根刮ぎ。
その言葉がぴったりの惨状がリオの周囲に広がっている。デカブツ、蠍もどき、大口、象鼻、芋虫、巨大蜂と周囲に転がっている生体兵器は選り取りみどりだ。しかし、殆どの個体が原形を留めていないのでどれがどれやら分からない。
元々暗い色合いだった機体は、返り血によって既に迷彩のように色が斑になっている。もっとも、深い黒と紅が混じった色合いを、迷彩と呼べるので有ればだが。
既に何匹目かも解らない小型種を吹き飛ばしていたリオの目に、妙な光景が映った。
「? ……なにやってんだろ」
自分が倒した巨大蜂に、周囲の機体が2機ほど向かっていく。その行為の真相は不明だが、何かしらの意味があるのだろうか。
と、思考しながら突如機体を後退させるリオ。寸前まで機体が存在していた空間を、左から尖った前腕が通過する。側面から迫っていた蠍もどきを周囲の残骸の一部に変えるとと、今度は後方からデカブツが接近。しかも先程仕留めた蠍もどきの方角からももう一匹迫って来る。正面には新たな巨大蜂が居るし、さらに右からは先程潰した連中の仇討ちなのか小型種が迫ってくる。
「いい加減に……」
ウンザリという気分を隠しもせず呟くリオ。その呟きが聞こえたのか、より一層速度を上げる。デカブツと巨大蜂。両者の巻き起こす地響きの所為で、機体が揺れる。
対処法としては一方向を集中火力によって潰し、そこから脱出。反転して脅威度の高い個体から潰していくのがセオリーだろう。この場合は接近スピードの高いデカブツ辺りが妥当だ。
相対距離の最も近い後方より迫るデカブツに叩き込もうとWH05BPを構え………ふと、リオの頭に妙案が浮かんだ。。
弾が少ないし、それにこの位置関係なら面白い事が出来るかも。
内心ほくそ笑むのリオの事など歯牙にも掛けず、迫る生体兵器。それに対し、冷静に距離とスピードを測る。
「もうちょっと………よーしそのまま、いい子、いい子」
完璧に馬鹿にしている。だが、知能など無いに等しい生体兵器は物の見事にリオの思惑通りに動く。
四方から迫る個体の距離を測る。その丁度中心に位置するように機体を移動。
僅かに接近スピードの遅い巨大蜂に近づく闇色の機体。だが、攻撃するまでもなくただ誘き寄せるだけ。ただひたすらタイミングを待つ。
そしてその「瞬間」は来た。まず前後から巨大蜂とデカブツが自身の持つ攻撃手段を用いて闇色の機体を狙う。
後方より迫ったデカブツがあわや機体に衝突する瞬間に、まるで馬跳びのようにジャンプでその甲羅を飛び越える。そこへ頭上から迫ってくる巨大蜂の針。が、これも予測済み。空中で機体を捻り、僅かな差で振り下ろさせる針を回避。直上より振り下ろされた針は、真下にいるデカブツに突き刺さる。それを見届け、後方ジャンプによりその場を離脱。
同じ素材ならスピードの付いている方が勝つ。しかも針の方には、振り下ろす力と重力によって運動エネルギーが加算される。
その結果、まるでハンマーのように叩き付けられた針は、デカブツの甲羅を見事に叩き割っていた。そして副次的な作用を、その不幸なデカブツに与える。
突き刺さった場所から白煙を上げ始めるデカブツ。その傷口は、まるで何かに浸食されるかのように広がっていき、最後には甲羅の下の胴体に穴が空き、大量の臓物らしき物が流れ出る。流れ落ちたそれすら溶かして、地面の上に溜まっていく液体。それが白煙を上げ始める。
「うわ……酸か……」
しかも超強力な。その証拠に、接触からものの数秒と立たずに、デカブツは酸によって甲羅の下は原型を留めないまでに溶けていた。しかし、そのデカブツの不幸はまだ終わらない。
遅れて左方向より到達したもう一匹のデカブツが、溶けた同僚の残骸に接触。既に覆うべき物の無くなった甲羅をはじき飛ばす。自分の体を覆うほど巨大な物とは言え、接触した方もかなりのスピードが出ていた。その結果、ぶつかった甲羅は飛ぶのではなく、転がる。
しかも酸によって強度の落ちていた甲羅は、転がった衝撃で大小の破片に分解した。人間程からACのコア程の大きさまで様々な破片が、まるで散弾のようにばらまかれる。
もちろん左からぶつかったのだから、転がる方向は大体限定される。
そしてその方向には十数の小型種がおり、転がった残骸はその集団に直撃。まるでボーリングのピンのように小型種は纏めて吹き飛ばされる。俄造りの散弾に、弾き飛ばされ押し潰されていく小型種。
「意外と上手くいくね」
