ジャックの思惑

 

 

戦闘が終了してから3時間後、エジプト時間の22時にジャックは夕呼に通信を繋げ今後のことについて話し合っていた。

『あんた達がBETAと戦闘を行っている間に世界各地でも新種のBETAが少数ほど確認されたわ』

「その事に付いて博士はどのようなお考えを?」

『さあ? 何とも言えないわ。明星作戦から早や半年以上が経っている。なら既に貴方達の存在はBETAに認知されていると考えて間違いは無い』

「確かに」

そこまで言って暫し無言になる二人、だが直に夕呼が言葉を発する。

『ところで今回の報酬の件はどうなったの? わざわざ向こうに追加報酬を強請ったんでしょう?』

「報酬に関しては後ほど此方に手渡しで渡すそうで。―――――ああ、それと博士、例の件はどうなりました?」

『ちゃんと確保したわよ』

「オルタネイティヴの権限で?」

『勿論。第一放棄してもう使う予定の無い施設なんかをいつまでも手元に残していてもしょうがないと思わない?』

「ククっ、まあ否定はしません。それでその施設の場所は?」

『地名を言って分かる?』

「大丈夫ですよ、こちらの世界の地名・情勢・国家etc...とあらゆる情報は既に得ていますから」

『そう。じゃあ場所を言うわね、貴方達レイヴンズネストの今後の本拠地となる場所は奄美大島の【旧帝国軍の第513基地】よ。ここは元々BETA大戦以前の第二次世界大戦時に建設された基地で小規模だけど工廠も完備してるわ、立地的にも南を行けば沖縄があるし北上すれば鹿児島や屋久島にも辿り着くと好条件でしょ。今は有澤重工がそこの補修を行っているわ、随分と長い間放置されてたようだからね』

それを聞いてジャックは少し困惑の表情を浮かべる。

「些か気前が良すぎませんか?」

だが夕呼は唇を吊り上げ笑う。

『確かに気前が良すぎるかもね』

でもっと夕呼は続ける。

『アタシがここまでするのは単純にアタシに害が無く、寧ろアンタ達が暴れれば暴れるほどアタシに得があるからよ。―――人類の勝利、それはオルタネイティヴ4だけでは果たせない。BETAに勝利するにはもっと目に見えた絶対なる勝利が必要。そして人類がこの母なる星で明日を見るには』

夕呼はそこで言葉を切る。そしてキッとジャックの目を強き意思の篭った眼差しで睨み述べる。

『アンタ達レイヴンズネストが提唱する計画【R . V . 計画】に賭けるのが一番なのよ』

――人は目に見えた物事意外に関しては実感し辛いものである。戦場でBETAと戦う兵士たちにとってG弾と戦術機、どちらがBETAを殲滅するのに最小の被害で最大の戦果を上げるかと問われれば、G弾である。故に夕呼主導の下で行われているオルタネイティヴ4は米国が推し進めるG弾を使い他星系に移住するオルタネイティヴ5と比べると余り目に見えての成果が分からないのだ。確かにオルタネイティヴ4の集大成である00ユニットを使いXG-70を戦線に投入すればかなりの効果が現れるだろうが、如何せん汎用性が低いのだ。それに比べレイヴンズネストの力、そして彼等から提供される技術はこの短期間で既に目に見えた効果を発揮している。――

そこまで話して夕呼は口を閉ざす。再び沈黙が続くかと思われたがジャックが話を続ける。

「香月博士、貴女の想いは理解しました。では世界を救う為にもまず今後の事を話しましょう」

『そうね、先ずは目先の事を順々に処理していくべきね』

「ええ。では先ずコアプロジェクトは何所まで発展を?」

『コアプロジェクトに関しては概ね問題なしね、震電と紫電の方はA-01がデータを持ち帰った暁にはそれほどの期間を待たずして完成するわね、それと雷電の方はもう完成してるわ』

「雷電の実戦投入に関しては?」

『問題ないと思うわ、テストは有澤社長が直々に行っているわ。そうそう、社長からアンタ達にお礼の言葉を預かってるわ、『前期の決済が楽しみだ。今後もよろしく頼む』ってね』

「成る程、分かりました。有澤殿にはその内私の方からも返事を送りましょう。―――そちらからは何か?」

『そうねぇ………』

夕呼は少し指を顎に添えて考え込む。大した時間は要してはいないが夕呼は顔を上げて思い出したように話す。

『あぁ、そうそう、アンタ達にも関係があるから話しておくわね。実はソ連からアタシの方にちょっと厄介なのが亡命して来たのよ』

「厄介なの?」

『ええ、詳しくは語れないからアンタ達が日本に戻ってきた時にでも話すわ』

「分かりました」

『そっちはどうするの?』

「こちらは一旦日本に戻り、拠点の確認や帝国とイギリスとの交渉の準備をしてと後はもう細々とした用事を片付けるくらいなものでしょう。A-01の次の任務も決まってますしね」

