響く歓声。その歓声を上げる人々によって会場(アリーナ)は熱狂の渦に飲まれる。
その会場で対峙するのは、ランク1位のイツァム・ナーとランク4位の丁。
そう今日はレイヴンズアーク主催のスペシャルアリーナ、オフィシャルマッチの日で、その第一試合がもう間も無く開始されようとしていた。
各所の観客席ではギャラリーが今か今かと目をギラギラして見ている。また早くも外野が乱闘騒ぎを起こしている場所もあれば、いかにもVIP席といった場所では肥え太った男やどこぞのセレブな人々が冷め切った目で見詰めていたり、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている者も居る。
と、そこにスピーカーから音声が流れる。
『あ~~テステス、マイクテスト。よぉしOK―――――
皆様、朝早くからオハヨウ御座います!! さあ今月もやって来ましたっ! 当施設主催のオフィシャルマッチが! 司会は何時ものオレ、カーニバルメーカー!! 知らないご新規さんにはあえて教えておくけど、これでもオレ、昔はレイヴンだったんだぜぇ!!』
会場の中でも尤も見晴らしの良い場所である特待席に一つの集団がいる。
「こいつの司会は何とかならないのか? たまぁに放送席に殴り込みに行きたくなるんだが」
スピーカーから垂れ流されるアナウンスの声に、ゼロが煩わしそうに文句を垂れる。
そんな彼の周りには三人の男たちがだれている。
「同感」
寡黙にただ一言ゼロに同意を示す男は、ゼロと同じランカーレイヴンでランク13位のABYSS。
「ところでエドはまだか? そろそろ始まるぞ」
眼鏡を掛け思慮深そうな男、彼もランカーレイヴンの一人でランク5位のミューズ。
「仕方ありませんよ。僕たち全員分のを買って来て貰ってるんですから」
そして一人だけまだ少年の域を出ていない人物、彼だけはゼロ達と違い、一人上位ランカーでは無く、まだまだ下の【ビギナーズマッチ】という下位のサブアリーナ所属のレイヴン、ギア。
「待たせた!」
と、彼等の後から一人の男が両手にビニール袋を引っ提げて現れた。
「遅いぞエド」
「あのなミューズ、試合が始まる前に売店が込むのは当たり前だろうが」
「それでもジャンケンに負けたのはエド」
「ほっとけABYSS! おら好きなの取れ」
エドが置いた袋からそれぞれ好みのドリンクを取り出し、特待席に備え付けられているテーブルにバケツサイズのポップコーンを置き全員でつまみ出す。
―――さてここで一つこのアリーナの仕組みを解説しよう。
レイヴンズアークは各地域事にアリーナを開催し、そこではアーク規定のレイヴンポイントというのを準拠にしてアリーナの対戦カードを決めている。ちなみにレイヴンポイントはミッションの成績等やアリーナの試合で大きく変動し、中にはアリーナに殆ど出場しないレイヴンもいるがそのレイヴンポイントが多くそれにより上位にいたりする者も居る。
で、アリーナには、アークが用意したAIACと戦う【テストアリーナ】
下位や中位レイヴン達の巣窟であり登竜門と呼ばれる【サブアリーナ】
そして中位や上位クラスが睨みを効かせる【メインアリーナ】
と、この三つのアリーナがある。
ちなみにだがアリーナに登録されているレイヴンは“ランカー”と呼ばれる。
また【スペシャルマッチ】というのも定期的に開催されており。
現在行われている【オフィシャルマッチ】、二対二の【タッグマッチ】、特定の脚部のみの【レッグマッチ】、チームを組んで行う【チームマッチ】etc...