とりあえずリオは呟く。正直ここまで見事にいくとは思っていなかったのだが、何にせよ良い方向に進んだ。因みに甲羅を転がしたデカブツは地面に溜まった酸の所為で、脚部が損傷しており動けていない。弾を使うのも勿体ないので、その上に着地。押し潰しておく。
何というか。
遅い弱い多いのろい鬱陶しい頭悪い気持ち悪い。
「はぁ……あと少し………」
疲弊した様子でリオは呟く。
だが、体力はまだまだ充分残っている。疲弊しているのは精神の方なのだ。
当然戦闘によるものなのだが、消耗する原因が微妙に違う。
敵に対する緊張状態が長時間持続している、所為ではなくただ単に目に映る気持ち悪さに、辟易しているのだ。
だが、それも間もなく終わるだろう。確認できる生体兵器はもはや片手で数えられるほどに減少していた。
味方を溶かした5体目の巨大蜂にミサイルを撃ち込みながら、終わりの見えた戦いに、リオは僅かに安堵の溜息を漏らす。
余すことなく全弾命中したミサイルの爆炎と破片を浴び、その身を引き裂かれる巨体。これで転がっている巨大蜂は自分が殺した分も入れて7体。
そして視線を向けた先では、最後の1体である巨大蜂に、近接武器を手にした2機の機体が迫っている。その後方からはマシンガンを点射し、注意を引こうとする別の機体。
どう見てもあからさまな挑発行動。
だが、知能性など無いだろう生体兵器にとっては、十二分に効果的だった。頭部を巡らせ、援護機体の方に巨体を向けようとする巨大蜂。方向転換して向かおうとする。
だが、その懐というか足下には、既に前衛の機体が入り込んでおり、ACほどの丈がある巨大な刀を振りかぶっていた。
そこで巨大蜂も、やっと自身の身に迫る脅威に気付いたのだろう。針を振り回し、接近した2機の機体を追い払おうとする。
眼前から迫る針、それをサイドステップで回避し前進を再開。後方から翻ってきた赤黒い凶器を機体を半身で反らし、針が通り過ぎた瞬間垂直ジャンプ。脚が生えている肩(?)の関節部分を正確に切り裂く1機。
自重を維持できず、崩れ落ちる巨体。地響きと砂埃が舞う。その中から絶叫が轟いた。
切り裂きながら飛び去った機体に追従していたもう一機が、地面に伏せながらもいまだ蠢いている頭部に着地。刀を逆手に持ち替えると、大きく振り上げ足下に突き刺す。そのまま捻りを加えながら、内部を抉っていく。あまりの無茶な力の掛け方に、ボキンッと嫌な音を残して、刀が砕けた。
だが、砕けるほど力を込めたのは正解だったようだ。脳天に刃を突き立てている巨大蜂の絶叫が、次第に弱々しくなり、消え去る。
しかし未だにその巨体に乗ったままの機体。まるで何かを待っているのか、折れた刀を投げ捨て、マウントされていたマシンガンを保持する。先程リオが訝しんだ仕留めたはずの巨大蜂に対する対応と同じである。
一体何を?
リオの頭に疑問が浮かんだ瞬間、それに答えるように巨大蜂の胴体が裂けた。人間なら背骨に当たる位置が、粘液を引きながらパックリと裂け、気持ち悪い中身を晒す。
そこから大口やら芋虫やら小型種がわらわらと湧き出てきた。
「うわ………」
もはや多少の事では動じなくなったリオは、ウンザリとした表情でその光景を見つめる。
自分が倒した巨大蜂に周囲の機体が近づいていたのは、この出現する小型種を排除する為だったのか。
ご苦労様、と内心で後始末をしてくれていたパイロット達の苦労を労っておく。
因みに最後の巨大蜂から出てきた小型種は、それを待ち構えていた機体によって次々と撃ち貫かれ、蜂の巣に変わっていた。満を持して搭乗した割には呆気ない幕切れである。
巨大蜂から出てきた蜂の子が、蜂の巣になるって何かの皮肉かな。
どうでもいいことを考えつつ、リオは周囲を再確認。
やっとこさ生体兵器は全滅。こっちの、というか周囲の機体にも損耗無し。
ただ件の機体達が、自分を包囲したいらしく、ブーストジャンプを行い向かってくる。
周囲に着地した機体の内、4機がマシンガン装備の前衛でリオを中心に四角形を描くようにそれぞれの頂点に着地し、残りの4機は形状の違う兵装を構え、やや前衛から離れた位置に散っている。
その陣形は前衛が作成した四角形のそれぞれの辺にの中点に、頂点を置く形を成しており、前衛の間のどこに突破を仕掛けようとも、即座に後衛の2機が狙える位置取りだ。
頂点に位置する機体に仕掛ければ、その両翼に位置する後衛の2機が、間を抜け後衛を先に仕留めようとすると、それこそ前後衛合わせて3機は向かってくる。
