作戦名『Rising Stars』

 

 

「全員集まってるなっ! 本作戦の総指揮を取るダグオンだ!」

輸送船内の小さな会議室でアルサレア作戦司令官のダグオン・ゲーニッツがその無駄に大きな声を張り上げながら室内に居るグレン小隊の面々を見渡す。ちなみにダグオンのブリーフィングは他の輸送船にもリアルタイムで放送され今作戦に参加する部隊全てがその様子を見ている。

「作戦を説明するぞ! 耳をかっぽじってよ~く聞いとけよ!」

噂の作戦司令官がどんな者かと期待していた者達はその余りの声量に耳を押さえ急いでモニターの音量を下げる。尤も一番の被害者は同じ室内にいるグレン小隊だろうが……

「先ず偵察部隊が観測したザーベイルのヴァリム軍戦力を伝える。但しこの報告は調べられた範囲での戦力数だ! 決して鵜呑みにするなよ! まず敵の基本的な主戦力は地上と同じくヌエだ。そしてヌエに比べれば少々少ないがロキも確認できている。だがこいつらは所詮タダのヤラレ役の前座に過ぎん! 幾ら数が多かろうと精強なる我等がアルサレア機甲兵団なら苦戦すら論外だ!!」

その言葉を聞いた全員は「勿論だ」と頷く。それにダグオンの言う事は間違いではない。

PFが戦場の主役になってから、アルサレアは質で、ヴァリムは量で戦ってきた。

アルサレアとヴァリムの一番の違いは国土の差で、ヴァリムはその豊富な資源を使い大国らしく数に物を言わせて攻めてくる。対してアルサレアは国土が乏しく明日の糧を得る為に国家規模で傭兵業を営んでいた。だがその分アルサレアはヴァリムと比べれば技術が高くPFの開発という恩恵もある。

ダグオンは一旦言葉を切り目を伏せる。

「だがこの作戦で一番の障害が存在する」

ダグオンの言葉と共にモニターには一機の黒いヴァリム製のPF=ヤシャが映し出される。

そしてそのヤシャを見た全員が戦慄し畏怖ゆえに喉を鳴らし一つの名を思い出す。

ヴァリムのエースで【黒夜叉】の異名を持つ男―――グリュウ・アインソード

「本作戦で一番の障害である黒夜叉だ。コイツに関しては並のヤツでは歯が断たん。その為、黒夜叉とその直属の部隊に関してはグレン小隊と実験部隊【エクサ】に担当してもらう。他はその間に雑魚どもをぶっ潰せっ!」

黒夜叉の相手と聞いてクロードは小さく頷く。クロードはこれまで2度、黒夜叉と戦闘している。

一度目はガイドムゥラ平原地帯で、その時はキースとアイリは機能停止まで追い詰められ、クロードは機体を大破寸前まで追い詰められた。しかも相手は単機でだ。

二度目はヴァリムがミラムーンの軌道エレベータを占拠したときにだ。その時はお互い邪魔も入らず一騎打ちで戦い、クロードは辛くも勝利したが、その時は既に向こうの目的は達成されており黒夜叉は直に撤退していった。

どちらにしてもクロードにとっては勝ったとは言いがたく辛酸を舐めさせられた相手だ。

そして実験部隊エクサとは暗部の偽装名で今回のような大掛かりな作戦で暗部が作戦の一端を任されられるときに一般の将校たちに教えておく部隊名である。一般の将校たちの間では実力が高いパイロットしか所属できず常に試作兵器の実戦テストを任されられている。という認識で誰もこの部隊が暗部とは知らない。

画面が切り替わり次に映されたのは一隻の戦艦。

「次にだ、今作戦の本命である敵母艦だ。この母艦は元々ヴァリムの地上の空中空母と同じだが、諜報部の話ではこいつは3隻ある空中空母で3番目の一番新しいものらしくそれを宇宙用に改修しザーベイルに駐留させてたようだ。悪いがこいつに関しては殆ど情報は無い、しかも奴等がいつの間にこんなデカ物を宇宙を上げたのかも解らん! だが! タダ一つだけ言えることがある。それはコイツを破壊するということだ! それでだ、コイツを破壊するには残念なことに一般の機体には無い。だが勘違いするなよ、あくまで一般の機体に無いんだ。コイツには黒夜叉の部隊と同じく実験部隊エクサに対応してもらう」

次にモニターに映ったのは一機のJファー・カスタム。ゼロのJファー・カスタムだ。

「貴様たちも知っているはずだ。先のグレンリーダーの模擬戦の相手で試作機とはいえ第二世代機をカスタムタイプのJファー・カスタムで追い込んだ機体だ。この機体はステルス能力が高く強力な武器を装備している。今作戦で最適な機体だ。つまり貴様たちはこの一機のために大掛かりな陽動を行って貰うぞ!」

