第拾話




『リオちゃーん、準備出来たかしら~?』
 ドレッシングルームと廊下を隔てる扉の向こうから間延びした朝光の声が聞こえてくる。
「もうちょっと待って下さい」
 応えながら着込んだパイロットスーツのファスナーを上げ、手首周りに装着されているパッドを弄る。小さく空気の抜けるような音がすると、若干余り気味だったスーツがぴったりとリオの身体に密着した。
 高機動を行うAC用に開発された対高G及び衝撃吸収用スーツ。身体全体を覆う一本のツナギのような形状のそれは、対刃、対弾、対爆、耐熱とあらゆる外的危険からレイヴンを護る性能を備えている。これ一着だけでも通常の歩兵の完全装備分の値段がすると言えばその価値が分かるだろう。
 そんな高級スーツを身に纏い、軽く屈伸運動なんかして着心地を確かめているリオ。久しぶりに主に装着されたスーツは、リオの身体を歓迎したかのように絶妙な密着具合だった。ラックに残っていたヘルメットを手に取り部屋を後にしようとして、ふと彼は脱いだ服に付けたままの物の存在に気が付く。
「いけね……」
 脱いだ制服に残っていたそれを外し、スーツの腰に結びつける。少し引っ張りちゃんと結わえ付けられたかを確認。しっかりとぶら下がるそれを指で弾き、鳴らしてみる。
 チリンと小さく綺麗な音が響いた。
 満足げに頷き、もう一度ヘルメットを手に取り今度こそ部屋を後にする。扉を開けるとそこには柏木と朝光が待っていた。
「お待たせしま……」
 そこで言葉を途切れさせ、ビシリッ、と凍り付いたように硬直するリオ。まん丸に見開かれた目は一体何を映したのか。
「どうかした? リオ。かなり面白い顔になってるよ」
 柏木の言葉に、失礼な、と返そうとしたリオは彼女達の姿を認識して再び硬直、残像が残るほどの勢いで顔を背ける。
 その顔が真っ赤になっていることに気が付いた2人が、ようやくリオの行動に納得する。
「あれ~? もしかしてリオ照れてるの?」
 意地悪げな表情をした柏木が、わざわざ胸元を強調するように腕を組む。限界まで首をねじ曲げ、必死で視界から外そうと努力するリオ。だがそちら側には同じく笑みを浮かべた朝光が回り込む。
 ねじ曲げる。回り込む。ねじ曲げる。回り込む。ねじ曲げる。回り込む。ねじ曲げる―――。
 二桁に達するほど繰り返した行為は、いい加減朝光が飽きたと言うことで一応お開きになった。
「な、なんでそんな……その……う、薄いスーツなんですか」
 足下に視線を下げ、出来るだけ目を逸らしながらリオが照れ隠しのように言葉を紡ぐ。
 黒を基調とした首から下を包むような薄手のパイロットスーツ。彼女達が強化装備と呼んでいるそれは、端から見て全身タイツのようなのだ。一応首から肩に掛けてと手首にパットのような物があり、股間部や大腿部は薄い装甲膜で覆われている。
 しかし問題なのはその薄さ。ピッチリと言うよりもはや身体の一部と言っていいほど密着したそれは、余すことなく女性特有の柔らかい身体のラインを浮き彫りにしている。
 突き出た胸に、細く締まった腰。そして微妙な曲線を描く臀部。
 簡単に言えば、エロい。
「え? これが正規装備よん。訓練用のなんてもっとドギツイわよぉ」
「そうでしたね~、あれを最初着る時はかなり勇気がいりましたから。それより私はリオの方が珍しいですよ。これ何処の強化装備?」
 その初々しい反応を可笑しげに眺めながら、朝光が自身の強化装備の胸を押したりしている。プニプニと柔らかくへこんだりするその様に、ちらっと視線を上げたリオがまた顔を赤くした。柏木の問は耳には入っていない。
 もちろん、この全身タイツのような強化装備にもちゃんとした理由はある。それは女性としての、というより性別においての羞恥心などの意識を殺す為だ。最前線では男女の区別などしている暇はない為、風呂やトイレ、あげくに宿舎まで混同なのだ。そんな状況で一端に羞恥心など持っていては精神的負担が尋常なく降りかかる。そしてその負担が時として衛士を死に追いやることがあるのだ。
 とは言え、いきなり見せつけられては動揺が激しい為、普通なら訓練兵時代から慣らしていく物であったのだが……その時代をすっぽかしたリオにとっては、衝撃が強すぎたようだ。
 成人した男にとっては目の保養なのだが、年端もいかない子供にとっては目に毒だったらしい。
「リオちゃん、あまり慣れてないみたいねぇ……ふ~ん……」
 口の端を持ち上げた朝光がリオの正面に立ち、まだ赤い頬を手で包み込むと顔を無理矢理自身へ向けさせる。目だけでも逸らそうと必死なリオを覗き込み、顔面が密着するほどの至近距離で言葉を発する。
「ねぇ、リオちゃん。私とハルー、どっちが良い?」
「そ、それより、早く、ハンガーに行かないと、た、隊長に、怒られますよ」
 言語を崩壊させながらも答えるリオ。質問の意図は理解しているのだが、答えたくないらしい。必死で話を逸らそうと努力している。
「だぁめよ、リオちゃん。ちゃんと答えなさいって。ほらほら、スタイルには自信有るんだからぁ」
「私も私も。朝光中尉ほどじゃないけど、これでも大きい方なんだよ」
 ずいっと身を乗り出しリオに顔を寄せる美女2人。彼女たちから見えてはいないが、リオの背中はだらだらと冷や汗をかいている。満面の笑みで覗き込んでくる2人と、その美しい身体。銀色の瞳がそれを見つめる。
 先に限界に達したのはリオの方だった。
「~~~~~~~~~ぁぁあっ!!」
 目の前の光景に耐えきれなくなって、朝光の手を振り払ったリオは言葉にならない叫び声を上げながら走り去った。あっという間に小さくなっていくその背中を見送りながら、やれやれと柏木が肩を竦める。
「やりすぎちゃいましたか」
「あんなにウブなのも初めてねぇ。なんだか若い頃を思い出しちゃったわ」
「朝光中尉、その発言自爆してますよ」
「あらま」
 そんな彼女たちを置いてきぼりにハンガーに駆け込んだリオ。もっとも彼の目の前には強化装備に包まれた全員の素晴らしい肢体が並んでいたわけで。
 暫くの間、リオと伊隅の間に「顔を上げろ」「嫌です」のやり取りが続くこととなった



『……以上よ。思う存分やりなさい』
「はぁ……」
 溜息と共に生返事を返す。副司令が突拍子もない事を言い出すのはいつもの事だが、今回は群を抜いていた。
 リオとの漫才の後、ハンガー内でブリーフィングを行おうとしたら、いきなり乗り込んできた香月に敬礼する間もなく戦術機に乗るように命令され、乗り込んだそばから伝えられた市街地模擬戦闘演習の内容。
 そこまでは良い。もともと今日は実記演習の予定だったのだ。
 問題なのはその内容。
 それは9対1での殲滅戦。早い話が、ヴァルキリーズ全員対リオ1人ということだ。いくら相手が新型の機体だと言っても、これでは戦力差が有りすぎて訓練にはならないのではないか。
「副司令……越権行為と承知で尋ねますが、この訓練は理解に苦しみます。わざわざ全戦力をたった1機にぶつけるなど……小隊毎でよろしいのではないでしょうか?」
 先のBETA新潟上陸時の損耗のお陰で、ヴァルキリーズは現在、3機で1小隊、それが3小隊と変則的な部隊構成になっている。A小隊を伊隅、築地、涼宮。B小隊を速瀬、如月、朝光。C小隊を宗像、風間、柏木となっている。
 が、幾ら変則的とは言え、全員この基地の最精鋭ばかりだ。それを1小隊ずつならまだしも、全員で掛かって行けとは香月も随分と思い切った命令を下したものである。