機体をこちらに向け、威嚇するかの如く視線を向けてくる。腕部を地面に向けているものの、どの機体も兵装を手放すようなことはしない。流石にロック警報は鳴らないが、そんな事は気休めにもならない。いざとなればマニュアルで射撃してくる可能性もある。
コクピット内でレーダーと映像で位置を確認し、レイヴンとしての表情に戻るリオ。そこには怯えなど一切無く、周囲からもたらされる情報と自分の状態を比較し、思考する兵士が居た。
9機に対してこちらは単機。装備している兵装の残弾は、WH05BPは一桁台、PIXIE3が百数発。KINNARAは14発、弾速の遅い184RNでは接近しない限り命中は臨めないし、この状態ではLADONの発射に少し時間が必要。
捕捉として述べるなら、大型キャノンの分類であるLADONは、発射時に衝撃吸収姿勢を取らなければならないのだ。2足型ACの場合、直立状態で発射すると発射時の反動で転んでしまう可能性がある。故にキャノン系統の武器を起動した場合、機体に搭載されているオートバランサーが自動で機体の姿勢を変えてしまう。そうなるとまさに固定砲台に徹してしまう事になる。
いくらなんでも、目の前にいる機体達がその隙を見逃してくれると思うのは夢物語過ぎる。となるとオーバードブーストを使用しての一点突破ぐらいか。
幸いなことに、この機体なら相手が保持している兵装の内、マシンガン程度なら耐えられると思われる。ただ、それで足を止められ包囲攻撃を受けるのは避けたい。接近され、背後にマウントされている刀で斬りつけられれば、ACといえども無傷では済まないだろう。耐える事が主目的の重装甲とは言え、損傷しないに越した事はない。
そう思案しながら、リオは自身の身に起きている異変に気付いた。
「ん………」
そっと首筋に手を当てる。男にしては少々長い後ろ髪に隠れた首筋に妙な感覚を憶えた。
虫が這っているような、むず痒いような、さきほどから首筋がチリチリするのだ。まるで誰かに見つめられているように感じる、そんな感覚である。
これは何か起きる時に始まる前兆。それは少々特別な生活の所為で身に付いた物とはいえ、論理的根拠は全くない代物だ。勘に近い物でもある。
だが、根拠が無いと的中率が低いは決してイコールではない。しかしそれならば、何が起きるというのか。
オーバードブースト起動ボタンに指を掛けながら、リオは警戒の根を張り巡らす。周囲に異変が起きれば、また包囲している機体のどれか1機でも仕掛けてくれば、即座に反応出来るように。
と、陣形に加わらなかった1機が接近してきた。兵装を構えてないところから、まだ、やり合う気は無いらしい。相手の一挙一足に注意を払いながら、こちらもFSCをマニュアルに変更。どんな状況だろうと先手を打てる状態にしておく事は、兵士の基本だ。
その行為を行いながらも、リオの唇から僅かに安堵の溜息が漏れる。警戒されてはいるものの、近づいてい来るということは相手側も自分と話す気があるということ。少なくとも話が出来る相手なのだろう。やっと、このおかしな状況に説明が付く。
が、リオが浮かべた希望は正面から向かってきた1機によって打ち消される事となった。
距離としては約20~30メートルほど手前で正面にその機体は停止。こちらは兵装に意識を集中させながら出方を窺う。
と、接近した機体から固い印象を受ける声色が聞こえてきた。
『こちらは、国連軍横浜基地所属の者だ。所属不明機体に搭乗している衛士、貴官の名と所属、ならびに階級を聞かせて貰おう』
随分と高圧的な態度だ。とはいえ、いちいち気にしていては先に進まない。相手もそれなりの立場がある以上、このような態度に出ているのだろう。
それにしても所属基地を明かしても、部隊名までは教えないとは。考えつくとすれば公に出来ない任務中か、部隊名の存在しない混成部隊か。
しかし、事前の戦闘から見て俄造りの混成部隊とは考えづらい。しかし、リオが着眼したのはそんな事ではなかった。
「女性だったんだ………」
呟くリオ。散々、彼だの手練れだのと言ってきた部隊の指揮官が女性だったとは想像していなかった。しかも声質からしてまだ若い印象を受ける。
衝撃の真実(?)にしばらく沈黙していたリオ。だが、問われた台詞を思い出し、さらに混乱に拍車が掛かる。
国連軍? 横浜基地? 何それ。キサラギとかバーテックスとか出てくると思ってたのに。
いや、本当にここ何処? 誰か教えて、可及的速やかに分かりやすく。
