2001年 11月11日 07:40
新潟 守門岳
この日、甲21号目標―――佐渡島ハイブから出現した旅団規模のBETA群が侵攻を開始。出現確認から現時点までの経過は以下の通り。
06:20 出現した旅団規模のBETA群が日本海海底を南下。帝国軍日本海艦隊がこれを迎撃。三個機動艦隊並びに81式強襲歩行攻撃機【海神】による対潜攻撃を敢行するも、有効打を与えられず。
06:27 BETA群、第一海上防衛戦を突破し、新潟に上陸。第56機動艦隊が壊滅。34、55機動艦隊共に、半数の戦力を失う。
06:48 旧国道8号線付近に展開していた帝国軍第12師団がBETA群と接敵。
07:02 辛うじて戦線を維持していた帝国軍第12師団の半数が損耗。BETAの一部が戦線を突破し始める。
07:10 圧倒的なBETAの物量に対し、増援の遅れから戦線が瓦解。帝国軍第12師団壊滅。第二防衛線付近まで押し込まれる形となる。
07:29 第14師団の追走間に合わず、残存BETA群の半数近くをロスト。増援として向かっていた帝国軍第5、第7師団は急遽合流し、敵集団の頭を抑える為、北関東絶対防衛線付近に臨時防衛ラインを構築する。
背後に抜けられるということは、絶対防衛線が突破されるということであり、それは帝都すら敵の脅威に晒されると同意義であったため、帝国の衛士達は思いの外奮戦する結果となった。
「ヴァルキリー1よりヴァルキリーマム。全機、所定の位置に配置完了」
『ヴァルキリーマム了解。全機全周囲警戒で待機。なお先程、残存BETA群の半数をロストしたとの情報が入った。突発的な事態に備えよ』
「ヴァルキリー1、了解」
しかし帝国軍が集結するこの場の中に一つ、国連軍所属であり、さらに別命を帯びている部隊があった。
かの部隊名は【国連太平洋方面第11軍・横浜基地所属A-01部隊】。別命「イスミヴァルキリーズ」と呼ばれる部隊である。
横浜基地に所属する部隊の中でも精鋭と呼ばれるこの部隊は、この突発的なBETA新潟侵攻に対して、事前に『特別』なソースで『確実性の高い情報を入手』しており、手薬煉を引いて待ち構えていた。
といっても彼女達の任務は侵攻してくるBETAの排除ではない。
旧国道8号線から290、351に掛けての防衛ラインで帝国軍が消耗させたBETAを捕獲するのだ。その為にわざわざ、倉庫の隅で埃を被っていた対BETA用捕獲兵装まで引っ張り出してきたのだから。
それを用いての今回の任務は、大雑把に大型、中型、小型の3種類に区別されるBETAの内中型、小型の2種類を捕獲し、横浜基地まで護送する事。
一見容易いように感じるが、味方の援護無しのこの状況で数百のBETA相手では少々手間が掛かる。しかし、最も鬱陶しい大型種が沈黙しているのは有り難いので、実質12師団の戦闘はこの大型種を潰すためだったと言っても過言ではない。
反感を恐れず言うなら、彼らは今回のBETA捕獲の囮に過ぎないのだ。
「とはいえ、苦戦してるというのもあながち間違いではないか……」
94式戦術歩行戦闘機【不知火】の管制ユニットの中で、戦乙女達を纏め上げるヴァルキリーズが隊長、伊隅みちるはそう呟く。
幾ら前線防衛を任せられていた帝国の精鋭部隊とは言え、やはり数の暴力には抗えないよ
うだ。徐々にBETAを示すマーカーの数が増えていく。
『ヴァルキリーマムより全機へ。目標の進路に変更無し。敵最前衛との接触は10分後』
「ヴァルキリー1、了解。」
旧田子倉IC跡に設置されているCPより通信が入る。冷静ながらいつもより僅かに硬さを感じさせるその声は、今回の任務の厄介さを表している。
BETAの捕獲。
口で言えば簡単だが、過去に行われたBETA捕獲の際には途方もない犠牲を支払っている。そこれこそ一個軍が傾くほどにだ。
だが、その結果判明したのはBETAという種族が人間と同じ炭素生命体で有ると言う事だけ。あまりに割に合わない結果となっている。
今回の作戦はその延長線上なのだろうか。
と、いつの間にか漠然と思案していた伊隅は軽く頭を振って、その考えを振り落とす。