『却下ね……構わないから全力で掛かりなさい』
 笑みを浮かべた顔面の皮一枚下に押し込まれた迫力に、反論を諦めた伊隅はただ首を縦に振るだけだった。
 一見気まぐれに見える香月夕呼という人物は、その実心中では常に計算を繰り広げ、あらゆる事象を考察している。そんな彼女が率先して動くのは自身にとって有益かどうかということが大前提。その内容の善し悪しは無視して、その類い希なる頭脳で損得勘定を判断して行動するのだ。
 つまり、いくら感情が高ぶっていても有益でなければ動かない筈の香月夕呼が動いたということは、それなりに理由があるはずなのだ。その理由がなんなのか結論は見えてこないが、決して無駄でない事は確かである。
 香月との通信を終えると、伊隅は続けて部隊内に通信を繋ぐ。視界に映し出される8人の表情はどれも釈然としてはいない。恐らく私も同じ表情だろうな、と思いながら伊隅は訓練内容を伝えていく。
「……以上だ。何か質問は?」
 真っ先に手を挙げたのは予想通りというか、突撃前衛である速瀬。バストアップの映像で手を挙げる姿はなかなかに滑稽だ。
『質問というか個人的な意見になりますが……』
「構わない、言ってみろ」
『それじゃ遠慮無く……なんで私達がたった1機相手に全員出張らなくちゃいけないんですか? 1小隊……正直私達B小隊だけでも十分ですよ』
 本来なら命令された内容に疑問を持つなど許されることではないが、今回に至っては速瀬の気持ちも分かる。本当に個人的な感情を込めた言葉だが、あながち間違ってもいないのだ。
「それは分からない。副司令からは一言『目の物見せてやれ』としか言われていないからな。だが貴様も見ただろう? あの操縦技術を見れば、一筋縄でいかない事は確かだぞ」
 直球的な速瀬に意見に、苦笑を混ぜながら言葉を返す。と、他の面々が俄に騒がしくなりだした。
『またまた今度はどういうつもりかしら、香月博士ったら。私たち9人対リオちゃん1人なんて随分と思い切った内容よねぇ』
『しかも向こうにはCPすら付いてねぇんだろ? 結果なんて見えてるようなモンじゃねぇか』
 如月の言葉に全員が頷く。本来なら審判役のCPである涼宮遙が、今回特別に戦域管制官も兼ねているのだ。だが、隊内に1人しか居ないCPが伊隅達側につけば、もう一方―――リオの方にはバックアップする人物が居なくなる。
 CPを付けるというのはある程度理解出来るが、常識的に考えるなら戦力で劣る方にバックアップ体制を整えるはずである。戦域を見渡せる「眼」があるというのは常人の考える以上に重要なのだ。
『……でもぉ、あの香月副司令が無駄な事するとは思えませんよねぇ。案外何か仕込んでるんじゃないですかぁ?』
『でもさ、幾ら新型戦術機だからって、個別戦闘じゃないんだよ? 囲んで撃ってハイお終いってなるのが見えてるよ』
『そうだね。しかも麓の市街地は瓦礫の山だからね。あんな重そうな機体じゃ回避運動もままならないと思うけど』
 築地の声に、涼宮、柏木と続く。やはりというか、全員が全員納得している訳ではないようだ。
『リオちゃんが買い被られてるって事かしら?』
 これは朝光。その言葉を如月が否定する。
『あの副司令がそんな無条件的な考え持つか? 絶対なんか仕込んでんだろ。例えば特別な兵装とかな』
 その言葉に宗像がポンと手を打った。
『兵装と言えば……相手方の装備について情報が来ていない。大尉、何か聞いていますか?』
『え? リオちゃん私たちの武器使うんじゃないの?』
「突撃砲と長刀は使用するが、背部にマウントされている兵装はそのままだそうだ。本人の意向らしい」
『あんな重たそーな機体でみぃちゃん達はともかく、みっきーやらぎっちとやり合うつもりかしら。確かに足を止めての撃ち合いは強そうだけどねぇ』
「その名前で呼ぶな」
『みっきーって言わないで下さい』
 伊隅と速瀬の抗議を無視して会話を続ける残り6人。
『もともと近接戦闘用の武器なんて積んでるように見えなかったしな。接近戦から入りゃ楽勝かも知れねぇぞ』
 にやりと自信満々な笑みを浮かべた如月が言い切る。突撃前衛である彼女は接近戦、特に剣撃戦闘において絶対の自信を持っている。それを裏付けるのは彼女の実力。その実力を熟知している伊隅は、諌める訳でもなく自身の考えを呟く。
「見くびって勝てる相手ではない……と言いたいが、如月の考えも分かる。あの機体の開発コンセプトは海神に近い物があるからな」
『反撃される前に火力の集中で殲滅するってヤツよね。今となっては化石みたいな考えよ?』
 その考えは確かに効果的でもある。
 だが一つ重大な欠点があるのだ。その考えは敵が殲滅できる事を前提にしている。
 もっとも相手であるBETAは少なく見積もって数百。大規模戦闘時は数万までふくれあがる。これらを一回の会敵で殲滅するのは骨が折れる。故にその攻撃方法は相手に対して奇襲を仕掛け、態勢の整う前に火力を集中することでしか成功しない。
 が、この訓練は双方とも十二分に準備して行っているのだ。いくら仮想敵の初期配置場所が不明といっても、それは相手にとっても同じ事。それにこちらは分散配置を行っているから、仮に1小隊が攻撃を受けたとしても残りが直ぐさまフォローに回れる。対して相手は一度見つかれば袋叩きにあうような状態だ。
 つまり最前提である奇襲が、半ば失敗したような状況での訓練なのだ。
『やっぱわかんねぇなぁ……』
 伊隅の内心を代弁するように、如月が誰に言うともなく呟く。
『あ、そー言えばミサさん。登場する前にリオちゃんに何か言われてたわよね? 何言われたの?』
『ん? いや、私がオペレーターをするんじゃないのか? と聞かれたんですよ』
『どういう事? リオちゃんCPが誰か知らなかったの?』
『そういう訳では無さそうでした。私が否定すると、オペレーター向きの声ですよねとかなんとか呟いていましたが……』
『訳分かんないわねぇ』
『ええ、訳分かんないです』
 朝光の口調を真似した宗像に、何人かが笑みを零す。
 それに答えようとした朝光がが突如として聞こえた電子音に口を噤んだ。どうやら訓練開始時刻が迫っているようだ。
 一度短く息を吐き、伊隅は頭を切り換えた。
「さて貴様等、色々と疑問に思うだろうがとりあえず今からは捨て置いておけ。ただハッキリしている事は、目標はただ者ではなく、我々はそれを殲滅しろと言われた。この意味が理解できるな?」
『『『『『『『『はっ!!』』』』』』』』
 目に灯る意志の光を変えた8人が応える。
「よしっ! くれぐれもヴァルキリーズの名を汚すよう失態は見せるなよ!!」
『『『『『『『『了解っ!!』』』』』』』』
 伊隅の発破に戦乙女達が応える。
 これぐらいしておけば相手を侮る事も無いだろう。下手な油断さえしなければ我々は負けはしない。確かに目標―――リオの操縦技術は長けているだろう。だが、それは我々が負ける理由にはならない。それ以前に負けると考えている輩など、この場には、この隊には居ない。
 それは個人個人の技量と、隊のチームワークに裏付けされた確固たる自信の表れ。
 操縦桿を強く握り直した伊隅は、ふと自身が掌に汗を掻いている事を実感した。奮い立っている所為かと目を閉じ大きく深呼吸を行う。落ち着いた所でゆっくりと瞼を開き、頭を切り換えていく。
 もう一度操縦桿を握りしめる。それを待っていたかのように、開始のアラームが鳴り響く。
