碧き残光を走らせながら―――
真紅の残光を走らせながら―――
赤き鋼鉄の巨人が―――
蒼き鋼鉄の巨人が―――
高速で激突する―――
互いの相対速度はかなりのもので、お互いの攻撃範囲に入るのは直ぐである。
先に相手を捉えたのは蒼き鋼鉄の巨人、ブルーセラフだ。
ブルーセラフの搭乗者、ゼロはロックオンサイト内のロックオンマーカーで捉えている赤き鋼鉄の巨人に対して右手の破壊の楽器を構え奏でる。
奏でられし音色はパアンパアンと続けざまに響かせながら赤き鋼鉄の巨人を襲う。
しかして赤き鋼鉄の巨人は天高く舞い上がり蒼き熾天使を見下ろす。
そして赤き鋼鉄の巨人、プロトエグゾスは両手の狂気の楽器を同時に奏でる。
二つの楽器は破壊の楽器以上のカタストロフを見舞う。しかし、天使は小刻みにステップを踏みながら文字通り踊る。
互いに踊る踊る―――
互いに奏でる奏でる―――
破壊のロンドを―――
狂気のワルツを―――
プロトエグゾスの搭乗者、イツァム・ナーは詠う。歓喜を。
「フフ、フフフフ、フハハハ、アッハハハ! 楽しいな…ゼロぉ、この瞬間に勝る快楽はどこにも無いよ」
彼女は陶酔したように笑い詠う。それに彼は――ゼロは答える。
「ああ、楽しいよ! こんなにも殺し合いが! ――戦いが楽しいと感じる瞬間は滅多にない。だから…!」
――だから――
「「だからもっと楽しもう! この瞬間を!!」」
ブルーセラフOB起動。加速。右手リニアライフル左手ショットガン掃射。一撃離脱。
プロトエグゾス更に跳躍クィックダッシュ発動。一瞬にして視界外へ。途中右手マシンガン乱射。マガジン交換。
両者重心移動で急旋回。真正面。正対。
ブルーセラフ、エクステンション発動。OB再点火。左手リロード終了。
プロトエグゾス全バーニア点火。インサイド展開。EO起動。右手マガジン交換終了。
両者再びエンゲージ。
プロトエグゾスが飛び出した直後、ブルーセラフは右真横へ重心移動による急速スライド移動。
プロトエグゾスから放たれた徹鋼弾数十発、レーザー光線数発、ロケット弾は全てブルーセラフを捕らえずに終わる。レーダーを確認するまでもなくナーは機体を右脚を軸にした円周旋回を行い再度ロックオン。だが今の動きで彼女の機体の右脚は悲鳴を上げ、ステータスが最初のブルーからグリーンをへてイエローに変わる。しかし発生したエラーをコンマ何秒という単位で瞬間的に処理。
直後、ナーは上空へ逃げる。
プロトエグゾスが居た場所をライフリングとリニアモータで撃ちだされた光速の弾丸と八発の散弾が通り過ぎていく。
二機は飽くことも無くまた突撃、回避、離脱を繰り返す。しかしそれはただの単調な光景ではなく一つの演舞になっている。
ゼロとナーの二人はただ、踊る。奏でる。
その形相には歪に、しかし歓喜に震える顔。
目はギラギラと血走り、口元には笑み。操縦桿は砕けるほど強く強く握られ、ペダルはリズムを取るかのように小気味よく踏まれるか、踏み抜けろとばかりに思いっきり踏まれる。
鼓動はどこまでも加速し頭は冷めているのか茹っているのか分からない。脳内ではドーパミンやらアドレナリン等の脳内物質が過剰に分泌され薬物常習者のように覚醒、興奮する。だがやはり冷めている。
精神は興奮、高揚しているが、どこかでクールに冷めている。
その冷めた部分が猛禽類のように只管、相手の隙を見つけ見逃すまいと狙っている。どちらかが隙を見せればそのケモノが、狩人が本格的に目を覚まし牙をむき出し、ツメを振るうだろう。
―――上位ランカー同士の戦闘は一種の精密作業だ。
いかにして自分のペースに持ち込むか。それが要である。
低ランクのレイヴン達が繰り広げるようなグダグダな児戯ではない。ホンの一瞬のイニシアチブとアドバンテージで勝負が決まる。
実力と運、そんな世界なのが上位ランカー同士の戦闘である。
戦闘中に起こる一筋の勝機、そのワンチャンスを見逃すまいと針の穴に糸を通す以上の繊細な作業工程。
戦いは一瞬で決まる。
まさに戦場での一つの真理―――
だがそれは二人に限った話ではない。