答えが出ないのなら幾ら考えても詮のない事だ。上から捕獲しろと命令されれば、それに従うのが我々の仕事なのだから。
とにかく、私の仕事は部下を全員連れて無事に帰還する事。それ以上は望むべくもない。
改めて自分に言い聞かせ、伊隅は口を開く。
「全機聞こえているな? 間もなく目標と接触する。歓迎の準備は出来ているか?」
『『『『『『『『『『はっ!!』』』』』』』』』』
小気味よい返事が返ってきた。視界に映し出される11人は、硬さこそ僅かに含んでいるものの、その表情に抑えきれない興奮を滲ませている。
機体のモニターでバイタルを確認する限りでも、極度の緊張に陥っている者はいないようだ。これなら部下に「処置」を行う必要もない。
悪くない。このままならヒヨッコ達も「死の8分」を乗り越えられるだろう。内心部下の反応に安心しながら、しかし表面上は厳しく取り繕う。
「いい返事だ。では、最終確認を行う。今回の任務内容はBETAの捕獲だ。目標となるのは要塞級を除く6種。優先順位はBETA脅威度に準ずる……が、あくまで基準だ、レーザー属種が1番だからといって、目の前の要撃級を無視したりすると痛い目に遭うぞ。全員、柔軟に対応しろよ」
『ヴァルキリーマムよりヴァルキリー全機、敵最前衛接敵まで後5分』
CPからの通信。目標は順調に接近して来てくれている。
「どうやら先方様は我慢が出来ないようだな。いいか、A小隊は全機、面制圧に徹しろ。小型種の接近を許すな」
『ヴァルキリー7、了解!』
『ヴァルキリー8、りょ~かいですー!』
『……ヴァルキリー9、了解……』
自分が指揮する小隊に属する3人から次々と返事が返ってくる。その中の2人が、今回が初陣の新任だ。
順に涼宮茜、築地多恵、五十嵐皐。
「B小隊、貴様達は敵の前衛を崩してレーザー属種を丸裸にしろ。……とは言え、突っ込みすぎるな。今回の兵装は貧弱だからな」
『ヴァルキリー2、了解! 聞いたわね、B小隊!? 武器の所為でやられました、なんて事になったら腕立て千回だからね!!』
『いや、それは勘弁してくれ』
『みっきー、それは流石に厳しいんじゃないの?』
『そうですよ。速瀬中尉なら要撃級ぐらい戦術機で殴り殺しそうですけど……』
『何ですってぇ!? 七瀬ぇ、もういっぺん言ってみなさい!! それから朝光先輩、みっきーって呼ばないで下さい!!』
戦いの先陣を切るべきB小隊を指揮するのは速瀬水月中尉。その突撃に付き合うのは先任2人に新任1人。
上から順に、如月綾女、朝光春華、七瀬凛であり、緊張感のない会話とは裏腹に、全員が「突撃と書いて殴り込みと読む」タイプなのだ。その性格上、作戦前に置いて最もテンションが上がる小隊でもある。速瀬の場合、別の意味で血圧も上がっているだろうが。
毎度の事ながら騒がしい通信を聞き流し、伊隅はC小隊に言葉を向ける。
「士気が高いのは結構なことだ。ただし、頭に血を上らせすぎるなよ。……よし、残るはC小隊、貴様達は弱装弾及び麻酔弾を用いて、隊全体を援護しつつ、レーザー属種から潰していけ。敵の数は小型種を含めて数百だ、的確に撃破しろ」
『ヴァルキリー6、了~解』
『ヴァルキリー5、了解です!!』
『ヴァルキリー4、了解です。……ということらしいですわ、美冴さん?』
柏木晴子、水無由香の新任2人が答え、風間梼子の言葉にC小隊指揮官である宗像美冴の先任2人が続く。
『なるほど……ヴァルキリー3、了解だ。いくらBETAとは言え速瀬中尉に殴り殺されるのは可哀想だからな。』
『むなかたぁ~!? あんたはいつもいつもぉ!!』
噛み付いてきそうな勢いの速瀬。それを受けるのは飄々とした雰囲気の宗像。周囲の連中はまたか……、という表情を隠しもしない。
『何をそんなに怒っているんですか、速瀬中尉?』
如何にも速瀬の怒る理由が分からないと言う表情を作り出す宗像。だが、その表情の裏側では餌に食い付いた獲物を笑っている。
『ミサさん、みっきーはこっそりやろうと思ってたんじゃないの? バラしちゃ可哀想じゃない』
朝光が声だけを割り込ませてくる。表情など見なくても分かる。笑っているのだ。
