うん。上手く整理は出来てないけどフェイトの“お前達はヴァリムの国民”だっていう言葉が思いのほか効ぃてんのかもね』
「それに関しては同感ね」
二人は小さく笑う。
その笑顔は決して人形が見せるものではない、人が見せるものである。
とそこに別の通信が入る。
発信源は今作戦に用いられた指揮車の中でも一番レーダー範囲が広いものを搭載した車両からだ。
『総員に通達します! まだ距離に開きはありますが12000以上の距離に動体反応! 機動性と位置高度から察するにPFの可能性大です!!』
全員に緊張が走る。
ユイはマイとの秘匿回線を閉じ、指揮車に通信回線を繋げる。
「その情報は正確?」
『ノイズ交じりで距離に開きがありますが現状もっとも可能性があるのはPFです』
「…そう。引き続き索敵を」
『了解!』
ユイは表面上がいつもどおりだが内心は焦りを感じている。
(まずいわね。もし敵なら小隊や中隊規模なら多少の犠牲は仕方ないとしても突破できる可能性は95.50%以上。でもそれ以上なら確率は大幅に下がってしまう。味方なら行幸、敵なら自分達の不運を呪うしかない……!!)
「私が不確定要素に賭けるなど……!」
『ハン!! 姉貴が心配するようなことなんて無いさっ! 先手必勝!!』
ユイが内心で色々と計算しているといつも通りの無鉄砲さでマイが突出していく。
「マイっ! あの子は……」
『少尉どうされます?!』
「私とマイが先行する。他は非戦闘員の防衛に専念しろ」
『了解しました!』
指揮車にいるオペレータに指示をしながらユイは急いでマイを追う。
『ユイ・キサラギ少尉! レーダーの反応はやはりアルサレアの部隊でした! 規模は凡そ一個中隊。もしかすれば更に後続が潜んでいるかもしれません!!』
「分かっている」
『マイ・キサラギ少尉、まもなく敵部隊と接触します!』
ヌエのレーダーで敵部隊を捉えてたマイはうずうずと体を歓喜に震わす。よっぽど戦いたかったのだろう。
『イッチバ~~ン!! マイ・キサラギ、行っくぜぇぇ!!』
彼女の元気な声と共にヌエのWCS範囲外にいる敵に目掛けスマートガンを乱射する。ノーロック故の荒い攻撃だが、それでも先頭にいたJファーの足を止めるにいたる。
そしてガトリングの弾丸をばら撒きながらマイは足を止めたJファーに斬りかかる。Jファーのパイロットは直ぐに飛び退ろうとするがマイのヌエのほうが断然速い。
眼前に迫る光にJファーのパイロットはなすすべも無く光に飲まれ熱によって蒸発する。
『ほらほらァ! いっくよぉ!!』
数の差を物ともせずマイは敵部隊の真っ只中に斬り込んで行く。
『キサマァ!!』
一機のJファーがレーザーソードで斬りかかるがマイはそれを簡単に避ける。まるで猫が鼠を弄って遊ぶように。
『遅えんだよッ!』
回避と同時にJファーの胴体にスマートガンを撃ち込む。
撃ち込まれた箇所は丁度インナーBOXというジェネレータ等が詰まっているPFにとって一番重要な部分である。故にそこを至近距離で攻撃されれば火を見るより明らかである。
『ウアァァァッッ!!!!!!』
損傷した箇所から火花を散らし、その火花が他の部分に引火する。結果、そのJファーは一つの花火と化す。
『さぁ次ィ!』
「突出しすぎよ、マイ」
マイに目掛け襲い掛かる4発の小型ミサイル。それを漸く追いついたユイがガトリングで迎撃する。
たった2発の弾丸が2発のミサイルを撃ちぬき残りの二つのミサイルを誘爆させ破壊する。
『遅いよぉ姉貴、もうアタシだけで始めちまっ「マイ後で……お仕置きよ…」た、ぜ…ぇ…』
マイのそんな台詞を遮るユイの発言は彼女を凍てつかせるには十分な破壊力であった。
『ああ姉貴ィ!! じょ、冗談だよ! 冗談!!』
マイにとってユイは決して頭の上がらない存在なのである。そしてそんな彼女は絶対に姉には逆らわず怒らせないようにしている。
それは絶対に自分は姉には敵わず、そして氷のような冷たい怒りを本能で恐れているという証拠なのだ。
「まぁいいわ。それよりも『ユイ・キサラギ少尉!』…今度は何?」
ユイは若干不機嫌そうに応える。そしてマイはそんな姉の様子に戦々恐々とする。
(やっべぇ~~~あと少しで姉貴がキレちまう。ぁ~~アタシに飛び火しないでくれよぉ~~)
『現在交戦中の敵部隊の背後に更に後続を確認しましたが、その後続を撃破しながら一直線にこちらに向かってくる部隊があります!!』
「それは友軍?」