『でもその前に白銀にXM3の教導をしてもらわないとね、今のままじゃ宝の持ち腐れね』

その後も今後の大まかな打ち合わせをし、ジャックは夕呼との通信を切り今度は別の周波数に通信を繋げる。

『おう、ジャック、連絡待ってたぜ』

「エド君、現在の進行状況は?」

ジャックが通信を繋げた相手は現在別行動中のエド。

『問題なしっと言ったところかな、各地の基地に潜入してデータを入手したし難民との交渉も済んだからな』

「ご苦労エド君。今君の携帯端末に座標を転送した。至急そこへ向かってくれ」

『了解。今丁度横浜基地に居るから直にでも行けるぜ。あぁ、それとジャック』

「何かね?」

『カリフォルニアのアメリカ軍の基地に潜入した時にさ、変なおっさんに会ったんだよな。で、そのおっさんがさ日本の情報機関の人間でよ近々俺等が交渉に行くって伝えたらジャックに伝言を伝えとけって』

「内容は?」

『あーー確か『楽しみにしている』だったかな』

それを聞いてジャックは頭を抱えたくなった。

「君はわざわざ自身の素性を話したのか?」

『どうだろうな、あのおっさん、知っててやったのか知らんでやったのか分からんが、ありゃあかなりの曲者だよ、情報屋の俺でさえも掴みきれんかったからな』

「それで、その人物の名は分かっているのか?」

『ああ、ちゃんと名刺交換したぜ。名前は~え~と、よ…ろ……い……ひだり? 近? ああ! クソォ! あの親父せめて名前を名乗っとけよ!』

どうやらエドは人名の読みが分からないらしい。ジャックは溜息を付く。

「それは“よろい さこん”と読むんじゃないのかね?」

『おおぉ! 多分それだと思うぜ! しかしよく分かったな』

「語学に関しては我々が居た世界とこの世界との差は余り無いさ。それにこの世界に来てから日本の外に出るまでは基本的に新聞を読むなりして過ごしていたからな、特に難しい漢字の読みなどは白銀君や鑑君に聞くなりしていたしな」

ジャックは苦笑しながらその時のことを思い出す。何しろ30代の中年の男が10代の少年少女にわざわざ文字や言葉を聞いて回るのだ、羞恥心も出来るものである。

ちなみにジャック達は語学に関しては喋るくらいなら問題は無いが読み書きなどは英語である。傭兵として生きていくためには最低限幾つかの口語を話せる必要があるし、企業にしろ同業者にしろ様々な人種が地域関係無く住んでいることもある。何より和語(この場合は日本語)にしろ英語にしろ複数の語学ができるのがジャック達の世界では当たり前なのだ。

「まあ、それはいい。それに関してもある程度の対策は練ろう。ご苦労だったなエド君」

『なに良いさ、それが俺の仕事だしな。でもちゃんと報酬は払えよ』

「分かっているさ」

『じゃあ俺は明日にでも本拠地のほうに行くわ』

そこまで話エドからの通信は切れる。

ジャックは軽く背を伸ばし筋肉を解す。そして室内から退室する。勿論通信のログは完全に消去してある。だが、退室間際にポツリと一言口に出す。それこそ誰にも聞こえないくらいの声量で。

「ふふ……皮肉だな、我々のような戦争屋が平和のために戦うか。だが、香月博士…【R . V . 計画】が本当に人類の為になるかは貴女方、人類に掛かっているのですよ」

【R . V . 計画】

正式名称【Revival Vertex計画】

嘗てジャックが率いていた武装組織の名を冠したこの計画。果たしてその計画が本当に人類の救済に繋がるかはその人類に掛かっている。

 

ACが格納してあるハンガーでは有澤重工から借りた、というか派遣された技術者たちによって急ピッチで整備が行われている。別に急ピッチで作業する必要は無いのだが作業している整備士たちは皆活き活きしているので必然的に作業も早く進む。

「ボイドさん! ファシネイターの各部位のジョイントの清掃は終りましたよ!」 「ホワイトセラフの補助ブースタはどうすればいいんだ?!」 「悪い! 誰かオイルの補充を!!」 「じょ、冗談じゃ!」 「ずいぶんと調子良さそうだねえ、ねえ、ねえ」 「まだまだ行けるぜええぇぇぇ!!」 「誰かこっちにも手を貸してくれ!!」 「尻を、げふんげふん!!」 「手を貸そう」

「ファシネイターが終ったら次はアラエルだ! ホワイトセラフの補助ブースタは噴射口の掃除だ。熱が溜まってるから火傷しないように気を付けろ!! それとだッメタ発言した奴は名乗り出ろ!!!!」

次々と飛んでくる質問にボイドは的確に返していく。別の方ではアマギが兵装のメンテを少人数で行っている。

「キャノン系は入念に砲身内部の掃除と各ジョイント部の点検をお願いします。エネルギーライフル系はグリップ部分やコネクタ部分などのチェックを! ブレードも同じくです! え!? デート?! えっと、ごめんなさい。…はい? スリーサイズですか? 上からななじゅ……って何言わせるんですか!!!」

