聖暦20年12月22日。
フィアッツァ大陸の三国の内、アルサレアとヴァリムの国境地帯の一つに、両国で一番の激戦区がある。
その名は、サーリットン。
サーリットンは砂漠に覆われた年がら年中乾燥した気候の大地で、ここを越えさえすれば両国の首都に尤も近づくための足掛かり的な拠点となる。
ヴァリムにとっては他にも侵攻するための手段があるがここを越える方が一番手っ取り早い。アルサレアもまた然り。
また、サーリットンの中でも一番の激戦区であり重要拠点の軍事都市カンドランドもある。
そして現在、アルサレアとヴァリムはそのカンドランド周辺区域で膠着状態で睨み合っている。
「クソッ! どうにかならんのか!!」
一人の肥えた男が怒鳴り散らす。
ここはヴァリムの臨時ベースキャンプで、現在彼等は窮地に立たされている。
というのもヴァリム軍は現在、アルサレア方面の勢力圏に深入りしたため孤立状態なのだ。
何故そのようなことになったかというと、聖暦19年にアルサレアで開発された、史上初の二足歩行兵器【パンツァー・フレーム(PF)】その第一号のJファーに遅れること翌年にヴァリムも様々なバックアップの元、自国でPF:ヌエを開発・大量生産した。
それまでの鬱憤を晴らすように各地でPFによる侵攻を再開したヴァリム。そして今回こそこのサーリットンを越えようと、尤も優秀なヴァリム戦略機動軍を500機以上も用意した。
物量を用いた大規模侵攻作戦を展開したヴァリムだが、一番の問題が発生した。
それは本作戦の司令官が無能だったのだ。
作戦とも言えないような無謀な突撃を行った結果、アルサレアが仕掛けたゲリラ戦法とトラップにより、なんと500機以上もいたPFが三日と経たずに七割をも失い。現在まともに稼動できるPFは2個大隊に2中隊規模しかない。
更にアルサレア側の指揮官は名将と名高きグレン・クラウゼン元帥で、無能な司令官とは太陽とスッポンも違う。
「貴官等も何かないのか!?」
再び無能な司令官のダミ声が響く、司令官は鼻息荒く目の前に立つ四人の指揮官に問う。
ヴァリム戦略機動軍第一大隊の隊長“ヴァリムの猛牛”の異名を持つ、バール・アックス少佐。
ヴァリム戦略機動軍第二大隊の隊長“クリムゾンソード”の異名を持つ、フェイト・アークエイル大尉。
ヴァリム戦略機動軍第一遊撃中隊の隊長“黒夜叉”の異名を持つ、グリュウ・アインソード大尉。
ヴァリム戦略機動軍遊撃支援連隊の隊長“水破兵破”の異名を持つただ一人の女傑、ルナ・A・イルマタル大尉。
この四人がヴァリム軍が誇るトップエース達である。
しかし今彼らは馬耳東風、馬の耳に念仏と、全く司令官の話を聞いていない。
「貴官共! 真面目に考えたまえ!」
顔を面白いくらい真っ赤にした司令官が怒鳴り、漸くフェイトがやれやれと首を振りながら口を開く。
「司令、今作戦の失態は貴方の責任だ」
「なっ! 貴様、漸く口を開いたかと思えば言うに事欠いて責任は私にあるだと!!」
「そうでしょ。作戦の“さ”の字もない無意味な強行に一体どれだけ損害が出てると思ってるんですか? はぁ、ホント、強硬派には無能なヤツ等しかいないのか? ―――ヴァリムも末期だな」
フェイトの言葉に他の三人は失笑を漏らす。そしてその言葉に激怒する司令官。
「キサマァァッ!! 言わせておけば好き放題と。それなら貴様等、穏健派どうなのだ! 何か考えがあるのだろう! えぇ! ヴァリム軍切ってのエースパイロット、フェイト・アークエイル大尉」
「ふむ」っとフェイトは呟き、一瞬顔を伏せるが直ぐに顔を上げ口を開く。
「なぁ、司令」
「なんだ」
司令は不機嫌そうに返すがフェイトは構わず話す。
「戦場で上官の戦死の理由は何が一番か知ってますか?」
「…? 意味が分からんぞ」
「上が本当、無能だとさ、下の人間は困るわけよ。確かに軍だとか組織において上の命令は絶対だけどさ、そいつが何かしらで死んだら如何なる? そう例えば流れ弾とか、さ」
「貴様、まさか!?」
フェイトの言ってることを遂に理解した司令は目を見開き後ろに一歩下がる。
そして二歩目下がろうとした直後、フェイトが右腕を司令官に向ける。その手には黒光りする一丁の拳銃。
「は、反逆罪だぞ! い、今なら見逃そう。だ、だから……!」
「だから?」
「おい、お前等! な、なんとか……!?」
司令は辺りを見渡し助けを請おうとするが誰も助ける気配はなく、部隊員に非戦闘員を含む全員は明後日の方を向いたり目を瞑ったりしている。
「き、貴様等っ! ―――ッ!!」