『識別信号はヴァリムのものです! あ!! 識別特定完了。これは……ラヴィス大尉!?』
「なにっ?」
『識別反応はヴァリム戦略機動軍第05遊撃小隊です!!』
「第05遊撃小隊……でもどうして…他の部隊は別方面で作戦中の筈なのに……」
『こちらからコンタクトを取ってみますっ!!』
「頼むわ。マイ、有り難いことに救援が来たようよ」
『え、マジで!?』
マイが5機目のJファーを撃破した直後、二人のレーダーにその救援の部隊が現れた。
『こちら第05遊撃小隊隊長ラヴィス・クリスタだ! 救援に来たぞ、無事か!!』
一機のヤシャが現れ一迅の黒き風となる。
遠距離からミサイルを放ち、高速で接近する。ヤシャの背後からは2機のヌエ。
放たれたミサイルはJファーのガトリングで迎撃されるがその直後にガトリングを放ったJファーに白刃が襲い掛かる。白刃は舞い踊り傍にいたもう一機のJファー共々切り裂く。
あまりの手際のよさと味方が落とされたことにより残ったアルサレア側は動揺しうろたえる。
そしてその隙を見逃すほど彼の部下は未熟ではない。
『ハアァァッ!!』
『!?』
馬鹿みたいに棒立ち状態で立ち止まっていたJファーに一機のヌエが両手のスマートガンを撃ちながら接近してくる。咄嗟のことにJファーのパイロットは怯み、怯えパニックになったのかブーストジャンプし背中を向けて飛び去ろうとする。しかし眼前にはいつのまにかもう一機のヌエが飛び掛っていた。その両手には夕焼け空のような光りを発している二振りのレーザーソード。
ちなみにヴァリム製のレーザーソード等の熱タイプの近接兵器はオレンジに近い色合いのレーザーで、アルサレア製のは青色である。
閑話休題
『ヒィ!!』
右から振り下ろされる光剣をギリギリで避けるJファー。しかしそのせいで空中で無茶な体勢を取ったので非常に隙だらけだ。そんな状態のJファーに振り下ろされるもう一本の光剣。
その一撃はJファーの装甲を焼き切りながら両断する。
『一機撃破!』
『こっちも一機撃破! ヘン! 雑魚じゃねぇかっ!!』
『ラヴィス隊長そちら、は……』
レーザーソードを構えていたヌエのパイロットは隊長であるラヴィスの方に向く。
するとそこではグリュウ顔負けの殺陣を演じているヤシャがいた。流石にグリュウのように十機以上も相手にはしていない。まぁ一個中隊は10機編成なので当然だが。
さらにその周りではユイとマイの二人が抜群のコンビネーションで敵機を撃破している。
『周辺の敵勢力の全滅を確認。ユイ少尉、マイ少尉お疲れ様です。そして第05遊撃小隊の方々救援を感謝します!』
最後のJファーをユイが撃破し敵勢力全ての沈黙を確認したオペレータからの通信の旨が入る。
「『了解』」
ユイは機体のコンディションをチェックしながらラヴィスを注視する。
現在、彼とその部下は輸送車から弾薬とエネルギーの補給を行わせてもらっている。
(あの実力、グリュウ大尉達には及ばずながらもエースの名に相応しいものだわ)
ラヴィスもグリュウ達と同じ侍、武士(もののふ)というものを彷彿させるものを感じる。そして何が彼らをそのように駆り立てるのか非常に興味深いものを感じられる。
『貴官らはサーリットンで作戦行動をしていた部隊だな』
思考の海に潜っているとラヴィスから通信が入る。
「はい、我々はサーリットンで作戦行動中でしたが敵側にアルサレア軍最高司令官グレン・クラウゼンの存在もあり予想以上の苦戦をしいられました。またその時の戦闘で本作戦の最高司令官であるグレアム・グレッグソン少将閣下が流れ弾により戦死し、現在はバール・アックス少佐以下3名が残存部隊を率いて我々非戦闘員を撤退させるため今も戦闘中です」
自分でもよくこんな言葉が出るもんだと内心驚いているが別に間違ってはいない。と納得する。
『そうか、よく分かった。ではなるべく急がねばならないな。貴官らはこのまま国境を目指せ! 道中にいたアルサレアの部隊は倒したので問題ない筈だ』
ラヴィスはそう言いヤシャを立ち上がらせ、彼の部下もそれに続く。
「待ってください。大尉たちはどうして来たのです? 現在我が軍は戦略機動軍・独立戦隊などを含める国土防衛軍以外の殆どが多方面へと侵攻作戦を展開しているのでは?」
そう今回の作戦はアルサレア・ミラムーン両国へとヴァリム軍の殆どを投入した大規模な侵攻作戦なのだ。今現在でも各地で作戦中のはずである。なのにどうしてラヴィスとその部下はここにいるのであろうか。彼は本来ガイドムゥラ平原地帯担当である。