確かにゼロのJファー・カスタムは今回の作戦に適している。

火力の高い砲戦専用の機体やそれ専門の部隊でもいいが、如何せんそれらの機体や部隊は機動性が低く攻撃時に妨害が入りやすい。砲戦専用の部隊は前衛の活躍があって初めて機能するもので間違っても単体で運用するものじゃない。

では大部隊でそれを行えばいいのでは? と思われるが先も述べたとおりアルサレアは質でヴァリムは量で戦っているのだ。

あっちを立てればこっちが立たないとは良く言ったものである。

だがゼロのJファー・カスタムなら機動性・破壊力が同時に揃っている。

高いステルス性能と通常のJファー・カスタム以上のスピードを持って母艦に接近し艦橋なり機関部なりをメギドで破壊する。それがアルサレアが取れる敵母艦の破壊方法だ。

そのために他の部隊は事実上全て陽動を行う為だけに存在するようなものである。

「また衛星上に点在する鉱石資源はドンドン破壊しろっ! 作戦は以上だっ!! では総員、直ちに持ち場に着け!!!」

ダグオンの激励の言葉を締めとしてモニターは切られる。そしてキースたちは漸く終ったとばかりに席を立とうとするが、ダグオンはそれを引き止める。

「待て、グレン小隊には今回の作戦の真の目的を伝えておく。これは参謀本部長の許可も得ている」

「「「真の目的?」」」

キース、アイリ、フェンナがダグオンのその言葉に驚く。クロードは知っているようでいつも通り平然としている。

「うむ、今回の作戦だが、実は―――」

 

「「陽動(フェイント)作戦(オペレーション!?」」

「そうだ」

ゼロとアクセルが驚きの声をあげる。他のものも眉を顰めたりしている。セシリアも聞いていなかったらしく彼女にしては珍しく困惑の表情を浮かべている。

「現在のフィアッツァの勢力情況を完全に理解しているものはいるか?」

ゼムンのその言葉に全員は考え込むがはっきりと頷く者は居ない。

「現状アルサレアがヴァリムとの戦争に勝利するにはほぼ無理なのだ」

ゼムンが忌々しいと顔を歪める。他の全員は何故そのような顔をするのか理解できないでいる。そして軽く空白の間を持ってゼムンは重々しく告げる。

「ミラムーンが同盟を破棄した」

「「「「「「!!!!!」」」」」」

その衝撃の告白に全員が驚き愕然とした。いち早く事態を理解し冷静さを取り戻したセシリアやゲンジが問いかける。

「では中佐、あの噂はホントだったのですか?」

「ミラムーンの大統領や一部の政治家たちのヴァリムとの癒着」

「事実だ。皆も知っているだろう? ミラムーンには古くからのアルサレアとの親交を守る親アルサレア派と己の利権を守りたい親ヴァリム派の話を」

ゼムンの言葉に全員が頷く。

「更にだこの映像を見てくれ」

モニターに一つの映像が映る。

「これは先日のグレン小隊の任務の映像記録だ。任務内容はミラムーン領のセブンスタルツ基地の偵察」

全員はその映像を凝視する。

暫くグレン小隊が荒野を進んでいると大型の熱量を感知しその熱源を見る。

「こ、こいつぁ」

「デカイな…PFの約3倍くらいか」

アクセルの驚愕の声とゲイツの冷静な科学者としての推察の声が上がる。だがそれは全員同じ気持ちである。

そしてそのPFの3倍もある大型の人型兵器とグレン小隊が交戦する。だが戦闘を開始してから短時間で大型機は僚機であるキースとアイリを撃破する。そしてクロードとの一騎打ちとなる。

更に暫くその映像を食い入る様に見ていると、大型兵器は今度は陽炎のように揺らめき一瞬にして姿を消す。

「嘘だろ」

「瞬間移動、ですか……」

一瞬消えた大型兵器はいきなりクロードの背後に現れる。そして搭載してあるミサイルランチャーを雨霰と撃ちまくる。

その後、ようやく大型兵器は黒煙を吹かし沈黙する。

「問題はここからだ。ここから先は音声も入れる」

ノイズとともに映像記録から音声が再生される。映像で大型兵器の次にクロードが対峙したのはミラムーン軍のカスタムタイプの主力量産機【ゼムンゼン】

『チッ、失敗だ。所詮は試作機か』

『ミラムーン軍か、何故裏切った!』

『これからはヴァリムとミラムーンの時代。アルサレアは邪魔なんだよ!!』

クロードの言葉にミラムーン軍のパイロットは嘲笑で返す。周りは20機ものPFに囲まれている。

『だから裏切るのか…まるで子どもの論理だな!』

『フン! 何とでも言え、強国に生まれた貴様に我等の気持ちなど分かるまい!! 全軍攻撃開始!』

そして再び戦闘が再開される。だが幾らミラムーン軍がクロードを大部隊で包囲し攻撃しても結果は火を見るよりも明らかである。クロードは敵の攻撃を最低限の動きで回避し一気に接近しゼムンゼンを右手に持つフォースソードの一太刀で屠る。ミラムーン軍は攻撃しようにもまともに照準も合わせられず次々に撃破されていく。