またしても何処かの誰かに心の中で語り出すリオ。彼の沈黙を受け取ったのか、目の前の機体から再度言葉が投げ掛けられる。
『………聞こえていないのか? 闇色の機体に搭乗している衛士、応答を願う』
声が微妙に苛立ってる。これ以上放っておくのも拙い。こちらも外部スピーカーのスイッチを入れる。
滅多に使った事がない所為か、整備されていないスピーカから発された声は微妙に変質している。それこそ合成音声のようだ。
「こちらヴゥルカーン。聞こえている……います」
『……ヴゥルカーン? 変わった名だな、それが貴官の姓名か?』
微妙に間が空いた相手の応対。答えるとは思っていなかったのだろうか。それとも声が変な所為か。
「違いますよ。名前はリオ・レムレースでヴゥルカーンは機体名。因みに階級なんてものは持ってません。軍隊じゃ有るまいし……」
『ふむ……ということは不正規兵か。何処の部隊だ?』
「不正規兵というか、レイヴンなんですけど。ヴゥルカーン見て判るでしょ?」
『レイヴン……? それが部隊名なのか?』
「は……? レイヴンですよ。傭兵って言えば解りますか?」
『つまり傭兵で編成されたレイヴンという部隊……というわけか?』
「違うって………」
もはや訂正するのも面倒なのか、小さく呟くだけのリオ。
どうにも要領を得ない。彼にしてみれば、レイヴンの一言で全てが理解されると思っていたのだが、どうやら相手はレイヴンという言葉すら知らないようだ。
もちろんあり得ない事である。汎用人型兵器を操るレイヴンと呼ばれる傭兵は、このご時世戦場だけでなく、ニュースの中にまで登場する。街の子供でさえ知っているような事を、目の前の指揮官は知らないのだ。
しかし、リオは気付いていない。彼が今居る世界には、彼を除いてレイヴンと呼ばれる人間は存在していないのだ。
その事に気付く訳もなく、リオの思考は混乱していく。それに拍車を掛ける相手。
『しかし傭兵だと? ならばなおのこと何処の部隊に所属しているのか明かして貰おう。帝国軍にそのような部隊が存在していたなど、聞いた事がないぞ』
「帝国軍って何だよ……それに所属って言われても……」
小さく呟きながらも問われて黙考するリオ。
幸か不幸か彼は中立を選んだレイヴンであった為、アライアンス、バーテックスの両陣営に属していない。だが、最終的に依頼された任務はジャック・Oからだったので、それならギリギリバーテックス側と言えなくもない。そう言えば最後の依頼の報酬貰ってないよ。
かなり無理な論理展開をしつつ、リオは自分に言い聞かせる。
「所属は……バーテックス……です」
『バーテックス……? 名称からして帝国軍ではないようだが……レイヴンというの部隊の一部か?』
返された質問の内容に、リオは今度こそ内心驚愕した。場慣れしてるであろう相手からでてくるような質問ではないのだ。
「え……ちょっと待って。こっちとしても混乱してるんだから話は手早く進めたいんですけど。バーテックスを知らないわけないでしょ?」
『それはこちらの台詞だ。バーテックスという部隊名など聞いたことがないぞ。貴官こそ真面目に答える気があるのか?』
「巫山戯てられるほど余裕がある訳じゃないんだけど……」
2機の間で大気が急速に硬質化していく。このまま事が進めばいずれ衝突するだろう。
だが、伊隅もリオもそこまで愚かではない。
『ラチが明かないな……仕方ない。リオと言ったか? 貴官を拘束させてもらう。我々の基地に連行するが、下手な抵抗はしない方が賢明だぞ。今すぐその機体から降りて貰おう。こちらが責任を持って輸送する』
高圧的な口調で言い放つ目の前の機体。とはいえ感情にまかせて此処で安易に事を運べば、せっかく掴んだチャンスを無駄にする事になる。我慢我慢。
「……まぁいいや。で、ボクを迎えてくれる車は何処ですか? それともタクシー呼んでくれるんですか?」
せめてもの抵抗として皮肉を混ぜて言葉を返すリオ。それを軽く受け流し、女と思しき固い声は淡々と告げる。
『間もなく輸送部隊が到着する。その部隊に我々の支援担架も同行しているから、その車両に機体は固定してもらおう』
「りょーか……」
そこでリオは言葉を途切れさせた。
またもや首筋がチリチリとし始めたのだ。やはり何かに見られているように感じる。
コクピット内で周囲に視線を走らせるリオ。会話を断ち切り、静寂に包まれ極限まで神経を研ぎ澄ます。
その研ぎ澄ました感覚が告げた。自分が来た方角に何か居る。だが何だ?