そして特に人気が高く盛況なのが、各地域から代表を選出して行われる【ワールドマッチ】というのがある。
どのスペシャルマッチも勝てば大量のレイヴンポイントを貰え、様々な特典が付いてくる。
アリーナというのはこの錆びれた世界に於いて尤も人々に馴染み深い娯楽であり、一部のレイヴン達にとっては格好の活躍どころである。―――
『さあ時間だ。第一試合をおっ始めようかッ!! 第一試合の対戦カードはランク1位の女帝! イツァム・ナー、AC名はプロトエグゾス!!! 対するはランク4位の丁! AC名は葉隠!!! どちらも軽量で瞬間火力に優れた機体だ!!』
『行くぜえぇぇ。―――レディイィ・ゴォーーッ!!!』
開始の合図と共にナーは機体を飛び上がらせる。それに対し丁の方はOBで一気に攻め込む。
飛び上がったナーのプロトエグゾスはただその場に機体を滞空させる。
OBで接近してきた丁の葉隠は、OBを切り通常推力で行動し左肩のレールキャノンを展開する。
『射抜く』
砲身からは黄緑の光が迸り一筋の光線が飛ぶ。
光速で放たれるレールキャノンの攻撃は普通は真正面からではとても避けれるものではない。
だが。
「ふっ!」
直撃するという瞬間、飛来した砲弾をナーは機体の半身に逸らし、まさに紙一重、神技といった感じで避ける。
「私は―――…私は敗北を知らない…」
突如彼女の紅すら塗られてない唇から高らかに詠うように言葉が紡がれる。
「…私は堕ちることを知らない…」
次々と飛来するレールキャノンの光速砲弾。だがナーはそれをいとも容易く、先ほどのように紙一重で回避する。
そして尚も彼女は詠う。
「…故に私は…」
葉隠とプロトエグゾスは遂に互いの主兵装たるマシンガンの射程距離に入る。
丁の葉隠はレールキャノンを畳み武器腕のマシンガンを構え、
ナーは両腕をまるで翼のように大きく広げる。その時、頭部のYH08-MANTISの極細なカメラが一際碧く輝き光が奔る。
その直後、プロトエグゾスの姿が丁の視界から消えた。
『何? !?』
丁の戸惑いの声が発する。彼は即座にレーダーを確認しナーを追う。
『後?!』
「私は誰にも負けない」
いつの間にかナーは丁の後に回り込んでいた。
『出たーーっ!! 一部の変態共十八番のクィックダッシュ!!!』
司会の声が響き、観客席からは途轍もない歓声が轟く。
クィックダッシュとは、ブースタを一瞬で最高速で噴射し、極短距離において一瞬の内に移動する技術のことを言い。司会の言うとおり扱えるのはごく一部のみである。
クィックダッシュは一度使えば、簡単にアドバンテージを取りやすいが勿論デメリットも存在する。
まず、使用時には瞬間的に機体熱量が跳ね上がり、一定以上のジェネレータ容量と出力も必要で、機体やブースタへの負荷も高く、決して乱発できるものではない。
また一瞬で最高速に到達するということはそれだけ人体に掛かるGも相当な物で、下手をすれば使った直後に意識が落ちることもありえる。
丁の後へと回り込んだナーは愛機の右手に握られたガトリングガンの形状をしたマシンガン:CR-WH79M2と左手に握られたレーザーマシンガン:WH10M-SILKYの二つの銃器を構える。
「誰であろうと、私を堕とすことなど不可能」
彼女が、ナーがそう呟いた直後、両手の銃器が火を噴く。
「だから私は……最強なんだ」
高速で回転し弾丸を吐き出す右手の機関銃と左手のレーザーマシンガン。更にそこに実弾タイプのEOも加わる。
勿論丁の方も回避し反撃しようとするが、それが出来ないでいる。
丁の葉隠は軽量2脚の武器腕機体で、機動性や運動性能は高いが、その分防御力や反動などの対処力が極端に低い。
つまり一度守勢に入ってしまったらとことん脆い機体なのだ。
またOBを使って離脱すればいいかも知れないが、OBのハッチを開いた瞬間そこに攻撃されるのが落ちなので、それすらも出来ないでいるのが現状の葉隠の状態である。
『勝てない』
丁の絶望の声が木霊し、ナーは悠然と告げる。
「お前は別に弱くない。ただ……ただ私が最強なだけだ」
『流石』
ナーの言葉を聞いて丁は一言呟きそのまま崩れ落ちる愛機と共に意識を閉ざす。
穴だらけで倒れズタズタの状態の葉隠を一瞥することもなく、ナーは物憂げに視線を上に特待席がある方に向ける。
「もし私を堕とすことが出来るとしたら、それは……それは…それは熾天使だけだ」
彼女は決して他者を意識しない。
彼女が意識するのは後にも先にもただ二つ。
ナインを冠する異端のAC
と
自分と同じトップに立つ蒼き熾天使の名を持つ機体を扱う男。
これだけである。
「ゼロ―――速く、速く来い。待ち遠しすぎる」
その祈りの言葉は何処へと届けられるのであろうか?
