「はぁ、会社を作る?」
「うむ、今後の為にも必要な事なのでな」
極東国連軍横浜基地の夕呼の執務室で、三人の人物がソファーで寛いでいる。
一人は勿論この部屋の主である香月夕呼。もう一人はレイヴンズネスト一の変態、もとい天才のクレズ。そして有澤重工の社長、有澤秀隆である。
が、そんなゆったりとした時間をクレズの一言により様変わりする。まるで待機中で暇を持て余している時に襲撃を掛けられるかのように。
「何故また?」
「というかそんな必要性が何所にあるのよ」
夕呼と社長は不思議そうに色々と疑問を聞く。
「ひひ、まあ待て、一から説明しよう。まず会社と言ってもそこまで大きなものではない。人数も片指の数だけ居れば十分なほどだ」
「つまりはちょっとした中小企業と言った所ね。で、何の業務に手を出すのかしら?」
二人はクレズの話に興味気に頷く。そして当のクレズは得意気に胸を張りながら答える。
「技術を売ろうと思っている」
「「技術?」」
クレズの答えに二人は同時に声を上げる。そして夕呼は少し瞬きしながら考え込み、クレズに質問をする。
「なんで態々技術を大々的に売り込む必要があるのよ? 別に今までどおり私や有澤重工を媒介とするなりすればいいでしょ」
「ふむ、確かに今はまだそれでも良いだろう。だが、今後我々ネストはより活動の場を広げる、そしてなにより多くの人員が所属するようになるだろう。現にエドはそのためにアメリカに行ってるのだしな。まあACの整備維持は依頼による報酬で何とかなる。だが戦術機や拠点など人員に掛かる費用は報酬だけでは心もとない。その為の」
「企業設立か」
社長の言葉に、そうだと頷くクレズ。
クレズの言うとおり今後レイヴンズネストはより多くのメンバーが加わるという予想がされるし、何よりこのプランを考えた張本人であるジャックとしては、早々に夕呼の手から脱したいと考えていたのである。
というのも、現在のレイヴンズネストは夕呼の庇護の下でないと行動しにくいし、なにより彼女がスポンサーであるのがジャック達にとっては現状、“痛い”のである。
ご存知の通り香月夕呼は天才である。
ジャックも武の話で夕呼が頭の切れる人物なのは知っていた。
が、香月夕呼はジャック・Oの想定以上に天才だったのだ。そこにジャックは危機感を抱いたのである。
このままでは自分達は彼女の体のいい手駒にされかねない、という想いを。
正直ジャックは後悔していた。羽振りが良すぎたし恩を作りすぎたと。
そこでジャックが考えたのが、レイヴンズネストを香月夕呼と対等な立場に立たせる。といものである。
そしてこの新企業設立はその為の行為である。
確かに夕呼の存在は自分達のような異端者には有り難い存在ではあるが、ただ彼女にとっての都合のいい尖兵と成り下がるのは御免こうむるし、何よりジャック個人として面白くないと思っている。また他のレイヴン達も個人にとって都合のいい存在に成り下がる積もりは毛頭になく。彼等レイヴンズネスト総意(武や純夏を除く)としては真に中立な傭兵組織として有りたいのである。
ただ夕呼がそれを認めるかと言えば勿論、否。である。
彼女としても手近なところに置いておきたいし妙なことはされたくないと考えている。
ジャックと夕呼は水面下で実は狐と狐同士の化かし合いの真っ最中なのだ。
ただし、そんな彼等でも地球を傷つけたり見捨てるようなG弾推進派やオルタネイティヴ5のような連中とは仲良くしたいとは思っておらず、どちらかと言えば排除したいとすら思っているし、現に彼等はそれを実行しようと暗躍中でもある。
ちなみに彼等レイヴン達がG弾推進派やオルタネイティヴ5を嫌っているのは、彼等にとって地球こそが故郷とも言えるからである。
