エジプトでの任務終わり。レイヴンズネストは現在、奄美諸島へ向けて迎えに来た有澤重工の輸送艦で向かっている。
そして今回の任務でアーロン中佐から、新種のBETAの調査及びBETA殲滅時の報酬として時価数億円はする金の延べ棒が敷き詰められたトランクケースを受け取った。
現金を貰わなかったのは情勢によっては紙幣がただの紙屑になる恐れがあるとの事で、それならばと物品としての価値があるものをアーロン中佐は用意させたのだ。なによりアーロン中佐は実際に出会ったレイヴンズネストの力を理解し、彼等が今後も世界各地の戦場でも活躍することを睨み。少々色を付けたのだ。
『我々は何所の国や組織からの依頼を拒まない、だが決して何所にも属さない』
とはジャックの言葉だ。
だからこそアーロン中佐は彼等からの信用を濃密にしようと色を付けた。それは惹いては国連軍全体への信用へとなるからと本人は睨んでいるからである。
尤もジャック自身は組織自体を信用せず、依頼する組織ではなく個人を信用して決めている。
アーロン中佐自身は信用に足る人物だとは思っているが、それが国連軍という組織への信用へとなるかは別である。元より国連軍は多国籍軍。ならばその腹には一つや二つでは飽き足らないほど黒いモノを抱えている輩はいるものと思っている。
稀代のカリスマ:ジャック・O。彼を相手取るにはそこいらのボンクラでは相手にならない。彼と渡り合うには、それこそ香月夕呼ほどの気概が必要である。
そしてそのジャックを筆頭とするレイヴンズネストは現在なにをしているかというと―――――
「随分と懐かしいな。以前の我が愛機“ブルーセラフ”」
ゼロのその言葉に手元の小型端末で何らかの操作を行っていたシーラは懐かしむように返す。
「そうね。でもデータを取っていて正解だったわ」
シーラの言葉に、「ああ」とゼロは頷く。
端末のモニターに【ダウンロード率100%】の文字が表示されている。
「ジャック。データの転送が終ったわ」
「分かった。―――――それでは白銀君、そっちも準備は良いな?」
シーラの作業終了を確認したジャックはホワイトセラフに乗る武に声をかける。
『いつでもいけます』
「よし、では始めよう」
一体何を始めるのかというと。
先の戦闘のデータ整理をしていたシーラが以前のゼロの乗機である【ブルーセラフ】のデータを見つけ、更にルシフェルに乗り換える前のゼロの戦闘データも見つけたのをジャックが知り、そのデータと武を戦わせようと思いついたのだ。
武自身も最強と謳われるゼロと自分がどれだけの差があるのか知りたいのでそれを了承。他のメンツも興味津々とモニターを睨んでいる。
「ちなみにゼロ、これはいつのデータなんだ?」
「いつのと言われてもなぁ。ルシフェルに乗り換える前のとしか言えん」
ジナイーダの質問に苦笑しながらゼロは答える。
「じゃあ乗り換える前の依頼は何だったんだ? 正直、お前ほどの実力があってわざわざ機体を乗り換えるという事態が余り想像できん」
「乗り換える前の依頼というか、任務中に乗り換えたんだよな」
『??』
ゼロの言葉に話を聞いていた全員が頭に疑問符を浮かべる。
「任務中に乗り換えるって、そんな事がありえるのか?」
その疑問にゼロはクツクツと笑いながら答える。
「まあ簡単な経緯を言うとだ。とある地で戦闘中に機体がボロボロになったから完成したばかりのルシフェルをミラージュの陸上強襲揚陸艇で持って来てもらったんだ。あん時はマジで死ぬかと思ったな」
「正直、生きていたのが奇跡に等しいわ」
「同感だ」
シーラの言葉に相槌をし当時のことを思い出す。
「ちなみにその“とある地”とは?」
「…………………サイレントライン」
ゼロの言う地名にジャックとジノーヴィーは目を見開きゼロとシーラに二人を凝視する。
「む、始まるぞ」
目の前のディスプレイにはNOW LOADINGの文字。
それから数秒後、今度は仮想の空間【アリーナドーム】が表示される。そして自機の直線上には一機のAC【ブルーセラフ】が佇んでいる。
機体の外観構成は、頭部:CR-H06SR2、コア:CR-C90U3、腕部:CR-A92XS、脚部:CR-LH89F、エクステンション:FUNI、左肩:KINNARA、右肩:CR-WB69RO、右腕:YWH16HR-PYTHON、左腕:YWH13M-NIX。
(更に格納に何かを装備しているな)
武の考え通りブルーセラフの両格納には、右格納:CR-WH01HP、左格納:CR-WL06LB4が収められている。
ふと武は先ほどのジナイーダとの会話を思い出す。
《シロガネ》
《なんです?》
《3分だ》
《?》
《3分持たせて見せろ》
《それって……》
《今のお前ではアイツの足元にも及ばん。だから勝とうと思うな、観察しろ。そして学べ。それだけだ》
《……》
そう言ってジナイーダは立ち去っていった。
「はっ、いいさ。それなら見せて貰おうか、格の違いとやらをっさ」
武がそう言った瞬間、ディスプレイには開始の合図が表示される。
その直後、武はOBを発動し一気に接近する。対してブルーセラフはブーストを噴かし接近する。