もう一度言う彼等は整備しているのだ。

「楽しそうだな」

そしてそれを遠目で見るゼロとエヴァンジェとシーラと純夏のオペレータの二人組み。ちなみに武、ジノーヴィー、フェイト、ジナイーダはそれぞれ自機の整備の手伝いをしている。

自分の命を守る相棒でもあり自身の理論によって構築された機体であるため自機の最低限の整備知識くらいは知っておいて当たり前である。ちなみにゼロのルシフェルは既存のACとは違うところが多いことと先の戦闘でのダメージからゼロは暇を持て余している。エヴァンジェは既に愛機であるオラクルの整備を済ましている。

「失礼します。今よろしいでしょうか?」

とそこに一人の来客が来る。

来客者はアーロン中佐の副官であるバルナール・クリストフ中尉。

「問題ない。何か用か?」

そしてその来客に態様するはエヴァンジェ、尤も口が悪いのは何時ものことである。

「はい。中佐から報酬の件に付いて言伝を預かっています」

「何と?」

「報酬は明後日までに用意するので今しばらくはこの基地に滞在していて貰いたい。とのことです」

「そうか、分かった。ご苦労」

「いえ、では自分はこれで……」

「ああ、ちょっと待て」

「? 何か?」

そのままバルナールが引き返そうとしたがエヴァンジェは呼び止める。バルナールは訝しげに振り返る。

「先の戦闘での被害報告を聞かせてくれ」

バルナールは一瞬考え込むも話して問題ないと思いエヴァンジェ達に先の戦闘の被害報告を話す。

「分かりました。先ず我がクセ連隊は一個大隊ほどの被害を出しました。具体的な数字を挙げれば大破19機、中破及び小破合わせて22機です。死傷者の方は17名、重軽傷者は25名ほどです。イギリス王室騎士団の方は報告される限りでは1個中隊ほど被害でこちらも具体的な数字を述べると大破6機、中破及び小破合わせて9機で、ええっと確か死傷者のほうは5名未満、重軽傷者のほうは7名だったはずです。この辺りは流石としか言えません。で、極東から派遣された部隊は11機大破中破及び小破合わせて7機ですね、更に死傷者は11名、重軽傷者7名と酷い有様です」

話してる最中、バルナールは終始苦渋に満ちた顔をしている。だが今回はいい方であると彼やこの基地に居る人間は思っている。レイヴンズネストやグロリア達が居なかったらもっと酷かったであろう。

「そうか…分かった。わざわざ済まない」

「いえ、では自分はこれで」

そして今度こそバルナールは格納庫を後にする。

バルナールが去っていた方を見ながらエヴァンジェは軽く息を吐く。

「ふぅ、明星作戦では人類側の具体的な損害報告を聞いてなかったから今回のことを聞いてみたがつくづくこの世界の人類は不利だな。これならまだ特攻兵器の襲撃を受けていたほうがマシというものだ」

そんなエヴァンジェの後姿を見てゼロはシーラたちに断りを入れエヴァンジェに近づく。

ちなみにこの二人明星作戦以前から妙な友情が芽生えている。ゼロに取ってはエヴァンジェはこれと言った間柄じゃないがエヴァンジェに取ってはサークシティ下層部での決闘からインターネサイン破壊時に妙な戦友意識が芽生えている。

そしてエヴァンジェの横にゼロは並びながら声をかける。

「不安かい?」

その言葉に対してエヴァンジェは。

「不安と言えば不安だ」

ゼロはエヴァンジェのその言葉を聞いて驚く。あのプライドの高いエヴァンジェが不安だと零すのだ。驚くなというのが無理だ。

ゼロはエヴァンジェを凝視する。

「ふっ、私とて人の子だ。それに軍の司令官をしていたからこそ分かる。このような体験、人類側の情勢。どれを取ってもこちら側にプラスとなるものが少ない」

「まあ確かに……でもよ」

ゼロは壁にもたれ掛かりながら立ち並ぶ七機のACを見上げる。エヴァンジェもそれに倣う。

「でもよ、結局はなるようにしかならねえだろ? 俺達はレイヴンなんだ。ならレイヴンはレイヴンらしく自由気ままに飛び続けようじゃないか」

エヴァンジェは顔を俯かせながら声を漏らす。それは次第に大きくなっていく。

「ふっ……くっ、クククク。―――――確かにそうだな。お前の言うとおりだよ。私達はレイヴン。ならばこそ私達に良き神託(オラクル)が下るように祈るか」

そう自分達は既に飛んでいるのだ。

この戦場という名の空を…… 

 

 

 

後書き

第三章第十六羽終了

今回は会話が多めです。

そして以前の幕間でジャック達が言っていた例の計画とやらが出てきました。

但し真に受けてはイケマセン。何せ考案者はあのジャックなのだから……

さて後一羽書いたら漸く第三章外伝です(長えよ

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