たとえ国という枠組みが存在しようがしまいが、地球という星は彼等にとって大切な仕事場でもあり世界が変わろうがその存在自体は変わりようが無い一種の聖地である。
確かに人の身勝手な争いによって地球という星は幾たびも傷ついてきた、だが、だからこそ其処に妙な愛着心というのも沸くのである。また人は一部を除き救いようが無い分けではない。ちゃんと自分達の家である母なる星を修復ぐらいはするし、ゼロがインターネサインを破壊後には世界各地で大規模な復興作業が行われた。無論今まで争っていた各企業や武装勢力も例外ではない。
人は星の寿命が来るまで永遠に地球という星から旅立とうとしないだろう。
故にその想いを踏みにじるようなG弾やオルタネイティヴ5を彼等は許容しない。
そしてこの新企業設立の背景にはそのような思惑も含まれている。
技術を売るというのは何も特定の組織だけとは考えておらず寧ろ世界中に広げようとすらジャックは思っている。
「それとこちらとしては有澤重工と提携を結びたいと思っているが如何かな?」
「提携か…」
クレズの提案に社長は軽く考え込む。
「うむ、ソフトウェア関連は我々が受け持つのでそちらにはハードウェア関連を頼みたいのだ。また博士には色々と表では頼み込めない事をお願いしたい。無論それ相応の陳謝は払わせてもらうぞ」
両者はクレズの言葉にそれぞれ心中で色々と吟味黙考するが、最終的に。
「良かろう。我が社はそちらと提携を結ばさせて貰う」
「こっちもいいわ。アタシとしてもそっちから学びたい事は色々とあるしね」
二人の返事にクレズは満足に頷き返す。
「礼を申し上げましょうお二方。さて、ならばまずは急いでコアプロジェクトを次の段階へと進ませたいな」
「そうだな。震電はデータさえ揃えばロールアウトももはや秒読みで済む。紫電は四脚の製作が難航してはいるがこちらもデータが揃えば問題なしだ。雷電は近々起動テストの予定だ。これらが全て完成しだい帝国に披露する予定ですな」
社長の言葉にクレズは瞳をランランと輝かせ、夕呼は流石と呟く。
次いでクレズと社長は夕呼に視線を向ける。
「こちらも問題なしと言った所かしら。というか今の所どこの勢力も妙な程なんの動きが感じられないわ、恐らくはどこもレイヴンズネストに関して掛かりきりなんでしょ」
ちなみに有澤社長は細かいことには突っ込まないし設問したりしない。ヘタに藪を突くのは危険だというのを理解している証拠である。
そして三者三様にもう報告することもなくなりクレズと社長の二人は退室しようとする。
三人がソファーから立ち上がると夕呼のデスクからコールが鳴り響く。夕呼は自分のデスクに向かい二人は何事も無い様に立ち去る。
が。
「あぁそうそう、クレズ博士。企業名は何て付けるつもりで?」
呼び出しコール音が鳴り響く中、夕呼の質問に対しクレズは眼鏡をクイっと押し上げながら答える。
「候補としては三つあったが、最終的にはアクアビットに決めたよ」
「アクアビット。……確か欧州の酒の一つで意味は『生命の水』だったかしら」
「ほう、此方ではそうなのか。まぁ酒のルーツなんて私達の世界では気にもされてなかったしな、酒が飲めるだけで幸いだ」
そう言ってクレズはいつものようにひっひっひっひと珍妙な笑い声を上げながら有澤社長と共に退室し夕呼は呼び出しに応じる。
横浜基地最下層部の90番格納庫にクレズは立ち入る。
彼の目の前には3機の人型兵器が佇んでいる。
「ひっひっひひ、もうすぐだ! もうすぐで完成するぞ! 私の新たな作品、ACと戦術機のミキシング。ルシャナⅡndと不知火K型と弐型が!!」
腕を広げ陶酔したようにクレズは目の前の作品を見上げる。
が、途端腕を下ろし項垂れ、ぶつぶつと何かを呟く。