[ランカーAC:ブルーセラフです。敵は各所に距離対応の武装を装備、間合いによる攻撃に注意してください。特にレールガンの反動は危険です]
AIの報告を聞きながら相手を睨みつける。
接近するホワイトセラフにブルーセラフは左肩のマイクロミサイルとエクステンションの連動ミサイルを同時に起動――ホワイトセラフに向けて発射――計11発のミサイルが武を襲う。
武は、ホワイトセラフを上空に持ち上げて回避しOBを切る。ミサイルはOBの速度に付いて来れず推進力を無くし地面に落ちる。
武はブルーセラフに向けてレーザーマシンガンを向ける。が、直に第二派のミサイル群が来る。更に左手のマシンガンの弾丸も襲い掛かり、武は堪らず攻撃をしようとするのを止め回避に専念する。
ホワイトセラフを戦術機で行うような反転噴射をし機体を一気に地上に着地させる―――武は機体のオートバランサーを解除しているのでこのような事が可能で、普通のACはこのような事はできない。そもそもACはコア前面に装甲を厚く重ね、更にコクピットの下部分にACの核たるジェネレータやラジエータがあるので重心が前に傾いている。のでオートバランサーを切ったりしたら機体が転倒してしまう。――ただしこれは二脚系に関してだけなので他の四脚などの多脚系には関係無いことではあるが――では、なぜ武がこのようなことが出来るのかというと、元々武は戦術機でもそうだったが機体の挙動制御に天性の才を持っていたし異常に発達した三半規管により普通の人間よりも無茶な機動が可能だったので、ACでもこのような無茶な機動が可能。そしてこれはゼロやジナイーダ達でさえも不可能なのだ。―――
地上に降りた武は適度にレーザーマシンガンを撃つが、ブルーセラフは多少のダメージは無視しミサイルとマシンガンの波状攻撃を繰り返す。迫り来るミサイルだけを注意して武は機体をふらふらと揺さぶりながら接近を試みる。
武がある程度接近してくるとブルーセラフは武からみて右回りに旋回機動をしてくる。そしてブルーセラフが飽きもせずミサイルを撃つ。それを避けようとする――だが、ミサイルは離れない。むしろ喰らい付いてくる。
そして今度は武の軌道上に一発のロケット砲弾が飛来――武はミサイルに気を取られロケット・ミサイル共に命中。
「ガッ!!」
[AP50%、機体ダメージ増加]
ロケットとミサイルの命中により機体が激しく揺さぶられる。が、更にミサイルが飛来し命中。そしてミサイルの爆風を引き裂いて青い光槍――レールガン――がホワイトセラフに突き刺さる。
尋常じゃない衝撃が武を襲う。武は咄嗟にOBを発動して離脱する――直後に武がいた場所に再度レールガンの光速弾が着弾する。
エクステンションのエネルギー回復装置を起動させブルーセラフと再度正面から対峙する――よく見ると相手はミサイル・連動ミサイル・ロケットをパージしている。
「はぁはぁ、くっ! おおぉぉぉぉおおおッッ!!!」
レーザーマシンガンを乱射しながら再度突撃――だが相手は微々たるダメージは無視しレールガンとマシンガンで攻撃してくる。レールガンは発射のときにチャージ音などでいつ飛んでくるか分かるがマシンガンは避けきれず幾度も被弾する。その所為で機体各所に弾痕が刻まれる。
[AP10%、危険です]
―――怖い―――
武は純粋にそう思う。相手はただのデータなのにそこに確固たる存在感がある。
―――最強という頂点の存在が
「これが……これが!」
追い込まれていく武。
レールガンが足元に着弾、その衝撃と舞い散る破片がホワイトセラフを傷つけ機体のバランスを崩す。
「クッ!」
更にもう一発飛来、今度は左肩の追加ブースタを破壊。吹き飛び爆発し機体を転ばせる。
「うあぁぁぁっっ!!」
好機と見たブルーセラフは両手の武装を手放し左右の格納からハンドガンとレーザーブレードを取り出す。
―――格?―――
倒れている武に容赦なく撃ち込まれるハンドガンの弾丸。
―――違う―――
機体をなんとか立ち上がらせる。だがなにもかもがもう遅い。
―――格の違いなんかじゃない―――
青き光剣が左足を斬り裂き、今度は仰向けに倒れる。
―――これは―――
仮想の空間なのに感じる。濃密な死の気配を――武は、ゆっくりと迫り来る相手を見る。
右手が伸びてきてコアを掴まれる――コクピットが揺れる――そして左腕が引かれる――突きのモーションだ。
「格の違い? はっ……今の俺じゃあ、格以前に」
武の目に映るは画面一杯の青き光り。
「次元が違う」
光りが一際強まった瞬間、武の意識は闇に堕ちる。
「どれくらい持った?」
「209秒よ」
「どうなんですか?」
「まあ、応題点だな」
「面白い」
「ああ、これからの成長に期待だな」
「だが、まだまだだな」
「なにか切っ掛けが必要だな」
「ああ」
後書き
第三章第十七羽終了
今回は2回目のアリーナで武ちゃんVSルシフェルに乗り換える前のゼロ。
武ちゃんには一つの壁にぶち当たって貰いました。
ちなみに最後の会話は、ゼロ、シーラ、純夏、ジナイーダ、エヴァンジェ、ジノーヴィー、ジャック、フェイト、ジャックの順番です。
これで漸く第三章は終了。
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