そして全ての敵機を撃破したところで映像は終了する。モニターの電源を切ったゼムンは全員のほうを向く。

「この映像を見ていて分かるようにミラムーンはこちらを裏切った。更に親アルサレア派の一部の政治家を更迭し完全に我々を孤立させる積りらしい。だからこそ今回、わざわざ軌道エレベータを使わず金のかかるシャトルを使い大部隊を宇宙に上げたのだ」

室内を重い空気が支配する。だが更に悪いニュースは続く。

「また、アルサレアは宇宙での勢力争いにも遅れを取っている。無重力下でのPFの開発に際してもヴァリムの妨害、原因不明の事故に見舞われている。数週間前にはPFの実験でエースパイロットが一人、実験中の事故で死亡し研究員が一人行方不明になるなど、ヴァリムとのミリタリーバランスが大幅に崩れている」

「それで今回の作戦との関係性は?」

「現在アルサレアは宇宙でのPFの開発などを行う為の極秘研究施設を開発中だ。今までもこういった研究施設の開発などは行っていたのだが悉くヴァリムの妨害を受けて満足に機能することが出来ずにいたのだ。だがこの施設は今までの研究施設と違い巨大な流石に偽装してあり、更に先日この施設の設計者でもあり責任者が到着した。そのお陰でもう間も無くその施設【シード・ラボ】というのだが、完全に稼動状態となる。―――のだが、今度は施設の防衛や実験を行う為の部隊の隊長が居ないのだ。以前はいたのだが、先ほど数週間前に一人のエースパイロットが事故で亡くなったという話をしたな? そのパイロットが実はシード・ラボの隊長を務めていたのだが死亡したため、新しい隊長を参謀本部のほうで選出した。そしてその人物は今回の作戦で開発されたばかりの宇宙戦向けのPFで単機で出撃する予定だ」

ゼムンの言葉に全員がその意味を吟味し理解する。

つまりは今回の作戦はその隊長の実力を上層部を納得させる為の試験的な意味合いとシード・ラボの完成のための目晦ましのためである。勿論、戦艦の破壊やザーベイル上の鉱石の破壊に戦力の間引きも大事なことである。

まさに今回の作戦はアルサレアの命運が掛かっており、作戦名通り参戦する部隊はアルサレアの希望の星たちなのだ。

「それで中佐、その人物の情報はありますか?」

「名はブレッド・アローズ。階級は少尉だが今回の作戦で実力を認められれば中尉に昇進する予定だ。更に彼は№ⅩⅢの同期で№Ⅴの教え子の一人だそうだ」

ブレッド・アローズという名にゼロとゲンジは思い出したように頷く。

「と、まあそういうことだ。それでは時間だ。№Ⅶ以外は各自のPFに搭乗!」

「「「「「「了解」」」」」」

 

ゼロはゲンジとハンガーに向かいながら久々に話し込んでいた。

「しかし親父さんが暗部所属なんてビックリしましたよ」

「まあな、それに年寄りだろうとこの人手の無いご時勢に実力あるものを遊ばせおくような余裕が無いのも事実」

「そういえば、アイツ等どうしてます?」

ゼロの質問にゲンジは答えて良いものか悩むが問題ないとし教える。

「ジングウとレイジの二人は同じ部隊に配属され今は国境警備隊に所属している。尤も国境警備隊とは言ってもその実、強行偵察隊みたいな任務を主体とする部隊だがな」

「まああの二人は幼馴染ですからね、士官学校時代のときもあの二人は息がピッタリでしたから。アキラの方は?」

「馬鹿息子は最前線送りで尤も死傷率の高い特務小隊に配属されたよ今はサーリットン戦線にいる。お前と馬鹿息子は特に問題ばかり起こすからなぁ、その所為でお前等二人は死傷率の高い戦場に送られるんだ」

「返す言葉も無いですね」

嘗ての教官の言葉にゼロは苦笑で返す。

「しかしブレッドも…か、全くお前たちには驚かされる。あいつとも親交はあったのか?」

「あったと言えばありましたね。ブレッドの部隊はこれと言った特徴は無かったけどブレッドだけは他の奴等よりも実力はそうとう高かった記憶があります。よく模擬戦でブレッドと何度か一対一でやり合いましたけど、結局の所は引き分けが多かったですけどね」

過去の事を話し込んでいた二人はハンガーに到着する。

「さて、それでは行くか。お前は作戦の要だ気負わず確りやれ!」

「了解」

ゼロは整備の終った自機に、ゲンジも愛機のJグラップラー・零距離格闘専用機に乗り込む。

間も無く作戦は開始される。

 

 

 

後書き

チャプターⅠ-Ⅸ終了

Jフェニで他の大陸が何で宇宙での勢力を持っていないとかの疑問は持ってはいけません。設定に矛盾があってもそこは優しく無視しましょう。

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