「だが、パイロットが居ないのは問題だ。パイロットが居ない戦闘兵器など私の流儀に反する。人が乗らない人型兵器などただの人形だ、魂の無いモノになど意味は無い。兵器とは人あってこそのものだ」
キサラギ一の技術者クレズ。彼は兵器を作る際、人が乗る事を前提にして作り出す。それは彼が人の可能性を誰よりも信じているからだ。
兵器に搭乗する人を魂と捉え、その魂が宿った兵器には幾万の可能性の芽があると彼は常に心がけている。そんな彼の持論はこうだ。
「どうして意思の無き無人機は人に敵わぬ? それは魂が無いからだ。生物には魂が存在する。想いが存在する。心が存在する。科学者にとってそれらは鼻で笑うものだろう。だがそれらは時に我々が思った以上のものを発揮する。だからこそこんなにも心踊るものは無い。だから私は人が乗る兵器で最高のものを生み出す。最強でも最凶でも最適でもない。最高の存在だ」
そんな想いの果てに生み出されたのがゼロのルシフェルだ。
そして今新たに産声を上げようとしている彼の作品。それがルシャナⅡndと不知火K型と弐型だ。
ルシャナⅡndは、以前キサラギ社が旧世代の遺産を解析したときに開発したキサラギ社オリジナルのAC:ルシャナの後継機たる機体。
不知火K型は、不知火にACのパーツを組み込んだ機体で戦術機でありながら光学兵器の使用も可能としている。
この二機の欠点は量産が不可能ということだが、それらを考慮し、クレズがオリジナルの不知火の問題点を指摘し再設計を行い素体として草薙の不知火壱型丙をベースとしたのが、不知火弐型である。
「さてどうしたものかな? A-01に任せるという手もあるがジャックは渋るだろうし私としても損耗率の高いところに任せるのは躊躇いがある。ここは矢張り新しい人員が入用だな」
そう思案に耽るクレズはあーだこーだ一人で呟き続ける。それこそ空腹で腹が鳴くまで。
ちなみにPXにて
「むぅ、しかし兵器開発もいいが、久々にAMIDAの研究もしたいな。―――――む! 新たなインスピレーションが来たぞ!! BETAだ、BETAとAMIDAの融合すれば。ひひ、ひっひひゃひゃ! これはいけるぞ、見ておれ同士たちよ!! 我々が苦心して生み出したAMIDAは更に生まれ変わるぞ!!!」
PXにて奇声を上げるクレズに対して誰もが引いていた。あの京塚のおばちゃんでさえ。
そんな全員の視線を受けクレズは
「ん? 何かねその視線は? ああ、食事中に五月蝿かったか、それは申し訳ない。私のことは気にせず食事を楽しんでくれ」
(((絶対無理!!)))
PXにいる全員は一斉に首を横に振る。
後書き
第三章外伝その一終了。
色々と水面下でも活動中のレイヴンズネストと夕呼先生です。そして何故かちゃっかり定着している有澤社長。
そして遂にレイヴンズネスト独自の企業を設立。
その名もアクアビット!
流石キサラギの技術者クレズ。世界は違おうと変態は変態を嗅ぎ取る力があるということですね。ちなみに残り二つの候補は、トーラス(fa)とバレーナ(2)です。
更に新たな戦術機が登場。細かい設定などは後々に。
あと、今回の話を読んで気づいたと思いますが、トータルイクリプスのXFJ計画などは発生しません。
でもだからといってトータルイクリプスのキャラ達が空気というわけではないです。ちゃんと彼等にも然るべき活躍どころを用意しております。
補足として、クレズは兵器に人が乗る事を前提としていると言っていますが、キサラギの象徴的(?)な存在であるAMIDAは彼等(作った研究員等)にとっては兵器とは考えておらず、どちらかと言うとペットや赤子的な存在と自分は考えています。
誤字脱字、感想等は掲示板にてお願いします。