答えなど考えなくても解る。先程その「何か」に遭遇したばかりなのだから。そう脳内で自分に告げた途端、リオは機体を跳躍させていた。
ちりん。
機体の振動によって腰に結びつけている物が涼やかな音を立てた。
『なっ!? 抵抗する気か!』
眼下から驚愕と叱責を混合した声が聞こえてくるが、とりあえず無視。上昇しながらエクステンションを起動し、右90度に機体を捻りつつ、KARURAを起動。
だが惜しい。こちらから仕掛けるつもりだったが、相手の方が幾分か早かったようだ。「くそッ!」
背筋に走る悪寒、心臓を鷲掴みにされるような圧迫感、頭の芯から血の気が引いて行くのが分かる。その感覚に従い、舌打ちしながら操縦桿を倒し、ペダルを踏み込む。操作を受けた機体が、大気を蹴るように位置を変えた。
機体の右側、数瞬前までいた空間に数丈の光が走る。正に刹那の差。裏を返せば自身がもう少し早く気付けていれば、一気に殲滅できたと言う事だ。生物に対応していないレーダーをこれ程悔やんだ事はない。
『レーザー属種だとっ!?』
またもや下から驚愕の声。意に介さず、発射地点を大まかにロックしミサイルを発射。だが、数刻前に見た時と同じく、新たなレーザーによって次々と迎撃されていく。
やっぱり効果なしか。
あわよくば、と思っていたが、やはりミサイルはあの黒目には有効ではない。
一旦機体を落下させながら兵装を変更する。降下軌道上にレーザーを照射されるのを防ぐ為、PIXIE3を発射。だが、射程外である為命中など殆ど望めない。辛うじて届くと思われた銃弾も、その黒目の前に進み出てきたデカブツによって全て弾かれる。結果としてそのデカブツが射線を塞いでくれたわけだが、無抵抗に攻撃されるのも気分が悪い。
落下しながらも敵の陣容を目に焼き付ける。
密集隊形をとり、地面を駆け進んで来るデカブツや蠍もどきの数は十数体。その後方に続いて黒目の集団。小型種と巨大蜂は確認出来ず。降り立ったリオに先程の機体が近づく。
『貴官は気付いていたのか?』
相手は気付いてなかったようだ。少々呆れながらも言葉を返す。
「気付くと言うより……ボクが連れてきたようなものです。ここに来る前に遭遇したんですよ……っと!!」
二射目である死の光が迫る。機体を右後方に斜め後退。薙ぐように迫る光を回避する。光の後を追うように地面が爆散していった。
それは明らかにリオだけを狙った物。周囲の機体や伊隅には一切触れない。その光景を見つめていた相手が、ぼそりと呟く。
『……人気者は辛いな』
皮肉にも取れるその言葉も、今のリオにとっては構っている暇はない。何せさっさと対処しないと、一方的に撃たれ続ける事になるのだ。
「それはどうも。ところで、さっきあなた達がレーザー属種って言ったヤツらが後方にいますよね? そいつらここから狙えます?」
銃口を向け、向かってくる群れの後方を指す。この機体ではKARURAとLADON以外では射程が足りない。かといってLADONでは構え中にレーザーが飛んでくるし、KARURAは先程と同じ運命だろう。
となると周囲の連中に手伝って貰うのが得策だ。こちらを拘束する意志がある以上、まさか後ろから撃つような事はしまい。
『ここからなら充分射程範囲内だが……照射源の詳細位置が特定出来ない。探す暇があるのか?』
さっきの攻撃の時に特定しといてよ、と内心で毒づくリオ。その内面を少しも出さず、努めて冷静に声を出す。
「……んじゃ、ちょっと飛んできます。連中が発射したらさっさと仕留めて下さい。地上を走ってくる連中は僕が片づけますから」
『は? 飛ぶとはどういう……おいっ!!』
言葉を置いてきぼりに、そう言いきるやいなや、リオはまたしても機体を跳躍させる。ただし今回は迫ってくる群れに向かっていくように。視界が煌めく。
途端に慣性を無視するかのような機動で機体が左へ移動。無意味に何も存在しない空間を焼き尽くすレーザーの奔流。次は右へ。反発し、跳ねるように回避する。
「一回目……」
そう呟く。繋いでおけば良かったかなと小さく後悔するものの、今出来ない事に文句を言っても仕方がない。コンデンサ容量と機体熱量はまだ大丈夫。
そのまま飛行し、デカブツなどで構成された前衛集団を飛び越える。この頃になってやっと後方から援護射撃が始まった。
「二回目……」
後方の機体達に仕留められたのだろう。が、先程より少ないものの、それでも十数丈のレーザーが迫る。
今度は機体が力尽きたように落下。ブースターを数度短く作動させ降下機動を左右にねじ曲げながら、敵集団の前衛と後衛の中間に着地。頭上を光の帯が煌めきながら通り過ぎていく。これで前後は生体兵器に挟まれた状態。
飛行中に付いた慣性で地面を削りながら減速。地面を抉る振動を感じながらエクステンションの連続起動により180度急速反転、同時に肩兵装を起動、左肩に折り畳まれていた砲身が展開。
振り向きながら機体の姿勢が変化する。振り向き終えた時には、左肩に砲身を担ぎ、その砲身に手を添え片膝を付いた状態のヴゥルカーンが存在していた。
それは、これから始まる破壊の前兆。