宗像はその台詞を待っていたと言わんばかりに大仰に、納得した表情を作り出す。
『……ああ、なるほど……実はこっそりやろうとしていたんですね。これは失礼しました、みんなにバラしてしまいましたよ』
『~~~~~っ!!』
朝光のからかいに宗像が悪ノリで答える。速瀬が奥歯を噛み締めるギリギリという音が聞こえてきそうだ。そして、
『春華さん、美冴さん、それ以上は速瀬中尉に失礼ですよ? 人間とは本当のことを言われると怒り出すものなのですから』
風間がフォローになっていない言葉を発する。これで本人は大真面目なのだからある意味、宗像達より始末が悪い。
まぁ、これはいつものこと。緊張でガチガチになられるよりはだいぶマシだ。
「ふっ……全員心の準備は良いようだな。……いいか、今回はいつもより厄介な任務だ。だが、それは普通の部隊から見て、だ。そして、我々は『普通』の部隊ではない」
『ヴァルキリーマムよりヴァルキリー全機へ。まもなく作戦開始』
ヴァルキリーマム―――CPの涼宮遙から通信が入る。
「どうやら連中はそのことを理解していないようだな。……いいだろう。さぁ、貴様達、あの醜い化け物共に、誰を相手にしているか良く思い知らしてやれ! ヴァルキリーズの名を轟かせろ!!」
『『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』』
『……敵群捕捉。北北西より約2個大隊規模のBETAが接近。作戦開始!』
「いくぞ! 全機、続けぇ!!」
その声を皮切りに12機の不知火が次々と飛び出していく。
その姿はまるで、引き絞られていた矢が放たれている様だった。
因みに。
『秘匿作戦中に轟かせちゃ拙いんじゃないの?』
『そこはツッコんじゃ駄目だ』
と言う会話が後々確認されたらしい。
『ヴァルキリー8、バンデットインレンジ! エンゲージオフェンシブ、フォックス1!!』
制圧支援である築地と風間。威勢の良い築地の声と共に、轟音が鳴り響き、バックパックに装備されている92式多目的自律誘導弾システムから、ALMが白煙を引いて発射される。
1機に付き36発、計72発のALMが山を越え侵攻してくるBETAに対し、蒼天に駆け上がったそれは、天から降る鉄槌となって降り注ぐ。
が、次の瞬間には地上から放たれた光の奔流に飲まれ、瞬く間にその身を消滅させていった。しかし、ただで撃墜されたわけではない。ALMが撃墜されるごとに、周囲を暗雲のような物が包み込んでいく。
『重金属雲発生、戦闘濃度!』
レーザーを防ぐ手立ては整った。遠距離迎撃を気に掛ける必要の無くなった前衛が、水平跳躍で敵集団に飛び込んでいく。
『B小隊、全機吶喊! 遅れるんじゃないわよ!!』
『『『了解!!!』』』
切り込み役である速瀬を筆頭に3機の不知火が続く。
『全機、光線級の射線に注意!! 目の前の連中を盾にしなさい!』
突撃前衛隊長である速瀬の指示が飛ぶ。
レーザー属種は味方が射線上にいる場合、絶対照射を行わない。
それが本能なのか、味方誤射を避ける為の行動なのかは理解できないが、いずれにしろ敵陣営に飛び込むB小隊にとっては、目の前の要撃級や突撃級は「生きた盾」なのだ。
主腕に保持するスタンブレードを振るい、群がる要撃級や突撃級を麻痺させていく。スタンブレードの切り返しが間に合わない場合は、多目的追加装甲で殴り飛ばし、一時的な隙を相手に作り出させている。元来の性格なのだろうか、近距離混戦になれば成る程、突撃前衛と強襲前衛の動きが良くなっていく。
だが、如何せん敵の数が多い。下手に接近しすぎれば、いくら近距離戦のエキスパートであるB小隊の面々でも危険性は増す。
それでも、敵の壁は少しずつ削られていく。
『遅ぇなぁ。美女とのダンスはもう少し激しくするもんだぜ!!』
『ほらほら、おねーさんに道を空けてちょうだいねっと!』
軽い物言いとは裏腹に、如月と朝光は中るを幸いとスタンブレードを振り回す。一見無茶苦茶に振り回されている様で、その実敵の間隙を縫っているのだから侮れない。
『七瀬、あいつらに負けるんじゃないわよ!? これ位真っ先に突破して見せなさい!』
『無茶を言わないでくださいよぉ……』