 それはまるで太古の戦場で鳴り響く、開戦を告げる鐘のように聞こえた。



『ヴァルキリーマムよりヴァルキリー全機へ。バンデット1は現在D8から東南東の旧商店街方面へ移動中』
『ヴァルキリー1了解。ヴァルキリー7、そのまま追い上げろ。B小隊に被らせる。ヴァルキリー8、続け』
『ヴァルキリー7、了解です』
『ヴァルキリー1よりヴァルキリー2、貴様は隊を率いてG11からF13へ移動しろ。ケツを引っぱたかれた餌が向かっている』
「ヴァルキリー2、了解っ!」
『ヴァルキリー3よりヴァルキリー1。C小隊全機、E4への移動を完了しました』
『ヴァルキリー1よりヴァルキリー3、そのまま待機だ。首尾良く運べば目の前だぞ。捕捉次第遠慮はするな』
『ヴァルキリー3了解』
 指示を受け取り、機体の操縦に専念しながら速瀬は獰猛な笑みを作る。
 訓練開始から早数十分。一度ロストしたバンデット1―――ヴゥルカーンを、隊形を広げて先行捜索していた築地が発見。相手も一旦は築地機に向かったものの、その背後に詰めていた茜機、伊隅機が追い付くと、即座に反転、現在この演習場を上空視点から見て、東南東の方角へ逃げていく。
 そう、逃げていくのだ。
 留まって反撃するでもなく、また疾走する機体の痕跡も消そうとしない。瓦礫を踏みつけ派手に粉塵を立ち上らせ、轟音を響かせながらA小隊に追い立てられ逃げていく。
 しかし、その先には当初に迂回しておいた速瀬達B小隊が網を張っている。E11方面へ逃げる敵機に対して、F13からD15にかけて斜線陣を張り巡らせている。余程の馬鹿でもない限り、瓦礫の乱立するE11周辺で前衛職とやり合おうとは思わないだろう。となれば、後は反転して南西―――F8やG7などの方角に向かうしか道がないが、それこそ願ったりだ。そこは既に宗像率いるC小隊の射程内に収まっているし、E11とは違い、背の高い瓦礫が無く開けているその場所で下手に頭を出せば、即刻撃ち抜かれるは目に見えている。
 リオにしてみればこちらが散開しているのを逆手にとって、各個撃破を狙ってくるだろう。伊隅は少ない兵力に物を言わせてゲリラ戦を挑んでくると読んだのだ。現に築地機に攻勢に出た時は瓦礫の陰から不意打ちに近い形で飛び出してきた。
 が、裏を返せばそれぐらいしか相手を消耗させる手段がないのだろう。
 新型だっていったって、単機じゃこの程度ね。
 訓練開始前に伊隅に注意を促されていたにも関わらず、少量ながらも嘲りを含んだ内心を速瀬は抑えようともしなかった。彼女からすれば、ヴゥルカーンは逃げまどう哀れな鼠だ。そしてその鼠が今正に自分の目の前に現れようとしている。こちらは手薬煉を引いて見ているだけで、自ずと目標が飛び込んで来てくれるのだ。
 もともと私達全員とやり合おうなんて馬鹿にしてるのよ。
 もはや揺るぎようのない勝利を確信したのか、廃ビルの陰に待機した機体の管制ユニット内で速瀬は力を抜いていた。部隊内共有データリンクに寄ればあと数分もすれば目標……いや、獲物が飛び込んでくる。速瀬達の敷いている斜線陣こそ、まさに相手にとってのデッドラインなのだ。
 あの小生意気なガキンチョに一発痛い目見せてやるわ。
 その光景を想像したのか獰猛な笑みをさらに深める速瀬。とレーダーマップに新たな光点が4つ生まれる。3匹の猫に追われる一匹の鼠の登場だった。
 あと5分。
 その時間は目の前に獲物が飛び出してきてくれるまでのタイムリミット。周囲は瓦礫の山。戦術機1機分の幅しかない道路に視界を塞ぐように建っている朽ちたビル。まるで迷路。その迷路に目標が追い込まれてくる。
 あと4分。
 どうするか。事前の情報で相手の兵装は自分と同じ―――長刀と突撃砲と聞いたし、となると、わざわざ自分が相手取らなくてもアウトレンジから狙撃できる宗像達に任せるという手もある。
 あと3分。
 いや、やはりここは自分の小隊の手でケリを付けたい。朝光中尉と如月少尉も同じ気持ちだろう。むしろ誰があのガキンチョを仕留めるか、と言う次元の話だ。
 あと2分。
 マップで確認する限り目標はまっすぐこちらに向かってきている。怖いくらいに伊隅大尉の予測通りだ。これはもはやB小隊に仕留めろと言っているようなものだ。
 あと1分。
 念には念を入れておこう。
「ヴァルキリー2より10へ。ここに留まり足止めして。11はその援護よ。私は回り込んで背後から狙うわ」
『ヴァルキリー10了解。けどさ、時間稼ぐのは良いけどよ……別に仕留めちまっても構わねぇだろ?』
 速瀬と同じく獰猛な笑みを浮かべ、自信満々に言い切る如月。抜き身の刀を思わせるその表情に、頼もしさを覚えながら速瀬は皮肉を返す。
「出来るんならね」
『へっ、言いやがったな。悪いがてめぇの出番はねぇぞ? 11、後詰め頼むぜ』
『りょ~かいっと』
 こちらも笑みを浮かべた朝光が応える。
 あと30秒。
 移動を開始。逃走中の相手が振動感知装置を使用しているとは思えないが、極力静かに素早く。1ブロック如月達から離れる。あとは待つだけ。
 あと10秒。
 発砲音と回避行動を行っている目標が瓦礫を破壊する破砕音が大きくなってくる。A小隊は見事に目標を追い込んでくれた。ならばそれに応えるのがB小隊の役目。
 あと5秒。
 身を潜めている廃ビルの前の道路を濡れ羽色の機体が駆け抜けていく。一瞬ビルの陰からその姿が見え、そしてすぐに見えなくなる。とはいえ道路は一直線であるし進行方向は分かっている。速瀬機にまったく気付かない様子でその機体は目の前を通り過ぎていた。
 カウント、ゼロ。
「今よっ!!」
 自身の発した声と共にビルの陰から機体が飛び出す。目の前には道路を奔走している筈のヴゥルカーンの背中が見え………なかった。
 網膜投影に映し出されたのは、長刀を構えた不知火とその後方で突撃砲を構えた不知火だけだった。ヴゥルカーンの姿など何処にもいない。
 素早くレーダーマップに目を走らせる。絞ったその盤面には光点が3つ映し出されている。少し離れて友軍を示す青い光点が3つ。そして敵を示す赤い光点は……レーダー上のちょうど中心点に位置していた。
 即ち、自機の存在する場所。だが自機の左右何処にも目標の姿は無い。と、正面に存在する突撃砲を構えた朝光機がその銃口の向きを変えた。
 自機の頭上へと。
 それを認識した瞬間、頭上から肌が震えるほどの圧力を感じた。それ自体が速瀬を押し潰して来るような錯覚と共に、肌に纏わり付いて来るような嫌悪感を感じさせる。
 確認などしている暇はない。周囲を瓦礫に囲まれていては、回避出来る方向が限定される為、正面―――如月達の機体へと飛ぶ。
 それは結果として良くもあり悪くもあった。
 まず一瞬前まで速瀬機の存在していた地面を、上空から降り注いだペイント弾がカラフルに染め上げる。その攻撃を回避出来たのは良いが、前方向に飛び上がった機体は、降下してくるヴゥルカーンと狙いを定めた朝光機の射線軸上にその身を躍らせてしまった。
 敵味方識別装置(IFF)によってトリガーセーフティーが掛かり、朝光の構えた突撃砲はその口から銃火を迸らせることが出来ない。意図してかどうかは分からないが結果的にヴゥルカーンは攻撃を防いだことになる。
 背後で重量物がアスファルトに激突する轟音が響く。踏み潰す気か、と背筋に嫌な汗が流れる。躊躇いなど全くない着地だ。
 回避し損なってたらどうなってたと思ってるのよっ!?