ユイの質問にラヴィスは。
『その答えは戦略機動軍専用の通信回線を開いてみるといい。では我々は行かせてもらうぞ』
そう言い残し彼らはサーリットン方面へと向かう。
「オペレータ。直ちに戦略機動軍用の回線に繋げなさい」
『了解! 少しお待ちを』
ユイの指示にオペレータはいそいそと取り掛かる。
「一体何が起きているの……」
『姉貴ぃ、一体全体さなにが起きてんの?』
「情報が不足していて分からないわ」
『少尉、繋がりました! これより全部隊に繋げます!』
通信装置からはノイズ交じりのザーザーという不快な音が響く。それに混じって一つの通信が発信されている。
≪全戦略機動軍に通達。こちら戦略機動軍総統―――――――中将である。偵察衛星からの情報で現在サーリットン方面に展開中のバール・アックス少佐、フェイト・アークエイル大尉、グリュウ・アインソード大尉、ルナ・A・イルマタル大尉の部隊が危険状態である。今ここで彼らにもしもの事があってはならない、どこにいる部隊でもいい! 手が空いている者達は至急彼らの援護に向かってくれ! 私も向かう! ヴァリムの為に! 武士達よ! 頼む!!!≫
それは信じがたい通信であった。
「これは……本気!?」
『この通信を受信した殆どの戦略機動軍が転進しサーリットンを目指していますっ!! その所為か各戦線にて混乱状態がおきています!!』
『キャハハハハハ!! ………姉貴、こいつ等すげぇよ……なぁ姉貴! アタシ等も行かねっ? 正直このままじゃ収まりがつかないよ』
マイがお腹を押さえながら笑う、が、一転して冷静にそして心底彼らを称えるように面白そうにユイに問う。
「…………駄目よ」
しかしユイの返答は否定の言葉。
『えぇッ、何でさ!?』
「本音を言えば私も収まりがつかないし行きたい」
『なら……「でも!」……!?』
ユイは苦虫を噛み潰すような表情で言う。
「でも行けば軍法会議ものよ!」
『で、でもさ! あいつ等はっ』
「おそらく彼らはそれを承知で行動しているのよ。でも私達のような存在が行けばただじゃ済まないわ」
『!!? クソォッ!』
「よくて記憶抹消の処置、最悪は処分よ。文字通りのね。研究所の連中なら眉一つ動かさずにやるわ」
二人は表情を思いっきり歪める。自分たちの現状に、そして自分たちをこんな立場にした研究者達への憎念に。
「行きましょう、マイ。今私達にできるのは少佐たちに与えられた任務を全うすることよ」
『分かったよ、姉貴。絶対! 絶対自由になってやるっ!』
「そうね、こんな胸糞悪い気持ちをまた味わうなんてごめんだわ」
『………………』
「…なによマイ?」
『え、あ、あぁいや! 姉貴の口からそんな言葉がでるなんて思ってみなかったからさ。あ、あははは』
ちなみに実はこの会話通常回線であるため他の連中にも丸聞こえである。そして全員の表情が目を見開き口をポカーンと半開きにしている。
「ふぅ、まあいいわ。それじゃ行きましょう。それとあなた達この会話の内容は他言無用よ。レコーダーに記録されているのなら帰還するまえにレコーダーを壊しておきなさい」
『『『………』』』
全員沈黙する。
「返事は?」
ユイのヌエが全員の方に向く、何故か皆ネコ科の動物に睨まれた獲物のような心境だった。
『わ、分かったよユイ姉! お前らもいいな!?』
『はハイィ!』
『心得ておりますともぉ!!』
『ユイちゃん萌え』
『大丈夫だって、俺たちは隊長の部下なんだから!』
「? 一部ヘンなのが混じってたような気がするけど……ま、いいわ。それじゃ一刻も早く国境を越えましょう」
『『オッケーユイ姉 / 了解』』
後書き
Reverse SideⅠ-C終了。
まさかの漫画版のキャラ、ラヴィス登場。でも口調に自信が持てない……
それとレーザーソードの色合いの件ですがあれは自機と味方機が本来は青で敵側がオレンジです。だからこれはどっちかと言うとゲーム上の仕様の問題なんです。ただそれをこちらが勝手にアレンジしたので真に受けないでください。
あと双子がえらい贔屓目ですが気にせんといてくださいな。
ぶっちゃけ好きなキャラは色んな意味で贔屓しちゃいたくなるんです。
それに実は彼女たち以上に贔屓しちゃうキャラがいるしね。
さてラスト後編を書いたらようやくチャプター2でございます。
誤字脱字、感想等は掲示板にてお願いします。