そしてその姿、表情はまるで愛しい人を待ちわびる恋する乙女の様でもある。
『勝者はヤッパリTOPのイツァム・ナーッ!! 試合時間はなんと100秒ジャスト! どんだけだよ、おいおい! これじゃあオレ、10秒も持たないんじゃねぇの!? カァーーーッ!!! 世界ランク8位の実力は伊達じゃないね!! ―――――あぁっとぉ! ちなみに第二試合は30分後だかんな! 早めに便所行っとけよ!! 次の試合で漏らしても知らんからなオレは!』
特待席から観戦していたゼロたちは思い思いに駄弁っていた。
「やっぱり強いですね。ナーさんは」
「まぁ伊達に女帝という渾名は見掛け倒しじゃないからな」
ギアの感嘆とした呟きにミューズがポップコーンを摘みながら返す。
「ん」
「どうしたABYSS?」
ABYSSが何かを見つけたのか小さく声をあげる。それに釣られてゼロがABYSSの視線を追う。
「アイツは…」
ゼロの視線の先には、ゼロよりも若いがギアよりも年が上であろう一人の男。
「……スタークス」
スタークス
彼もゼロ達と同じランカーレイヴンで、ランクは9位。
彼はイツァム・ナーに憧れレイヴンとなり、そして短期間で上位に食い込む程の潜在力と実力を合わせ持っている。
が、精神面に問題が有り、一部からは危険視されている。
「…………」
ゼロたちの視線に気づいたのかスタークスは鋭い視線を彼等に向ける。
否。その視線はゼロだけに向けられたものである。
スタークスの目には、憎悪や嫉妬などが浮かんでいる。だがゼロはその視線を柳に風と然して気にせず受け流す。
「…ふん……」
ゼロから視線を離したスタークスは小さく鼻を鳴らし会場を後にする。
「嫌われてるな」
「どうでもいいさ」
ABYSSの言葉にゼロは心底どうでもいいように返す。
「何か嫌われるような事が有ったんですか?」
ギアの疑問に顎に指を添えながら考えるが。
「何か? ……何かあったか?」
が、ゼロの方は何も思い当たる事は無かったので、エド達に聞いてみる。
ゼロのそんな疑問にエド達は溜息を吐く思い出質問に答える。
「スタークスの奴の経歴を確認すれば一発だろ」
「アイツはイツァム・ナーに憧れ執着している。だが彼女は基本的に他者を興味を示し意識することはない」
「けど彼女は唯一、お前だけには関心を示している。それがあの男には気に入らんのだろう」
エド達の答えにギアは成る程と頷くがゼロの方は先ほどと変わらずどうでもよさげである。
「ところでお前の試合っていつだ?」
「明日の第二試合だな。で、その翌日後に今日の勝者との対戦カードが組まれる」
ゼロがそう言ってアークのロゴが描かれているタンブラーを持ち上げストローを口に含もうとする。
「あ!」
けど何かを思い出したようにゼロは声を上げる。
「どうした?」
「エド、俺の兄貴が何所にいるか調べられたか!?」
煙草を吸おうとしたエドにゼロは詰めかかる。
「お、落ち着け! ―――安心しろ。お前さんの兄貴はちゃんと見つけた」
「何処だ!?」
「今一番ホットな場所だ」
エドの言った場所を直にゼロは思い浮かべる。
「ナービス領か!!」
「ああ、お前の兄貴はナービス領にいるよ。レイヴンとしてな」
気に入らない。気に入らない。気に入らない。気に入らない。気に入らない。
そんな不愉快な気持ちを胸中に幾度とも無く繰り返させながらスタークスはリノリウムの通路を歩む。
彼は第三試合目の自分の番のためにハンガーに向かっている。
本来は、別に人の試合を見るということをしないのだが、それが憬れている人の試合ということで観戦していたが、そこでゼロが視界に入ってしまった。
(あの時、ナーさんがこちらに向けた視線。あれは絶対、あの男に向けたものだ。クソ、クソオォ!)