 内心で怒声を吐き出しながら目標を捕らえる為機体を反転。装備していた長刀をラックに収納し、代わりに突撃砲へ変更。一瞬一秒を争うこの状況ではその作業すらもどかしい。
『突っ込むぜ! 援護しろ!!』
『はいはい、いつものことだもんねっ!』
 速瀬機の隙を補う為、如月が前進。朝光が援護射撃。だが狙いが甘い。牽制射だ。相手の周囲に弾をばらまき、動きを阻害するのが目的である。
 それに対して、衝撃吸収の為の着地後硬直を跳躍ユニットの再噴射によって相殺した闇色の機体は、敢えてその場から動かず牽制射を回避。如月を迎え撃つ。こちらと同じ87式突撃砲が突貫する如月の機体目掛けてペイント弾を吐き出した。
 小刻みに左右のステップを駆使して回避行動を行う如月。だがそのお陰で接近スピードが一旦落ちる。しかも狭い通路上、左右に動き回る如月の機体は朝光と速瀬の射線を妨げる結果となる。
『ああん、もう! らぎっち邪魔になってる!』
『無茶言うなよ!』
 射線を塞がれた朝光が叱責するが、回避中の如月にそんな余裕はない。
 だが相手方にとってはそれで充分だったようだ。壁となってくれた如月機に対して目標は片膝を付いた。その左肩から砲身が生える。そこから一本の赤い線が如月機の胸部に延びた。
 照準目視用のレーザーポインターと判断した如月が機体を前進させようとする。その赤い線が何を示しているかも気付かず彼女は機体を操作した。
 だが、その機体が動きを止めたのとCPが言葉を発したのは同時だった。
『如月機、管制ユニットに被弾。致命的損傷、機能停止』
『………へ?』
 随分と間の抜けた如月の声。
 それもそうだろう、彼女の機体に被弾を示すべきペイント弾は、一発たりとも命中していない。命中もしていないのに何故撃破されたのか。襲いかかってくる銃火を避けながら、速瀬は記憶を引っ張り出す。
 その脳裏に宗像の呟いた言葉が思い浮かんだ。
 ―――おそらくは、電磁投射砲らしき物―――。
「……なるほどね」
 そうだ。目標の左肩に装備されている兵装、あれはレールガンと言っていた。それならば先程の光景も納得がいく。
 電磁力によって弾帯を発射するレールガンは、理論上弾速が光速近くまで跳ね上がる。勿論そんな物が回避可能なわけはなく、発射された次の瞬間には被弾しているというのが現実だ。それにいくらペイント弾を使用すると言っても、光速近くで吐き出される衝撃はそれだけで凄まじい物だし、もしも弾帯がプラズマ化すればもはや模擬戦闘等というレベルではなくなる。それ故レーザーポインターという照準形態を取ったのだろう。
 が、今はレールガンについて講釈している場合ではない。幸いなことに目標はレールガンの発射には一時動きが停滞する。そこに注意しておけば直撃を貰うこともないだろう。
「11、援護を! 目を逸らさせて!!」
 多目的追加装甲を構え、身を潜めていたビルの陰から躍り出る。
『ちょっ、みっきー!? ああん、もうっ!!』
 何やら反論したかったようだが、飛び出した速瀬を見るとそんな気も失せたのだろう。噴射跳躍によって手近なビルに飛び乗った朝光が、速瀬の背後上方から援護射撃をかける。これで味方誤射の心配は無し。そう判断した瞬間、機体に衝撃が走る。瞬く間に追加装甲の状態を示すステータスが青から黄色、そして赤へと変化していく。もう数秒も保たないであろうその追加装甲を放り出すと同時に、速瀬は機体に水平跳躍を行わせた。
 追加装甲が無くなり開けた視界。突っ込みながら保持していた突撃砲を目眩まし的に投擲。同時に兵装を変更。
 目標は長刀をその場に放り出し目の前に迫る突撃砲を開いた左手でキャッチする。だが僅かに態勢の崩れた闇色の機体目掛けて、速瀬は大上段から袈裟懸けに長刀を振り下ろした。
 それに対して朝光機の銃撃を回避していた目標は、速瀬の投げ付けた突撃砲で振り下ろされる長刀を防ぐ。実剣で有れば突撃砲など軽く両断するであろう単一カーボン形成の74式近接戦闘長刀も、今回は刃を潰したただの発泡樹脂製模擬刀だ。保持していた突撃砲は使用不能になったが目標の機体には何の損傷もない。密着状態になり、誤射を嫌った朝光の援護が一瞬途切れる。
 そして破壊された突撃砲で速瀬の長刀をいなした濡れ羽色の機体は、突撃砲を投げ捨てると同時に速瀬の機体目掛け手を伸ばし、腕を掴む。
 何を、と速瀬が内心浮かんだ言葉を最後まで言い切る前に、闇色の機体の両肩から盛大に炎が噴出する。そして次の瞬間には目標は自機を中心にして九十度方向転換、自動的に引きずられる形となった速瀬機はそのまま振り回され手近なビルに叩き付けられる。
「ぐっ!!」
 凄まじいまでの衝撃。振り回された事による急激なGの変化と叩き付けられた衝撃で意識が一瞬持っていかれた。
『速瀬機、下腿部に……中破程度の損傷。朝光機、左脚部に被弾、機関部に被弾、管制ユニットに被弾。致命的損傷、大破』
 朦朧とする意識の中、淡々と報告する声が聞こえた。
 これで2機目、すでにB小隊は自分のみ。接敵から5分もたたない内にこの有様だ。一体何故だ? 目標はただ尻尾を丸めて逃げるだけの鼠ではなかったのか?