司令はその状況に憤り叫ぶがその全ての罵詈雑言を言う前にフェイトに射殺される。
そして各々の反応は。
「流れ弾だな」
「あぁ、流れ弾のようだな」
「流れ弾のようですね」
バール、グリュウ、ルナの三人は流れ弾の一言で済ます。
また、他の連中も同様に頷くのみで、誰も特に何も言わない。
「隊長方!」
と、彼等の間に数人の兵士達が現れる。彼等の傍には手錠で繋がれた数人の兵士達。
それにバールが応じる。
「鼠を捕らえたか」
「はっ! 強硬派、ガルスキー派関係の不届き者達全てを捕らえました」
実行班班長の言葉にグリュウ達四人は目を合わせながら頷く。
「さて、この者達を如何する?」
グリュウはこの場に居る全員に問いかける。
「粛清を!」 「我等の情報を売り渡すような連中等仲間ではない」「無用な殺しはどうかと」「流石に同胞の死は…」
等などと様々な意見が出てくる。ちなみに捕らえられた連中以外は基本的に穏健派寄りで、その一番の理由としては、矢張り彼等の上官の意志もある。
グリュウは三人の方を向く。
「お前達は如何だ? 俺としては情状酌量の余地はあると思うが」
問われた三人は、先ずバールから答える。
「ワシとしては強硬派の連中は生かしておいてもいいと思うぞ」
バールは強硬派の連中も同じ国を思う同胞とし生かすことを述べる。
「私は後の遺恨を残さない為にも排除すべきだわ。フェイトは?」
ルナは今後の為にと排除せよと述べる。
「ガルスキー一派は排除、これは譲れん。あとは―――」
フェイトは組んでいた腕を解き、強硬派に向き直る。
「お前達、国を、ヴァリムを思う気持ちはあるか? 嘘偽りなく答えろ」
強硬派の連中は暫くフェイトの顔を凝視していたが、やがて一人が決心したのか、口を開き声を大にして答える。
「当然だ。俺達は国を愛している。俺達はアンタ達が妙な行動をしないように監視の命令を受けていた」
「そうか。俺も―――いや、ここにいる殆どのヤツ等は皆、国を愛している。だが一部の腐った愚か者共のせいでヴァリムは衰退し始めている。我等はそんなヴァリムを立て直す。お前達も共に来ないか?」
そう語りかけながらフェイトは強硬派の手錠を外し、手を差し出す。
リーダー格の男はフェイトの顔を睨みながら逡巡し、やがてフェイトの手を取ろうとする。
が、突然ガルスキー一派の一人が口を開く。
「貴様達、そいつの甘言に惑わされるな。その男は自身の障害と見做した者は平気で殺すような男だぞ。そこにいる奴等もそうだ!」
そう喚き立てるが、フェイトはそれを無視する。
「惑わされるな。お前達の信念元、選べ。そして一つ教えておく。ヴァリムが戦争を仕掛けた切欠は上の腐った奴等とギルゲフの手前勝手な詰まらん理由だ」
強硬派の男は、目を瞑り考え込むが、一分と掛からずフェイトの伸ばされた手を取る。
「アンタ等はヴァリムに栄華を齎せれるのか?」
「約束しよう。俺達は必ず、嘗てのヴァリムを取り戻すと。―――共にヴァリムの為に戦おう」
フェイトのその一言にグリュウ達はただ頷く。
「貴様等!」
ガルスキー一派が口を開く。
が
「そいつ等は適当に詰めて放置しておきなさい」
「はっ!」
ルナの一声で彼等は連行されていく。
連行されていく連中を適当に見送ったあと、フェイト達は残った全員を集める。
「これより作戦を説明する。まず少数程を非戦闘員の護衛として別行動を取ってもらう。残りはアルサレアの部隊を正面突破する!」
フェイトのその作戦にざわめきが起こる。
だが彼等はそれを気にせず次にグリュウが言葉を発す。
「敵の総大将であるグレン・クラウゼンは戦闘の意思なき者には寛大だ。それならば、言葉は悪いが足手纏いうのいない此方は気にせず正面のアルサレアに集中できるというものだ」
グリュウのその一言に若干何名かが気落ちするが、仲間の足を引っ張るわけにはいかないと逸る気持ちを抑える。
グリュウに続きバールが次を話す。
「各中隊長は、この場に残れ! 最終ミーティングを行う。残りは自機のチェックだ。整備班も手伝えい! 電子将校は、機材のデータを手持ちのディスクやら何やらに上書きしてでも持って帰れ!」
最後にルナが締める。
「一人でも多く祖国へ帰るわよ! ここが正念場よ、全員、気を引き締めなさい!!」
『了解!!』
彼女のその言葉を締めとし全員、敬礼する。
フェイト達の前には、まだ十代後半の少女が二人並んでいる。
「私達を呼んだ理由は何でしょう?」
「まさかアタシ等を先鋒としてくれんの?」
二人の少女、ユイ・キサラギとマイ・キサラギの両少尉である。