「ぁ!?」
心中でゼロへの呪詛を吐いていたら通路の向こうから彼の憬れる人物、イツァム・ナーがいた。
ナーはパイロットスーツから自前の軍服らしき物に着替えており、その姿はどこまでも凛々しく気高さが滲み出ている。
スタークスは喜びを顔に出し勇気を出してナーに話しかける。
「お疲れ様です。ナーさん!」
傍から見て彼の態度は純粋な好意が滲み出ているだろう。
だが
「ぅん? …………」
「あの、ナー…さん……?」
「スマンが誰だ?」
「…え?」
「どこかで会った様な気はせんことも無い、が思いだせん。というか初対面じゃないか?」
だが、ナーは憶えてない、どころか初対面じゃないかと思ってすらいる。
「す、スタークスですよ! もうこれで5回目ですよ。いい加減、僕の名前を憶えてください!」
彼の必死な姿とナーへの純粋な想い。
だがそんな彼のナーへの想いは届かない。
「悪いが興味無い。私が他人に興味を示すのはゼロだけだ」
「…………」
決定的な一言であった。
ナーの言葉はスタークスの心をズタズタに引き裂き絶望に陥れた。
「? 私はもう行くぞ。体が、体が疼くんだ」
そう言って彼女はスタークスの前から立ち去った。
通路に一人佇むスタークスは目を瞳孔を見開き体を震わす。
「何故だ……何故だ何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ、何故だアァッ!!」
スタークスの咆哮が通路に響く。それはまるで群れと逸れた獣のように。
「何が、何が違うというんだ! 僕とアイツと一体何が!! 何でアイツが良くて僕が駄目なんだよ!!!」
彼の慟哭に返される言葉も答えも無い。
ただ無意味に辺りに響き渡るのみである。
「チクショオオォオオォォオオオ!!!!」
後書き
act.2終了
さて毎度の事ながら、独自設定が満載です。
それで、まずクィックダッシュというものですが、これの考えとしては別に単純な事で、4系のクィックブーストみたいなもんです。
そもそもがブースタという推進機関をもっている兵器は須らくブースタの出力調整ぐらいできて普通と思っています。戦闘機がいい例ですね。あとマブラヴの戦術機もそうですし。
だから旧作のACでもQBのマネゴトは出来ると個人的には思っています。
ただ勘違いされないように、あくまでも“マネゴト”です。
それとナービス領でのアリーナの仕組みは後のフェイト視点で書きます。
後、ナーの中二病的な台詞はACシリーズの伝統です(ACシリーズのアリーナトップは代々孤高で理想を追い求めるといった中二的要素が強い)。
それと、ギアと司会はオリジナルキャラですのであしからず。
それにしてもナーたん酷い。そしてスタークス哀れ(つω`)。
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