 動こうとして拉げた鉄骨に引っ掛かり、機体は瓦礫の中で藻掻く。小さく舌打ちをして、もう一度這い出そうとした。
 と、視界に陰が掛かる。
 網膜投影で視界に陰が掛かるとはおかしな話だが、現に目の前に日光を遮る原因が立っているのだ。その原因がゆっくりと拾い上げた長刀を構えた。焦って操縦桿を動かしても機体は鈍い悲鳴を上げるだけ。目の前の機体はそんな速瀬を嘲笑うかのように長刀を横振りに構える。
 と、唐突にその頭部を巡らせ、まるで円盤投げをするかのように長刀を横方向へ投げつけた。
『うえぇぇぇ!? 嘘ぉっ!?』
 通信機から築地の信じられないと言った感じの声。それに応えたのはCPからの通信。
『築地機、左腕大破』
 マシンガンなど比較にならない重量物を取り廻すACの腕部は、それ自体がとてつもない膂力を保持している。腕部兵装の中には敵に殴りつける物もあるのだから当然なのが、そんなことはついぞ知らない戦乙女は、よりにもよって長刀を投げ付けてくるなど思いつきもしなかったのか、見事に一撃を貰ってしまった。
 兵装を投棄するというのは理解出来るが、投げ付けるというのはコスト面において効率が悪い。下手をしたら使い物にならなくなるからだ。
 だがそんなことを気にせず長刀を投げ付けた目標は、そのまま噴射跳躍によってその場を離脱していく。一時遅れて彼の存在していた地面に斑に咲き誇る極彩色の花々。A小隊の弾幕射撃だが、一発たりとも直撃していない。目標は朝光の機体から突撃砲を盗んで後退していく。
 だが、目標を操るパイロット―――リオは一つミスを犯した。間抜けなことに速瀬にトドメを刺さずに後退したのだ。
「あんの……後悔させてやるわ……!!」
 ギリッと奥歯を噛み締め、ようやく瓦礫から抜け出す。ぶつけられた衝撃で跳躍ユニットと下腿部に不備が出ているが大騒ぎするほどではない。
 まだいける。
 まだ戦える。
 速瀬の瞳に憤怒の炎が灯った。



『何で当たらないのよっ!?』
『茜ちゃぁん! 突っ込みすぎだってばぁっ!!』
 目標に涼宮が追い込みを掛ける。が、突撃砲二丁分の弾幕によって思うように距離が詰められない。それどころか釘付けにされており、ジワジワと押し負けている。それを援護しようと築地が側面から回り込むも、まるでそれを見越しているかのようにその進路上にペイント弾がばらまかれる。一丁で涼宮を釘付けにし、残る一丁で我々を牽制しながら後退している。
 敵側から、我々を近づけたくないと言う意図を感じ取られた。
「やはり近接戦闘を嫌うか……」
 事前情報によれば、目標は中距離戦闘が主体らしい。我々A小隊と同じと言うことだが、弾幕が精密すぎて下手に接近出来ないのだ。両手の兵装を時に同一目標に、時に左右の別目標に指向させる。目標の搭載FSCの並列処理速度も凄まじいが、それを可能にする衛士の腕も同じと言うことだろう。下手に近づけばそれこそ蜂の巣にされる。
 しかしそれならば、上手く近づける状況を作ればいい。
「ヴァルキリー8、目標の後退をこれ以上許すな、迂回して背後から迫れ。7、ヤツの注意を逸らせ、8の支援だ」
『了解!』
『了解……ってどうしろって言うんですか、大尉。下手に頭出せばそれこそ的になっちゃいますよ』
「貴様の機体が装備している四丁の突撃砲は飾りか? 私が援護する、噴射跳躍で目標の頭上から攻撃を掛けろ」
『りょ、了解』
「よし、行くぞっ!」
 後方に控えていた自機を、いかにも焦って飛び出してきたと言う風に目標の眼前に晒す。ここで食い付けばそれで良し、よしんば食い付かなくても、それこそ私が自由に行動出来る。目標が保持しているのは二丁の突撃砲、対してこちらは3機、一斉に掛かればどれか1機が自由に動ける。
 B小隊が壊滅した時点で、単機に対して1小隊で充分などという先入観は綺麗に吹き飛んでいる。ならば戦力の小出しこそが愚策、火力の集中による制圧の方が手っ取り早い。
「ヴァルキリー1よりヴァルキリーマム。C小隊の現在位置は?」
『現在A小隊の左側面を回り込むようにG7に向かって南下中』
「当初の目標地点とは違うが……ヴァルキリー1よりヴァルキリー3、我々が追い込みを掛ける。目標の足が止まり次第叩き込め」
『了解。聞いたなC小隊? 大尉達に楽をさせる為にも一撃で仕留めるぞ』
『りょ~かい』
『了解です』
 こんな時でも気楽な柏木とこんな時でも冷静な風間の声が耳に響く。予定は狂ったが、まだまだ修正出来る範囲だ。視線を向ければ、徐々にだが目標が開けた場所へと追い込まれていく。
「ん……?」
 それに気をよくしたのか、後方から援護射撃を行っていた築地が、休息か油断か一瞬足を止めた。
 戦場で動きを止めることは死に繋がる。そのご託に漏れず、動きの留めた築地機に迫る機体。伊隅が上げようとした叱責の声は間に合わなかった。
 迎え撃とうとした築地機に対して、寸前で進路変更。彼女を中心にして右円軌道、まるで滑るように回り込んでいく。
 対処しようにも左腕を大破している築地機の攻撃手段は右腕の突撃砲のみ。人間と同じ構造をしている戦術機だが、今回はその構造が仇となった。左側に居る相手に銃を向ける場合、左手と右手ではごく僅かな時間だがタイムラグがある。これがもしも戦車のような旋回式砲塔で有れば問題など無かったのだが、いずれにせよ築地機の側面に回り込んだ目標は、そんな隙を見逃すほど甘くはなかった。
 ほぼ密着状態で横腹にペイント弾を叩き込む。
『築地機、機関部に被弾、管制ユニットに被弾。大破』
 バストアップで映っていた築地の映像が途切れる。これで3人目が「死んだ」。
 撃破した築地機に寄り添うように動きを止める目標。お返しとばかりにそれに猛然と挑み掛かる涼宮機。相も変わらずというか、またしてもというか、頭に血が上っているようだ。
 小刻みに機体を動かしながら接近する機体に、目標はその場から動かず、視線を投げ掛ける。そして両手の突撃砲を向けた。
 私の方へと。
 進路上に盛大にペイント弾がばらまかれる。回避行動に移り、避けきれないものは追加装甲で防ぐ。小さく一つ舌打ちをして、私は機体を後退させた。築地機に執心していた目標に対して、不意を突いたつもりだったのだが、既に気付かれていたのだ。随分と勘がいいようだ。
 そんな事を考えている内にも身を隠しているビルの壁面に次々と着弾するペイント弾。これが実弾ならばとっくにビルごと瓦礫になっている。
 釘付けになっている私を援護しようとしたのか、涼宮機が突撃砲を全て前面に廻す。彼女のポジションである強襲掃討は、機体1機につき四丁の突撃砲と隊内では随一の面制圧力を持つ。その四つの銃口が目標に死を吐き出そうと言わんばかりに陽光を浴びてギラリと光る。