こちらは突っ込む速瀬とそれに引き回される七瀬と言った風体だ。しかし、互いに位置を入れ替わり背中を庇い合い、双方の壁となるその姿は、言葉とは裏腹に十二分に仕事を果たしている。
が、いくら近距離戦のエキスパートであるB小隊と言えども数の暴力は少々厳しい。
現に壁である中型種を相手にしている彼女たちに、戦車級を中心とした小型種が群がろうと接近している。
小型種の中では一番の驚異度である戦車級。強靱な顎で戦術機の装甲さえ噛み砕く奴らが集れば、いくら第3世代戦術機の不知火であっても、ものの数分と経たない内に破壊されてしまう。そしてその危険性は、現在中型種を相手取っているB小隊の面々に一番迫っていた。
前面は突撃級や要撃級に阻まれ、左右や足下からは小型種が接近しており、このままでは挟撃されるのは目に見えている。
だが、そんなヘマは速瀬達はしないし、伊隅達A小隊がさせない。
B小隊に随伴するかの様に後方に陣取っているA小隊が、突撃砲の弱装弾を発射し小型種を次々に行動不能に陥らせる。存分にばらまかれた弱装弾によって、戦車級などの小型種は、その身を思う存分痛打される事となった。
瞬く間に、行動不能になった小型種の山が出来る。
その結果、周囲に注意を向けずに済むB小隊の突破力が向上することとなる。
前述したが「突撃と書いて殴り込み」な小隊だ。一度火がつけばその突破力は尋常ではない。相手がBETAでなければ、思わず同情してしまうほどの攻撃を与え続け、突撃級や要撃級が次々と麻痺し、動きを止める。
やがて敵前衛に壁が「穴」があき、傷口を抉るようにB小隊の面々がその「穴」を広げ始める。
『抜けた! 光線級を確認、重光線級は確認できず! 数は10……いえ、12!』
七瀬の声と共に、部隊内共有データリンクで統合処理された照射源―――光線級BETAの居場所が明らかとなる。
基本的に後衛のポジションにいる光線級を仕留めるには、前衛である要撃級や突撃級を退かせなければならない。だが、退かせるということは自分達の「生きた盾」を失うと言う事。
崩れ落ちる突撃級や要撃級の壁を後目に、後衛である光線級は目の前で暴れ回っているB小隊の機体に、その黒々としたレンズを向ける。睨みを利かせるその「目」は小賢しい小娘共を纏めて薙ぎ払おうと、死の光を放とうとする。
が、光線級は気付いていない。自らを守っていた筈の前衛に「穴」が空いている事に。
間髪入れず、B小隊が切り開いた「穴」からC小隊が光線級に照準を合わせる。
『壁が崩れたぞ! たっぷりとくれてやれ!!』
C小隊を指揮する宗像の指示に答え、4機の不知火が行った狙撃は、B小隊の空けた「穴」を見事に縫い、次々と無防備に身を晒していた光線級に突き刺さる。
今回の任務の為、現時点で全機の兵装に装填されている弾薬は弱装弾及び麻酔弾。麻酔弾は言うに及ばず、弱装弾にしても、人間に例えればヘビー級ボクサーの全力ストレートを叩き込まれるほどの威力がある。
簡単に言えば、まともに受けた場合、立っていられないという事だ。それほどの威力であるから、中には肉片と血を飛び散らせている個体もある。だが、多少内部器官に損傷が有ろうとも生きてさえいればいい。
次々と崩れ落ちる光線級。その数4。だが、第1射を免れた個体が死の光を放つ。
射線上に仲間が居る限り、絶対に照射を開始しない。それは、自動的にその仲間を排除すれば、真っ先に狙われる事になる。
開いた「穴」の正面に立っていたC小隊に光の帯が次々と襲いかかる。
『ふっ!』
『あまいねぇ……!』
乱数回避で機体を振り回し、その死の光を回避する宗像以下C小隊の面々。
光線級とは言え小型種の照射によるインターバルは短い。さっさと仕留めないと危険が増すだけだ。
『一撃で仕留められなかった事……後悔しなよ!』
『どいて!!』
柏木、水無の裂帛の気合いと共に、飛来した砲弾がまだ健在だった個体に突き刺さる。既に光線級の数は当初の半数以下になっている。これぐらい減らせば後は充分だ。
「A小隊前進! B小隊の露払いだ、醜い化け物どもにタップリと喰らわせてやれ!!」