二人の演舞に見せられる会場にいる観客、ギャラリー達。モニターで中継映像を見ている全ての人々。
その全てが同じ状態だ。
ノドを鳴らし、ツバを飲み。掌を硬く握り締め、腕からは血管が浮き出ている。足も体も一歩も動くまいと岩のように微動だにしない。
そして一挙一動見逃すまいと目はギラつき血走り、聴覚も研ぎ覚まされている。
まるで二人のダンスを見逃すまいと、演奏を聞き逃すまいと。
誰もが魅せられている。
この二人の王者達の舞踏会に。
「そこ!」
ゼロは狙う。プロトエグゾスの一番負荷がかかっている右脚周りを。
ナーは狙う。ブルーセラフのエクステンションのエネルギー容量が尽きるのを。
だが先に動いたのはゼロ。
ゼロはプロトエグゾスの行動パターンを読みショットガンを2連射する。ナーは避けようといつものクセで上空へと退避しようとするが、機体を飛び上がらせた直後、リニアライフルの弾丸がプロトエグゾスを襲う。
ショットガンの散弾が3発、プロトエグゾスの両脚に当たり、リニアライフルの弾丸が左脚の足の裏に直撃する。
≪脚部損傷≫
「まだだ」
バランスを崩すプロトエグゾス。だがナーは両肩のブースタを独立させて動かし姿勢制御を行う。その間、右手のマシンガンでブルーセラフを近づけまいと弾丸を撒く。
そして脚部のブースタエネルギーラインをカットし姿勢制御に維持させる。
ナーはプロトエグゾスのメインブースタを噴射し静かに着地する。
そこに一瞬の硬直を見せる。そしてそれを見逃すゼロではない。
「「まだ終わりじゃない!」」
それは対照的な台詞。
ゼロの言葉はナーに決定的な攻撃を決めようと。
ナーの言葉はゼロの攻撃を回避し反撃の糸口を見つけようと諦めの意思を跳ね除ける。
ナーはインサイドからロケットを四発撃つ。その攻撃はゼロの行動範囲を予測しその移動線上を狙ったもの。
そしてその一撃がブルーセラフのコアに直撃しようとする。
今からでは回避は間に合わない。だがゼロは諦めない。
ゼロはブルーセラフの右脇の格納ハッチを開き、そこからハンドガンを強制的に出す。本来ならその部分からサブアームが伸び補助を行うのだがゼロはそれを行わせなかった。
結果的にハンドガンは格納スペースからポロっと落ちる。
だがその落ちたハンドガンがロケットの攻撃を受け止める。
炸裂し花火を上げるハンドガン。その爆発はブルーセラフを傷つける。
≪コア損傷≫
だがゼロは止まらない。
「ぐぅううぅぅっ!!」
苦悶の声が吐き出される。けれどゼロの視線は正面をプロトエグゾスだけを見ている。
コアは損傷しOBをこの状況で発動させるのは得策ではない。だから通常推力で接近する。
対しナーは機体を下がらせようとする。だがここにきて再びショットガンの一撃を貰う。その衝撃で右脚が遂にステータスがレッド信号を発する。油圧パイプ、アクチュエータ、モータ等などが損傷破裂する。
だが、だが、ナーはまだ諦めない。
時間軸や世界観は違うが、同じACのパイロットである女傑はこう言った。
『過程は関係ない。最後に立っていれば!』
と。
故に同じベクトルであるナーも諦めず最後まで足掻く。最善を尽くさないのは自身のプライドが信念が許さない。
自分は女帝、ランク1位なのだから。
「くっ…まだ行ける!」
最後のインサイドロケット発射――ゼロはそれを回避――だがナーはマシンガンを掃射――その攻撃はブルーセラフのショットガンと左腕を損傷させた。
≪左腕部損傷≫
「ふぅう!」
ゼロは格納からレーザーブレードを取り出しリニアライフル乱射。ナーはメインブースタと追加ブースタを使って回避するも脚を損傷したプロトエグゾスの機動力は落ちておりリニアライフルの一撃を頭部に受けてしまう。
≪頭部損傷≫
「だからどうしたッ」
プロトエグゾスが怯んだ隙にブルーセラフは接近、ゼロは左腕に装備した真紅の刃をした刀身の長いレーザーブレード、通称:ハルバードで斬りかかる。
真紅の閃光が走りプロトエグゾスの右腕を二の腕の辺りから斬り飛ばし、コアにも赤く赤熱した焼き切った後を残した。
その焼き切られた部分からはコクピットが少し覗ける。
―――終わったか……?