 どう避けるにしろ、一旦は私への攻撃を留めなければならない。その隙に打って出ろと言うことだったのだろう。
 しかし、目標は完全に私の予想外の行動に出た。右手に持っていた突撃砲を頭上へ空高く投げ上げる。その行動に一瞬虚を突かれ一拍遅れで発砲する涼宮機。彼女の火線が濡れ羽色の機体に突き刺さる寸前、漆黒の左手が閃き、自身の側にあった巨大な鉄の塊を引き寄せる。
 攫座した築地機を。
『なっ!?』
 誰かの驚愕に満ちた声。
 撃破された機体はIFFを発信しない。そんなことをすれば戦場で撃破された時、機体の残骸が味方のトリガーセーフティになってしまうからだ。だから、機能を停止した戦術機は文字通り
「遮蔽物」だ。
 何の躊躇いもなく築地の機体を自分の眼前に引っ張り出す濡れ羽色の機体。全高が不知火より低いことを利用した戦術機の「盾」。すっと身を隠した目標の身代わりにされた築地機が、地の色など分からない程に極彩色に彩られる。
 意図的に引き起こされた味方誤射に思わず動きを止める涼宮機。それを確認したのか目標は掴んでいた「盾」を放り出し、頭上から振ってきた物体を見事に右手に掴み取った。
 それは先程投げたはずの突撃砲。
 戦術機がクイックドロウを行うなど聞いたことがない。眼前のあり得ない光景に思考が停止する。
 そうあるべきと決められていたかのように綺麗に漆黒の手に収まった突撃砲が火を噴き出す。
『涼宮機、頭部に被弾、右脚部に被弾、胴体部に被弾、致命的損傷。大破』
 驚愕を含んだCPの声。だが、私にそれを聞き取っている暇はなかった。涼宮機を撃破した目標は、突撃砲の豊富な装弾数を利用して、弾幕を張りながら近づいてくる。
 それに対して私は動かない。相手は油断している。こちらを馬鹿にしているのか、ゆっくりとした歩調で近づいてくる。
 だが、追い詰められながらも私に焦りはなかった。レーダーには既にその原因が映っている。目標は気が付いていないのか、私に掛かりきりだ。
 随分と嘗められたものだ。ふん、と小さく私は目標の油断を笑ってやった。
 その油断が命取り。ふと何かに気が付き頭部を巡らす目標。慌てたように機体が後退する。
 だが、遅い。
 87式支援突撃砲から発射された2発の銃弾が、まっしぐらに目標に突き刺さる。しかし、よほど反射神経が良いのか、1発は回避され、もう1発は眼前に掲げられた突撃砲に防がれた。
 だが、不思議なことに目標が動きを止めた。被弾した突撃砲をじっと見つめているのだ。
 何故動きを止めたかは分からないが、隙が生まれたのは事実。
 銃弾の雨が止んだことによって自由になった自機に突撃砲を構えさせ飛び出す。だが銃口が指向した先には目標の姿はなかった。
『大尉、上です!!』
 風間の声。思わず機体に上を見上げさせる。太陽光を遮りながら、あまりにも暗い機体が上空に飛び上がっていた。
 噴射跳躍にしてもとてつもない上昇高度。しかし裏を返せば、その高度分落下機動が読みやすい。保持する兵装を構える。落下してくる目標の直下に弾幕を形成しようと照準を合わせた。
 そのロックシーカーの中で、ふと、何の前触れもなく目標の背部の装甲板が開いた。私は気に掛けずトリガーを引く。
 4人の発射した3桁に上るペイント弾が身動きの取れない空中の目標に襲いかかり、その身を染め上げる。
 筈だった。
 銃口から発射された銃弾が望んだ地点に到達した時点で、もはやそれらが牙を突き立てるべき物体は存在していなかった。
 遙か先、まるで空中から襲いかかる猛禽類のようにそれはC小隊に迫る。機体の背部から過剰とも言える推進剤の噴射炎が見えた。
 普段の愚鈍な印象からは想像も出来ないほどの暴力的な速度を保持して、機体はC小隊に迫る。慌てて宗像達が迎撃するも、慣性を無視して空中を蹴るように進路を変化させるその機体は、1発たりとも被弾しない。まるで飛んでくる銃弾が見えているかのように、軽々と回避する。
 ポジションの名に相応しく、飛び込んでくる目標を迎撃しようと躍起になる宗像。彼女を嘲笑うかのように迎撃の火線を回避し、あっさりと肉薄する目標。文字通り「飛行」し、背部からまるで光の翼と言えるほど推進剤を爆発させて空を翔け、彼女たちの目の前に現れる。そして頭部に在る3つの目を輝かせ、翼を消し去り地面に降り立った鋼鉄の巨人は、付いた慣性そのままにあらゆる物を巻き込んで地面を削り、そのままC小隊に突っ込んでいく。
 突撃級の突進にも劣らないその迫力に、慌てて道を空ける3機の不知火。彼女たちを追い越した瞬間、目標の肩部から連続して炎が吹き出す。まるで独楽のように機体が180度回転。追い越した目標にC小隊が攻撃を加えようと振り向いた時には、既にその漆黒の手は突撃砲を構えていた。
『やぁ』
 無邪気な、それでいて悪寒を生み出す声が、この訓練で初めて聞こえた。宗像が何か指示を出したようだが、近距離の発砲の轟音に掻き消される。
 突撃砲を保持した腕を左から右へ。まるで薙ぎ払うかのように、ペイント弾の網が出来る。C小隊の3機を跨ぐように、機体にそして周辺の瓦礫に一直線にどぎつい線が引かれた。
『宗像機、風間機……柏木機、機関部に被弾。大破』
正確に致命傷を与え、一挙に3機も撃破されたことに、現状報告を行うCPの声が僅かに震えを帯びていた。だが目標は私に感傷に浸る時間も与えてくれない。
 目標は弾が切れたのか突撃砲を投げ捨てると、動きを止めた柏木の機体からもぎ取るように支援突撃砲を奪い取り、狙撃を行ってくる。
 87式突撃砲の銃身を延長した87式支援突撃砲は、連射速度こそフルオートからセミオートに落ちているものの、精度に至っては比べるまでもなく向上している。いざ撃たれてみるとその精度に驚かされた。打撃支援と砲撃支援の装備とは言え、敵に回ればここまで恐ろしい物か。
 直撃を受けた衝撃の中、私は意外と冷静にそんな事を考えていた。
『伊隅機、右腿部に被弾。運動性大幅に低下』
 仮想損傷によって戦術機が膝を付く。身動きが取れなくなった。
 と、確実にトドメを刺したいのか、目標がわざわざ近づいてきた。身動きの取れないこの状況では回避行動など出来るはずもないのに、それでも念には念を入れるのか至近距離にまで近づいてくる。
 そこでようやく解った。
 鼠は私達の方だったと。
 我々が追っていたのは鼠などではなく、牙を隠した化け猫だったのだ。
「……っ」
 小さく唇を噛みながら、私は認識の甘さを叱責した。
 だが、日本には古来よりこのような言葉がある。
 窮鼠猫を噛む。
 そう、正に目の前の猫に向かって、鼠が最後の一太刀を浴びせようと飛び出してきた。