スカイブルーの無機質な複眼が、にやりと嗤う。
危機感を感じたのか、それとも本能か。飛び越えた敵前衛が急停止しヴゥルカーンの行動に反応し反転してくる。どうやら随分とリオにご執心のようだ。
前門の虎、後門の狼、ではないが危険なことには変わりない。並のレイヴンなら、このまま押し潰され弾き飛ばされるか、後方からレーザーで撃ち抜かれる。
しかしリオは、並というには余りにも戦闘を経験しすぎている。彼が保持するレイヴンとしての視線、それは数度の戦闘から黒目が充填時間らしきものが存在し、それにどれほど時間が必要か識別していた。
二つ目の小さい奴は10秒ちょっと。一つ目の大きい奴は少なくとも20秒以上必要。先程発射された数は残存個体数と合うから、もう数秒は安全。そして数秒有れば迫ってくる敵前衛を潰すことが出来る。前衛さえ潰せば、黒目連中に対して後顧の憂い無く動き回る事が出来るのだ。
唇の端を吊り上げ、リオは展開の完了した肩兵装のトリガーを押し込む。ジェネレーターに蓄積されていたエネルギーをつぎ込み、左肩から生えるように伸びた砲身が不気味な光を帯び始めた。
凶悪な破壊力を秘めた兵装に、それを暗示させるかのように紫電が走る。
『何考えてるのよ、あの馬鹿衛士!!』
速瀬の驚愕と怒りを混合した声が聞こえてくる。もっとも、その気持ちは伊隅も同じだが。
全く話が通じないと思ったら、こちらに注文するだけしておいて、後はご自由にと言わんばかりに噴射跳躍の後匍匐飛行らしき行動。レーザーなど何するものぞとばかりに、悠々と敵前衛を飛び越えようとする。
その行動に対して当てつけのように照射されたレーザーは、ことごとく変則的な機動で回避されていた。
その光景だけでも十二分に驚愕すべき事態だ。そもそも、優れた対空システムでもあるレーザー属種にわざわざ空中から躍りかかるなど、自殺行為以外の何物でもない。それよりなにより、発射から命中までのタイムラグが無いに等しい光学兵器を回避するなど、尋常な操縦技術ではない。
だが現実に、照射される光を回避している機体が目の前に存在している。空を切り裂き、薙ぐように走る光芒。だが、それは全く無意味に輝くだけだった。
しかし、こちらにとっては重要な情報だ。部隊内共有データリンクによって、即座に照射源が打撃支援と砲撃支援に伝わり、返答とばかりに87式支援突撃砲から発射された銃弾が大気を切り裂き、飛翔音を響かせながら光線級に突き刺さる。さらに射撃を続ける4機。急がなければ第二照射が始まる。
その時には飛行していた闇色の機体―――ヴゥルカーンは右に左に機体を捻りながら地表に降り立っていた。その頭上を光が過ぎ去っていく。
この状況で地表に降りる意味があるのか? 我々が潰したとは言え光線級はまだ残っている。それに突撃級や要撃級で構成された前衛は反転し、降り立った機体に迫ろうとしている。わざわざ自分から挟撃された理由は何だ?
そこで伊隅はあることに気付き、内心驚愕する。
「まさか、光線級のインターバルに………」
気付いているのか、と最後は掠れるほどの呟きに変化していた。
確かに、光線級は約12秒、重光線級は約36秒、照射後再照射まで時間が必要だ。その隙をついて攻撃するのはもはやレーザー属種に対する常套手段と断言しても良い。あれほどの操縦技術を持つ衛士が、その事に気が付かない方がおかしいという物だ。
だがそれを認識するには、目標の個体が照射を終了したことを確認することが大前提。回避に専念している状況で、照射した個体を識別するどころか、照射源すら特定出来ないはずだ。
そのために戦術機には部隊内共有データリンクと、ポジションという物が存在しているのだから。
しかし、現にヴゥルカーンはインターバルの隙をついて地上に降り立った。それが偶然か必然かは伊隅には判別できない。だが、今必要な事はそんな事ではなく、ヴゥルカーンの行動。
再照射まで10秒もないその状況で降り立つ意味は有るのか、という疑問だ。勿論答えもあるにはある。
敵前衛をリオと伊隅達で挟撃することが出来る。反転を開始した要撃級は言うに及ばず、突撃級ですら定円旋回を行い始めている。だが、十数体とは言え中型種で構成された集団を再照射まで片づけられるのだろうか。頑丈な突撃級が一塊り壁を作っているのだ。
「A、B小隊、ヤツらのでかいケツにウラン弾を叩き込んでやれ! C小隊はそのまま援護を続けろ!!」
『『了解』』
伊隅は訝しがりながらも指示を飛ばす。A、B小隊に、反転し無防備にケツを向けている突撃級を始末させ、壁が崩れた時点でリオの援護に向かわせる。
C小隊に依然光線級を仕留め続けてさせ、反転したBETAに迫る2隊。目の前に突撃級の壁が見える。突撃砲を撃ち込むも、有効弾は少ない。頑強な甲羅に殆どが阻まれている。旋回が済んでケツを向けている連中が地に沈むだけだ。
伊隅は、間に合うのか、と僅かに焦燥した。
だが、その杞憂は無駄となる。
爆音が広がる戦場、開きっぱなしだった外部スピーカー、それが無数に重なる銃声に混じって、奇妙な音を拾った。