誰もがそう思った瞬間。
プロトエグゾスはまだ動き、戦いの意思を見せる。まるで搭乗者であるナーの意思を表すかのように。
ゼロはこうなることを読んでいたのか既にハルバードが振りかぶられている。
無論、ナーもこのまま容易く終わらない。機体を高速ターン、行き成り背中を見せる。
何を?! っと誰もが思う瞬間、ゼロはマズイと思った。だが既に手遅れである。
背中を見せたナーは両肩の追加ブースタを強制パージ。ボルトが爆破しコクピットに衝撃が襲う。そしてハルバードの斬撃は追加ブースタを切り裂いた。
切り裂かれた追加ブースタは内部のエネルギーラインに残っていたエネルギーに火がつき、ブルーセラフの目の前で爆砕し砕け散る。
視界を一瞬奪われたゼロはどうするか刹那の瞬間思ったが本能で機体を動かす。
ゼロはジャンプせず背面のメインブースタで飛び上がる。
だが
「堕ちろ!」
「!? マズった…!?」
背後から襲う衝撃。プロトエグゾスの残った最後の武装:レーザーマシンガンの光線がブルーセラフのブースタを襲い破壊する。
翼を失ったブルーセラフは堕ちる。
ゼロはAIの補助でブースタへのエネルギー供給を遮断しエネルギーの逆流を防ぐ。
そしてブルーセラフは持ち直し、ハルバードを振る。
だがプロトエグゾスはクィックダッシュで距離を取り左腕を構える。既にブースタとラジエータへのエネルギー供給は断ち切ってある。余ったエネルギーは全てレーザーマシンガンに集まる。
トリガーを引くナー。レーザーマシンガンから通常よりも倍のエネルギーが迸る。
そしてその一撃はブルーセラフの左肩と頭部を貫く。
だが、まだまだ終わらない。
ブルーセラフは最後の力を振り絞り右腕を、リニアライフルを構え突き出す。
だがブルーセラフはそこで止まってしまう。
これまでの戦闘の過負荷で機体が遂に悲鳴を上げ停止してしまったのだ。
「「…………」」
両者黙る。
数秒か数分か最初に口を開いたのはゼロである。
「クク…クククク! クッハハハハッ!!」
行き成り笑い出すゼロ。
「フフ…フフフフ! フッハハハハッ!!」
そしてゼロの笑い声に釣られるようにナーも笑い出す。
「あ~~チクショウ! 負けた!」
「ふふふ、最後は紙一重だったな。ま、今回は私の方に天使が微笑んでくれたのだ。次はどうなるか分からないよ」
「次は絶対負けん」
「うふふ……ぁ~あ、それにしても終わったしまったな」
「まぁ仕方ない。取りあえずお前は明後日には準決勝なんだ。頑張りな」
「うん」
そして崩れ折るプロトエグゾス。脚部のダメージが限界に達したのだ。
ゼロとナーはそれぞれの愛機と同じように静かに意識を落とす。
『………………ハッ!? あ~~~っとぉ! つい真剣に魅入っちまったぜ。勝者は熾天使を堕とした女帝!! イツァム・ナーッ!!! いやぁ今回の試合も凄かったぜぇ。つかもうこれが決勝でよくね? って思うんだが。まぁ何にしてもこんなにも素晴らしいモノを見せて貰ったんだ。勝者敗者関係なく、アリーナの歴史に残る名勝負を繰り広げたお二人に惜しみない賛辞をお送りくださいなッ!!!!』
司会の締めの言葉に会場は割れんばかりの熱狂に包まれた。
しかしこの日、実はもう一つアリーナの
いや、レイヴンズアークと企業の歴史や記録に残るある事件が起きていた。
その場所は、今もっとも話題のホットな地域。
ナービス領である。
後書き
act.5終了。
ゼロとナーの激闘で今回はちょっと厨二的な要素の文章がありますが自分で読み返してみてちょっと恥ずかしかったってのは内緒です。
さて今回のサブタイトルはある重要なターニングポイントを示しております。
それはゼロとナーの内、どちらかが勝った場合の分岐です。もし今回の話、ゼロが勝っていたら物語は以外な方向へと変貌します。
そして次回からはフェイト視点。つまりNEXUSサイドです。ジャックや隊長、ジノに他ゲーム中出番の無いレイヴン達も活躍する予定であります。
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