 長刀を構えた速瀬機が。
『こんのぉぉぉお!!』
 気合いそのまま一気に肉薄しようとする速瀬機。そのまま無視すれば後ろからバッサリ。目標の注意が速瀬に逸れれば私の機体が装備している短刀が、闇色の装甲に突き立つ。どちらにせよ、仕留められると予想した。
 だが、最後の最後まで目の前の機体は予想を超えていた。
 背後から最大戦速で迫る速瀬機。それに対して目標は視線を向けるまでもなく、右手に保持していた支援突撃砲を肩越しに担いだ。後ろに目でも付いているのかと錯覚させる程に、肩越しに背後を睨んだ銃口は正確に速瀬機との直線上に位置している。それに気が付き回避しようとした速瀬機は、
『速瀬機、下腿部破損、大破』
『何ですってぇぇぇええ!?』
 よりにもよってこの状況で、脚部から鈍いを音を立てて無様に動きを止める。
 伊隅は知らないがそれは先程ビルに叩き付けられた時に発生した不具合。まるでこの時の為に取って置きましたと言わんばかりの最高の、そして速瀬にとっては最悪の状況での故障。損傷した脚部では回避もままならない。
 火を噴く支援突撃砲。綺麗に胴体中央部に一発だけ直撃するペイント弾。
『速瀬機……機関部に被弾。致命的損傷……大破』
 今度こそ、確実に、CPである涼宮遙の声は震えていた。
 そして背後からの脅威を苦もなく撃破した目標は、再び私に銃口を向ける。
 ああ、そうだ。
 いくら鼠が猫を噛んだって、そのあとに怒り狂った猫に返り討ちに合うのが決まっている。もはやチームで挑まなかった時点で、私達の負けだったのか。いや、そもそも相手は猫だったのだろうか―――。
 軽い衝撃が、機体を襲った。
『伊隅機、管制ユニットに被弾。………大破』



 ハンガー内、汚れた機体を背に、話し声が聞こえる。
「築地機に仕掛けたあと、何故か後退したな。それは?」
「各個撃破より乱戦にした方がやりやすいと思ったので」
「と言うことはわざとB小隊に向かっていったてこと?」
「そうですよ」
「じゃぁ、私達の作戦って全部筒抜けだったの?」
「いいえ。B小隊に向かったとは言っても追い込まれたのは事実ですし、宗像中尉達に気付かず狙撃を貰ったのもボクのミスです。ただ……」
「ただ、何だ? 構わないから言ってみろ」
「はぁ……ただ、ボクに対して畳みかけるタイミングが遅すぎるんですよ。まるで味方が前に出れば自分が攻撃しなくても良いって思ってるように感じるんです」
「そんなつもりはなかったが……なるほどな」
「それぐらいですか?」
「いや、まだある。C小隊から狙撃を受け、貴様は噴射跳躍を行った。そこまでは理解できたがその後貴様の機体は一体何をしたんだ? 匍匐飛行にしては機体の体勢が不自然だったのだが……」
「狙撃を受けた後? ……ああ、OBを使用しての回避行動ですね。それが何か?」
「そのOBとは……」
 伊隅の問いかけを手を挙げてリオが遮る。上官の言葉を遮るなど許されざる行為だが、伊隅は気に掛けていないようだった。
「スミマセン。アレに関してはあんまり教えられないんです。副司令からの命令で。ただ推力の桁違いな噴射ユニットと取って貰えれば結構です」
「……上位命令なら仕方ない、か。まぁいい。では最後だ。速瀬を撃破した時、貴様は視線すら向けなかったが彼女の機体が動きを止めることを知っていたのか?」
「いいえ、勘です」
「それじゃ私は勘で撃破されたって事!?」
「そうなりますね」
「………」
「速瀬、落ち込むのは後にしろ。さて他に質問は?」
「「「「「「「「………」」」」」」」」
「無いようだな」
 誰からも手が上がらないことを確認して、伊隅は話を打ち切った。それと同時に、はぁ……と何人かから重い溜息が漏れる。
「さて、本来なら此処で解散と言いたい所だが……私達にはまだ「仕事」が残っているぞ。手早く終わらせろよ」
「くっそぉぉおおお!!」
 現実を突き付けられた如月と速瀬が頭を抱え唸っている。その横では朝光と柏木が苦笑いを浮かべ涼宮姉妹と築地は若干表情に陰を落とし、宗像と風間は外見上は普段通り。もっとも内心はどうかしらないし、伊隅も珍しく苦み切った表情をしている。
「まぁ、なんつーか………」
 脇に控えていた緋稲田が、彼女たちの苦悩の原因を見上げ呟く。その周囲の整備兵達も、笑いをかみ殺していたり、苦み切った顔をしていたり、哀れな視線を投げかけていたり、鼻息荒くしていたりと千差万別だ。
 それはそうだろう。今から世にも珍しい『戦乙女達による戦術機の洗浄作業』が行われてるのだから。
『模擬戦闘で負けた衛士は、ペイントされた自機を自分の手のよって綺麗にしなければならない』
 それが機体を整備する整備兵達と機体を操る衛士達の間で生まれた暗黙の約束だった。というか、ただ単に自身の不始末で汚れたんだから自分で綺麗にしろと言う事なのだが。
 何にせよ、緋稲田も見た事のない、ヴァルキリーズ雑巾及びモップ装備型(三角巾+エプロン着用)。強化装備の上から直に纏ったその姿は、ある意味面白い。
 小隊毎というのは何度か目にした事はあるが、全員というのはそうそう目に出来る物ではない。精鋭部隊でありながら美女揃いのヴァルキリーズ、そんな彼女達が掃除三種の神器と呼ばれるエプロン、三角巾、箒の内二つも装備しているとなれば、それはもうかなりの「特殊」な光景だ。
 現に数人が、いや、十数人の整備兵が先程のデブリーフィングの途中にも出血多量によって医務室に運ばれている。主に鼻孔からの出血によって。
 で、その光景を作り出した張本人は、自身の巻き起こした惨劇など露知らずと言った風に1人離れ、身近なコンテナに座り込んで脚をブラブラ揺らしていた。
 機体の汚れていない彼に、伊隅の言う「仕事」はないのだ。
「お前さん、凄まじい事をやってのけたな」
 自身の横に居る少年に向かって緋稲田はそう言葉をぶつける。対して少年は視線を向けてくるでもなく、ただ退屈そうな目をしていた。随分と不躾な態度だが緋稲田もさして気にした様子はなく、言葉を続ける。
「あの嬢ちゃん達を壊滅させるなんざ並の部隊じゃ絶対無理だ。腕のいいヤツらだって部隊間戦闘で2、3機墜とせりゃ良い方なんて言ってんだ。それがどうだ? 結果は向こうの全滅、こっちは単機でそれをやってのけておまけに被弾は1発も無したぁ、俺は最初夢かと思ったぜ」
 その言葉に、退屈そうな表情に不機嫌を混ぜて言葉が返ってくる。
「無しじゃありません。1発貰っちゃいましたよ」
「あん? 突撃砲の事か? あんなもん被弾の内に入んねぇ。そもそも消耗品である武装にくらった所で誰も責めねぇよ」
「でも当たった事には変わりません」
「あのなぁ……」