その声と共に伊隅は機体を噴射跳躍させる。A小隊の行動に反応した光線級が、その「目」を伊隅達に向け、無粋な光で焼き払おうとする。
管制ユニット内に響く、耳障りな被照射危険地帯警報。第一級と表示されたその警報は即時離脱を促す物であり、放っておけばものの数秒と経たない内に機体はレーザーに貫かれ爆散する。
そう、放っておけば、の話だ。
その証拠に、第一級警報が鳴り響いたその次の瞬間には、自機のマーカーの代わりに、展開していた光線級のマーカーが消えていた。
C小隊の見事な狙撃に感謝しつつ、伊隅は機体を躍り込ませる。一息遅れて部下達も周りに着地する。
『こんのぉ!!』
『茜ちゃん! 突っ込み過ぎだよぉ!』
『……カバーする……』
少々前に出過ぎている涼宮が気に掛かるのか、築地が諭し、一つ先輩である五十嵐が冷静な行動で補っている。
『茜無理やりすぎ……多恵まで振り切っちゃチームの意味がない』
『す、すみません!』
その姿を見ながら、突撃前衛志望ならば、もう少し周囲への状況判断が必要だな……と、伊隅は場にそぐわない教師のような事を思い浮かべている。
が、裏を返せばそのような思考が出来るほど余裕があるという事だ。現に指摘された涼宮は素直に下がっているし、五十嵐と築地の支援も悪くはない。やはり涼宮と築地は同期同士でお互いの癖を把握しているし、五十嵐自身、指揮能力は高い。
もっとも他の小隊にもその言葉は当てはまる。
戦いとはチーム戦だ。押すだけしか能のない貴様達に、その事をタップリと教えてやる!!
接近するBETAに弱装弾を叩き込みながら、伊隅は内心で檄を飛ばす。
「二十メートル先の1個集団が壊滅……その後方も援護射撃で沈黙……側面に突っ込んだ4機によって分断殲滅ね……凄いな」
目の前で―――と言っても遠距離カメラ越しの映像だが―――行われている戦闘。
樹木をなぎ倒し、地面を蹴り上げ、大地に薬莢と硝煙を撒き散らしているその戦闘を行っているのは、方や大量の生体兵器(らしき物)で、片や軽量二脚で構成されたAC(に似ている)と思われる機体。
どちらも初めて見る物だ。
軽量級に近い細身の機体達は見事なチームワークで、時には自分たちより巨大な生体兵器を次々と沈黙させていく。
それに対抗するのか、生体兵器はその圧倒的な数を武器に、押し潰さんばかりに前進を続ける。
攻撃を受けた生体兵器が損傷した形跡がないので、どうやら捕獲するつもりらしい。となると、あの部隊は………キサラギの物だろうか。
コクピット内でリオは脳内の情報を引っ張り出す。
レーダー上に奇妙な光点が浮かび上がってから数分後には、少し離れた山腹からその光景を見ている。もしレーダーが生体兵器にも対応していたなら、おそらく半分以上が光点で埋まるはず。もちろん故障したわけではない、生体兵器の量が多すぎるのだ。現に視線をモニターの何処に向けても、生体兵器が映っていると言った有様だ。
生体兵器と聞いて、真っ先に思い浮かぶのはキサラギ社の開発したAMIDAと命名された代物。
だが、目の前に映し出されている生体兵器はどう控えめに見てもAMIDAとは似ても似つかない。
蠍が甲殻から肉の鎧に進化して、尻尾の代わりに人間の顔面が生えているようなヤツ。芋虫に人間の上半身を取り付けたヤツ、巨大な三角形の甲羅を纏っているヤツ、馬の様な脚を三対持ち腹部に巨大な口のあるヤツ、黒々としたレンズをそなえた二本脚のヤツ、その他諸々……なんともまぁ、趣味が悪いを通り越して悪意すら感じる。
「どういう美的センスしてんだよ……」
呆れ声しか出ない。一度、この兵器を生み出した輩の頭の中を覗いてみたいものだ。
ともかく、あの生体兵器がAMIDAの派生かどうかはおいておくとして、目に映っている部隊が生体兵器を捕獲しようとしているのは間違いない。
一応中立であったリオにすれば、キサラギ社は敵でもあり味方でもあった。
個人的な感想を言えば気に入らない、というか大嫌いだが。
だが、この状況で下手に手を出すわけにも行かない。
友軍信号を発しない者は敵と認識される。間違っても仲間と取られる事はない。それがレイヴンの世界なのだ。