キィーンと耳鳴りに近いような音。高音領域に近い為、阻害されずに聞こえたのだろう。頭の中に直に響くような甲高い音が聞こえた。
何の音だ? と、伊隅が疑問を抱いた瞬間、網膜投影されている映像に一本の光が走る。
その光は、瞬間引き延ばされたように、ヴゥルカーンが居るであろう地点から伊隅機の前方、敵集団の中心を繋ぐ一本の線となった。
網膜投影によって映し出されたその光景が脳に到達した時には、敵集団の中心に光が突き刺さっていた。
『なっ!?』
誰かの驚愕に満ちた声が聞こえた。
密集隊形の為幾重にも連なっている要撃級や頑強な突撃級を、抵抗など存在しないかのように何匹もその光は貫き、その集団が居座っていた地面に着弾。直後に激しい轟音と振動。
まるで地面の底から揺さぶるような振動が襲ってきた。慌てて機動に急制動を掛ける。その眼前で地表が爆発。
もともと爆薬でも仕掛けられていたかのように、その場所に居座るBETAを吹き飛ばし、破片で細切れにしながら、地形を変える。
動きを止めた伊隅の機体に、吹き飛ばされ引き千切られたBETAの血液がぶちまけられた。
まさしく視界が真っ赤に染まる。一瞬レッドアウトかと思うほどにだ。
その赤という色を認識した瞬間、機体に衝撃。衝撃が走る寸前網膜投影には吹き飛んでくる突撃級の甲羅が映っていた。
粉塵が晴れた後には、まるで隕石でも落下したかのようなクレーターが出来上がっている。
その大きさは戦術機が収まるほど。周囲にはBETAの残骸が散らばっている。
そう、散らばっているのだ。原形を留めている物など何一つ無い、まるで巨大なミキサーに掛けられたかのように、ぶつ切れにされ散乱している肉片や甲羅の残骸が、一時前まで確かに敵が存在していたと証明する唯一の証拠になっていた。
いつの間にか横を向いている戦術機の管制ユニットの中で、伊隅はその映像を目にし、硬直していた。その額から、今さらのように冷や汗が垂れている。ゴクリと生唾を飲み込み喉を鳴らす。目の前の光景が、現実の物として脳に取り込まれるまで若干の時間を有したのだ。
網膜投影に映し出される機体ステータス。機体全体と保持している兵装の現状を示すそれは異常を伝えていた。
表示される機体の全体像、その胴体部が黄色く染まり、その脇に有るはずの92式多目的追加装甲には「LOST」の文字が赤く光っていた。
理解不能の事象に、混乱の坩堝に伊隅の思考が陥っていく。
『た、大尉っ!? ご無事ですか!?』
普段聞くことは無いだろう風間の焦った声。その声のお陰で我を取り戻し、ようやく躰が言う事を聞くようになる。気付けば周囲にA小隊だけでなくC小隊の連中も集まっていた。周囲の部下を安心させる為に、機体を起こす。それなりの衝撃を受けたのか、ギシギシと機体が軋む。
『何考えてやがんだ、あのくそったれが! こっちまで巻き込みやがって!!』
「……如月、大丈夫だ。多少ガタが来たが動けないほどではない」
安心させるよう語りかける。
確かに重大な損傷はない。だが、機体ステータスを見る限り突撃級の甲羅でも直撃したのだろう。モース硬度15以上の甲殻にぶつかられてこの程度の損傷で済んでいるのはむしろ幸運だ。無意識のうちにとっさに追加装甲で管制ユニットを庇ったようだ。
とはいえ機動自体は出来る物の、補修点検が必要なレベルである事は確かだ。おそらく、管制ユニットの前面装甲は総取り替えが必要だろう。フレームも歪んでいるかもしれない。
しかし、今はその時ではない。まだ敵が残っている。動ける以上それを殲滅しなければならない。
そう思い視線を戻した先には、すでに全滅している敵前衛集団。光が走った中心は言うに及ばず、射線軸から外れた位置にいたBETAまでもがその身を切り刻まれ残骸に変わっていた。
辛うじて蠢いている個体も、もはや脅威とも言えない状態だ。トドメを刺すように指示。
そして少し離れた位置で爆音が響く。と、同時にレーダー上のマーカーが消えた。どうやらレーザー属種が潰されたらしい。
すでにレーダーにはBETAの反応は一体も残っていない。有るのは9機の戦術機と1機の不明機が生み出す光点だけ。
『さっきの攻撃で突撃級や要撃級が殆ど死んじまいやがった。にしても何なんだよ、あの兵器は?』
合流したB小隊の如月がぼやきながら機体の頭部を動かす。その視線の先には赤黒く変色したクレーター状の地表と散らばる肉片。それに宗像が答える。
『おそらくは、電磁投射砲らしきものでしょうね。これほどの威力があるとは知らされていませんが……』
『レールガン? でもミサさん、あれってまだ試作じゃなかったかしら? 砲身の耐久度や電力確保に問題があるとかで』
『99式の事ですか。でもあの機体はそんな物保持しているようには見えませんでしたよ? そもそも99式は正式採用もされてなかった筈ですよね?』
『でもさ晴子、それを言うならあの機体だって見たこと無い機種だよ』
ざわざわと騒ぎ始める戦乙女達。と、伊隅はレーダーが新たな反応を感知している事に気付く。複数の光点が順序よく隊列をなして接近してきていた。