 どうした物かと緋稲田は思う。先程から退屈そうにしているこの少年、実は訓練時に貰った1発がどうしても気になるようだ。
 機体に直撃したならいざ知らず、兵装が破壊されるのは良くある事だ。緋稲田が今まで見てきた中には、追加装甲の代わりに長刀を盾にした衛士もいる。兵器は1日で補充できるが、衛士はそうはいかない。その点兵装より自身を優先するのは当然の事だ。それを目の前の少年は深く考えすぎている。
 その銀色の髪の毛をやや乱雑に掻き回す。
「訓練の目的は自身と仲間の腕を高める事だ。撃墜した、されたは二の次なんだよ。もちろん当たった、避けたもだ」
「でも実戦なら……」
「やかましい。大体何だってそんな深刻なんだ? 武装に貰うのがそんなに嫌だったのか?」
 冗談交じりでそう茶化した緋稲田の言葉に、リオは小さく唇を噛んで応える。その表情は不機嫌の成分がさらに増大し、そして後悔が僅かに混じっていた。いぶかしんだ緋稲田が次の言葉を口から吐き出そうとした瞬間、場の空気を無視する声が背後から聞こえてきた。
「これはまた……随分と斬新な迷彩塗装ねぇ」
 少年と中年が揃って背後に目を向ければ、そこには白衣を着た美女が1人。横浜基地が副司令、香月夕呼その人である。それを確認してリオは表情を嫌そうに歪め、緋稲田は軽く手を挙げた。
「副司令がわざわざこんな所へ何の用でしょうか?」
 敬意の念など一欠片もない、形だけの敬語で緋稲田は香月に尋ねる。と言っても嫌味などではなく、どちらかというと親しい仲の人間がからかいの意味で発した感じだ。
「特に用なんて無いわ。ただ伊隅達がここまで迷彩柄が好きだったなんて知らなかったから、珍しい物が見られると思って来ただけよ」
 もちろん、迷彩柄というのはペイント弾による汚れの事だ。よっしゃぁ!! と如月が上げた気合いの一声によって一心不乱にその汚れを落としている彼女達を見上げながら香月は嫌みったらしく言う。聞こえていようがいまいが一向に構わないと言った表情だ。
「珍しいって言葉には同意しますがね、副司令とも有ろう御方が暇つぶしでこんな所に来るとは思えません」
「あら、本当に暇つぶしできただけよ? まぁ主任に見て貰いたいデータがあるからそれ持ってきたついでね」
 そう言って白衣の胸ポケットからMDを一枚取り出す。
「わざわざ? 端末で送ってくれればいいんですがね」
「言ったでしょ? 珍しい物を見に来たって」
 本当に嫌みな女性だ。緋稲田もこれ以上相手するのを嫌って本題の方にすり替える。
「さいですか。中身確認しても?」
 顎を引く香月を見て取った緋稲田は、受け取ったMDを身近な携帯端末に放り込みに席を外す。
「……で、何か意味が有る訳?」
 緋稲田が席を外した途端、香月が言葉を発する。その言葉の真意を掴めず、眉を顰めて視線だけを投げ掛けてくるリオ。
「何がですか?」
「あら、気付いてなかったの? ……無意識のうちにやってたってことかしら」
「だから、何がですか?」
「あれよ」
 綺麗な指で洗浄されていく9体の戦術機を示す。別段不自然な所はない。
 いつまで経っても疑問符を頭の上に浮かべているリオに、いい加減痺れを切らしたのか香月自らが説明し始める。
「あの子達の機体、全機機関部か管制ユニット、それか胴体に直撃してる。これがどういう意味か、詳しく言わなくてもあなたなら分かるわよね?」
「…………?」
 本気で分からないといった風のリオ。鈍いわね、と香月が呆れ口調で言い放つ。
「実戦だったら全員死んでるって事よ。脱出する間もなくね」
「ああ、そういうことですか」
 ようやく合点がいったのか、リオは納得顔を浮かべる。
 人間という物は、習慣事に意外と気が付かないものだ。身近な現象故に日常の一部として認識され、やがてそれが当たり前になる。今回の場合、リオが全機の機関部か管制ユニットを狙った事も、彼にしてみれば至極当たり前の事なのだ。故に気付かなくとも無理はない。
 だが自分の常識が必ずしも相手の常識とは限らない。リオにとって致命傷となる部分を狙うのが常識でも、香月にとってはそうではないと言う事だ。いや、それ以前に先程行った訓練は相手を全て行動不能にすれば良い、と言う内容だった筈。
 それならばわざわざ管制ユニットなどを狙わなくても、弾をばらまき脚部や椀部を狙えばそれだけで充分無力化できる。人間と同じ構造である以上、両手が潰れればその機体に出来る事は何もなくなると言う事だ。同じように脚部を潰されれば、動きが停止するし狙いも変更できなくなる。
 そして一番重要な事がある。それはこちらも相手も両者とも動いていると言う事。停止目標ではなく、機動予測の出来ない対人戦闘だった訓練。そんな内容だったにもかかわらず、仮想上であってもリオは相見えた全員を「殺して」いる。
 その難易度は推して知るべし。例えて言うなら目の前を不規則に飛び回る蠅を、自身も動きながら拳銃で撃ち落とすような物だ。当てるだけでもかなりの腕が必要なのに、それで致命傷を与えるなど尋常ではない。
 図らずとも今回の訓練で、リオは自身の実力を戦乙女全員に嫌なほど見せつける事となったのだ。
「ホントに分からなかったの?」
「はぁ……」
「……呆れた。ま、いいわ。無駄ではなかったようだし」
 洗浄作業を行う戦乙女を目にして香月は一つ大きく嘆息し、もう良いわ、と言い残しその場をあとにする。
 ただ去り際に「程々にしておきなさい」と言い捨てて言ったのだが、ぽつねんと置き去りにされたリオは、その言葉の意味をくみ取れず、疲れたように目頭を揉みながら帰ってきた緋稲田に疑問の表情を向ける。
 もちろん先程まで席を外していた緋稲田がその疑問に答えられる訳はなく、きょとんとした顔をつきあわせる少年と中年。
 その背後で1機だけ無傷のヴゥルカーンが、光の消えた複眼で眼下の光景を見つめていた。



 後書き



 此処までお読み頂き有難うございます。筆者のD-03です。
 予定通り模擬戦と相成りましたが、少しでもヴゥルカーンの強さが皆様に伝われば幸いです。「撃ち負けはせんよ……当たるのであればな」と、盛大に薬莢をばら撒いた戦闘シーンでしたが、如何でしたでしょうか。これでもまだ機動は鈍いほうです。
 もっとも今回はリオの勝利となりましたが、今後ヴァルキリーズにXM3が搭載される予定ですので、次回以降は一筋縄ではいかないでしょうね。
 それと今回も小ネタを仕込んでみました。「宗像はオペレーター向きの声」と聞いてぴんと来る方は地底人です。大仏を仕留めて来て下さい。
 さて、この回からしばらく訓練風景が続くと思われますが、何卒クーデターまでは御容赦ください。
 では、次回もどうぞ、リオにお付き合いください。