その二人にバールが代表として答える。
「二人には非戦闘員の護衛を頼む」
この言葉に二人は別々の反応を見せる。
ユイはこうなる事を読んでいたのか冷静にただ黙して首肯するのみ。
但し妹のマイは。
「えー! 何でだよ!? アタシは戦いたいよ。なんで態々、護衛なんて詰まんないことをしなきゃいけないんだよぉ」
と、この有様である。
彼女は、非常に好戦的な性格なため護衛のような消極的なことは好まない。
「駄目じゃ」
「なぁなぁ、いいじゃんよアタシ等二人、目一杯役に立つよ。護衛なんかは他の奴等に任せてさぁ……」
「マイ、少し落ち着きなさい」
尚も捲くし立てるマイだがユイがそれを抑える。
「でもよー姉貴」
「マイ。私の言うことが聞けないの?」
ただでさえ冷たいユイの声が寄り一層冷たさを増す。
姉のそんな様子を察し、マイは渋々と黙る。
「申し訳ありませんでした」
「いやいい」
「ですが、一つ聞かせてください」
「何じゃ?」
「何故先ほどは私達も拘束しなかったのですか? 自分で言うのもなんですが、私達は強硬派側、それもギルゲフ様の兵でもあります」
「だが同時にお前達はヴァリムの兵、国民だ」
ユイの疑問にフェイトが返す。ユイは眉を顰め困惑の表情をする。
「…ですが」
「二人とも自由は欲しくないか?」
「「え?!」」
フェイトの言葉に二人して声を上げる。
「誰かの利権の為ではなく自分達の為に。人形ではなく人として在りたくはないか」
二人は他の三人にも視線を向け、三人とも静かに頷くのみである。
「か、考えさせてください」
「あ、姉貴!?」
姉のまさかの言葉にマイは声を荒げる。が、ユイは妹の手を取ってこの場から去る。
「ちょっと強引じゃないかしら。でもまぁ、あの子達のようなのにはちゃんとした人としての営みを与えたいわね」
そんな二人をまるで母や姉のような眼差しを向けていたルナはフェイトに苦笑交じりに言う。
その言葉にグリュウとバールも苦笑を浮かべる。
「隊長方! 準備が整いました!」
そこへ現れるバールの部隊の副官。
「よっし、それじゃ気張って行こうかの!」
「ああ、行くか」
「この一戦、なんとしてもこちらの被害を抑えたいものだな」
「なら、子分達の分も私達が暴れましょう」
四人はそう口々で言いながらそれぞれの個人カスタム機のヤシャに乗り込む。
バールのヤシャは、装甲材質を堅牢なものにし通常のヤシャの倍以上の防御力を持っている。
フェイトのヤシャは、装甲を軽量化しブースタを高出力型に変更し更にウィングを装備し機動性を向上している。
グリュウのヤシャは、装備の違いこそ無いが内装は全て高品質の物が搭載され、全体的なスペックが高い。
ルナのヤシャは、支援用にと遠距離武装が装備しているが機動性は全く落ちていない。
パワーによるごり押しのバール、スピードを活かした斬り込みのフェイト、技術を活用するグリュウ、背後からの支援のルナと、彼等四人は常にこの部隊編成で功績を上げてきた。
そして準備の整った彼等は部下達の元へ歩む。
『各員準備はいいな? では幸運を祈る』
グリュウの言葉にそれぞれが敬礼し非戦闘員を乗せた輸送車と護衛の部隊は行動を開始する。
『では我等も行動を開始するぞ』
『「『応! / あぁ! / えぇ!』」』
そして残った全ての部隊が一斉にブースタを起動し、砂の大地を猛進する。
その一団の中から飛び出す四機のヤシャ。
『グアンナ隊各機、一人でも多くの味方と共に帰還するぞ!』
「クリムゾン隊、死力を尽くせ! 国境に近づけば援軍も必ず来る筈だ!」
『闇刀隊、力尽きた友軍は出来る限り手を貸せ! 再び祖国の土地を踏みしめるのだ!』
『雷上隊、クリスマスまでには帰るわよ。帰還したら宴会よ! だから絶対生き延びなさい! これは命令よ!』
『了解!!!』
『「『『行くぞ! 誇り高きヴァリムの戦士達よ!!』」』』
背水の陣だが、武士(もののふ)達は誰一人絶望を持たない。
全ては祖国の為にと。
そしてそんな彼等を迎え撃つはアルサレアが誇る名将、グレン将軍。
「現れたか―――――ヴァリムの武士達よ」
今、史上初のPFによる激闘が開始される。
後書き
Reverse SideⅠ-A終了。
しかし今回もまた長めでお送りします。
で、この話は、リバースサイドで基本的にヴァリム側の話です。
今回出てきた新用語は各種設定用語集に収録しております。
ちなみに流れ弾の行は、とある漫画のオマージュです。
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