それにACっぽい機体の機動、なかなかの手練れだと分かる。だが何というか、ぎこちなさというか、それに近い感じを受ける。ACよりMTに近い、ロボット然とした硬さが動きにある。
その動きに言いようのないじれったさを感じるリオを後目に、既に戦闘は終結に向かっていた。
状況はACっぽい機体の方が優勢。間もなく終わるだろう戦闘は、後々の課題をリオに突き付ける。その内容は、動き回る機体達が、あの生体兵器を片づけたらこちらに気付くのも時間の問題ということだ。
いきなり戦闘になるとは考えづらいが、もしかしたら、こちらの首に懸けられている賞金を狙って仕掛けてくるかもしれない。自分はあのバーテックス動乱のお陰で、随分と高額の賞金首になってしまったのだから。
そう考えるとリオは一旦余計な思考を追い出し、眼前に繰り広げられる戦いに目を向ける。
まずは奮戦しているACに似た機体。
確認する限りで数は12機。全機細身の軽量級機体と判断。主兵装はマシンガン及びその銃身を延長したライフルらしき物。ACとは違い、ブースターは確認できず、代わりに腰部の部分にそれらしきパーツが装着されている。背面には兵装の予備だろうか、同じ形状のマシンガンを背負った機体や、巨大な剣らしき物を背負っている機体もある。機体全身を覆うほどの盾を保持している機体もある。
どうやら部隊内で前衛、後衛の役割がある様だ。
機体の機動性に関しても、生体兵器と戦う分には問題ないだろう。迫り来る生体兵器を避け続けているのがその証拠だ。ただ、その代償として軽量級の逃れられない運命―――装甲が貧弱だと推測される。
対して生体兵器は確認できるだけで4~5種。巨大な甲羅を被っているヤツはその巨体を生かして突撃戦術を、二対の前腕を持つ蠍の様なヤツはその巨椀を振り回し殴りかかる。
その足下を芋虫に人間の上半身が生えた様なヤツや、腹部らしき箇所に口がある赤褐色のヤツがちょこまかと動き回って、AC似の機体に取り付こうとしている。
数による制圧を目的にしている生体兵器に対して、チームで動き確実に数を減らす人型兵器。
こうして確認してる内にも生体兵器の数が次々と減っていき、かつてレーダー上を埋め尽くしていたであろう数は、いまや目視で数えられるほどに減っていた。
もうすぐ眼前で繰り広げられる戦闘も終わるだろう。そうなった時、あの機体達はこちらに向かってくるのか?
気付かれてないと考えるのは、少々希望的観測過ぎるだろうか。戦闘中である為、無視されているのか。
逃げるべきか、止まるべきか。
主観に頼らず、自分に都合のいい解釈をせず、あらゆる方向から見定めろ。
教えられた言葉を思い出し、思案する。
表だって敵対してなかったとは言え、彼らは生体兵器の事を隠したがる節がある。となると、口封じの為目撃者であるこちらに攻撃を仕掛けてくる算段の方が高いと出た。
戦闘に陥ったときの勝率は? チームワークを崩すにはどの機体から潰すべきか、前衛と後衛、驚異度の高いのはどちらか―――だが、捕獲した生体兵器を放り出してこちらに構う暇が彼らにあるか? こちらから攻撃を仕掛けない限り、無視してくれるという可能性もなきにしもあらず。ならば……
それ以上の思考は僅かに感じられた異変によって、途切れさせられた。
その異変に気付いたリオの表情が硬くなり、眉を顰める。
機体が、そして機体が踏み締めている地面が、微弱に、しかし確実に振動を始める。
その振動に影響され、腰に結びつけている物体が、チリンと音を立て始めた。
後書き
ここまで読んで頂き有難うございます。筆者のD-03です。
今回はまだヴァルキリーズと絡みませんでしたね。次回以降に持ち越しとなりましたので御容赦ください。
なお加筆修正にあたって、築地をオリキャラから公式キャラへ変更いたしました。とは言え、半脇役の彼女ですので、口調に今ひとつ自信が持てません。こんな雰囲気だったかな、と頭を捻ってはいるのですが何とも奇妙な喋り方になってしまいます。書きづらい。
さて、次回で介入……になるかどうかは判断付きませんが何卒宜しくお願いいたします。
では、次回もどうぞ、リオにお付き合いください。