BETAにしては随分とお行儀良く並んでいる。それに信号を発しているところから、輸送車両隊のようだ。タイミングが良すぎることから、おそらく被害の及ばない場所に退避していたのだろう。
卑怯、とは思わない。そもそも、彼らが出てきた所で何の役にも立たないからだ。車両搭載の重機関銃も中型種が相手では豆鉄砲に過ぎない。それなら身を潜めて敵をやり過ごす方がまだ賢明だ。
「貴様等、まだ任務は終わっていないぞ。七瀬も救出しなければいけないんだ、気を抜くのは後にしろ。それに……」
そこで一旦言葉を切り、視線を向ける伊隅。その網膜にはゆっくりとした足取りで近づいてくるヴゥルカーンが映っていた。
「そんなに知りたければ本人に聞けばいいだろうが。兎に角全て片づけてからだ。分かったな?」
『『『『『『『『了解!』』』』』』』
そう答えると散りだす中隊各機。
救出に向かう者、捕獲したBETAを再度集結させる者、周辺警戒に入る者。その中を闇色の機体が歩いてくる。伊隅機に近づいたその機体から声が聞こえてくる。
『なんでわざわざ近づいたんですか』
若干の呆れ声。伊隅としては援護に向かおうとしたのだから、文句を言われても困る。
『地上は知ってくるヤツらはボクが片づけるって言ったはずですけど……』
確かにそう言われたが、ハイそうですか、と納得できる訳がないだろう。だが実際にそうなっているのだからこちらとしても文句は言えないのだが。
思わず頬を掻く伊隅に、目の前の機体は予想外の言葉を寄越した。
『でも、巻き込んだ事は謝っておきます、ゴメン』
「……構わない。結果としてBETAは殲滅できた。それにこちらの損傷も大騒ぎするほどのものではない」
実際は大騒ぎされたのだが、わざわざ強調する必要もない。それに本当に申し訳なさそうに聞こえるひび割れた声を聞けば、叱責しようと思っていた気持ちも萎える。
『アリガト。そう言って貰えると少し楽です。それと……これであなた達の仕事も終わりですか? 車両部隊が近づいてきてます』
相手側でも関知していたようだ。不揃いの複眼を接近する車両に向けている。伊隅にはその視線に好奇心のような物を感じた。
「気付いているなら話が早い。今度こそ、その機体から降りて貰うぞ?」
『へ? ………あ、そっか、そんな話になってましたね。解ってますよ、そんな威圧感丸出しで言わないでください。眉間に皺が出来ますよ?』
呟かれた台詞に、やや反応しながらも伊隅は続ける。背後で作業を行っている中隊の何機かが動きを一瞬止めた。内の1機が器用に小刻みに肩を揺すっている。笑っている事を表現しているつもりらしい。犯人は朝光。
「大きなお世話だ……」
憮然として言い返す。初対面の人間にお固いといわれ良い気分になるヤツなど居るはずもない。だが、伊隅の気持ちなどまるで気にせず、目の前の機体から再度言葉が放たれる。
『連行されるのは良いですけど……条件が一つありますよ?』
「は? 貴様、立場を理解しているのか?」
拘束されるというのに、まるでさせてやるんだと言わんばかりの態度。呆れたように答える伊隅。貴官から貴様に呼称が変化しているのだが、目の前の機体に乗っている人間は気にもせず、悪びれもせずに言い放った。
『ご飯あります?』
余りにも軽いお願い。
友達に買い物でも付き合ってと言っている感じだ。先程まで戦闘を行っていた人間とは思えない。その切り替えの早さに、なにより突きつけられた「条件」の内容に知らず知らずのうちに苦笑していた伊隅は答える。
「ふ……善処しよう」
『お願いします』
そう話し終えると同時に、目の前の機体が付近の支援担架に膝を付く。その背中が開き1人の人間が降り立った。見たこともない衛士装備に頭部全体を覆うヘルメットを被っている。お陰で顔が窺えないが、体つきは割と小柄である。その衛士は手慣れているのか、軽々と機体から飛び降り地面に降り立った。
少々違和感を感じながらも、伊隅は接近して停止し始めている車両の方を機体で指さす。片手を上げて答えたその人間は、散歩でもするかのようにのんびりと車両の列に消えていった。
そこで伊隅は有る事を思い出した。
「確かに副司令の言った通り、大人しく従ったな……」
何故か高笑いする香月が脳裏に浮かび、伊隅はしばらく管制ユニット内で形容しがたい敗北感を味わうこととなった。
後書き
ここまで読んで頂き有難うございます。筆者のD-03です。
まず、ヴゥルカーンの装備しているレールガンですが、「着弾表現が違う」「充電音なんて鳴らない」などの抗議は受け付けません。また、グレネードでない理由は至極単純です。
重すぎて重量過多でした。軽量の方も無理です。デュアルフェイスごっこでもしようと思ったのですが……そんなに甘くはありませんでしたね。積載ギリギリで運用していると、機体改造の余裕がまったく存在しないということを思い知らされました。
さて内容はと言うと、やっと新潟上陸が終わりましたね。次回は舞台を横浜基地へと移して、リオに頑張ってもらおうと思います。同時に本編主人公である白銀の登場ですね。それ以外の分隊の方々は……恐らく出番無しとなるでしょう。
では、次回もどうぞ、リオにお付き合いください。