「行くぞ」
低い声音の呟きと共にジノーヴィーはフットペダルを踏み込む。背面から青きブースタの炎が上がりそして張り詰められた弓の弦から矢が飛び出すのと同じようにデュアルフェイスも一気に最高速度で飛び込む。
目指すは光線級と重光線級の排除、他は一切無視する。
そしてジノーヴィーは何を思ったのかそのまま要撃級や小型種多数が蠢く中に突っ込む。
それをBETAどもはデュアルフェイスを取り囲み攻撃する。
だが、それら全ての攻撃はデュアルフェイスに届くことは一切無い。
『どう…なってるの?』
一人のCPが擦れた声で呟く。
『センサー・レーダーで同一の反応がもう一つ?!』
またデュアルフェイスを視界に納めていた衛士達も同じ反応をし、更に網膜投射でも信じがたい光景が展開されている。
『同じ機体がもう一機!!?』
そう、彼等の眼にはデュアルフェイスがもう一機居る。
それは到底有り得ない光景である。先程までデュアルフェイスは確かに一機だった。それが何故かもう一機存在している。
『そう、これが“システム・デュアルフェイス”』
ただ一人真実を知るジャックの声が低く木霊する。
【システム・デュアルフェイス】
それがジノーヴィーの愛機デュアルフェイスに搭載されている特殊なシステム名である。
そしてこのシステムの能力は、自機を各種センサー上及び感覚器官にもう一機が存在するように誤認させるモノである。
システム発動時コアに取り付けられている様々な基部装置からクレスト社が門外不問の社外秘として開発した特殊な粒子を撒布し機体全体を覆う。
粒子に覆われた機体は自機の真近くに自機と同質の存在を映し、その姿はまるで陽炎を帯びたかのようで謂わば『姿の複製』といった感じである。更に移動時はまるで残像を残したかのような現象が発生し機械的なセンサーや生物が持つ感覚器官さえも誤魔化すことが可能。
このシステムを開発した科学者たち曰く『その状態時はまるで質量を持った残像のようだ』との事、但し攻撃などは複製できない。あくまで姿を複製し相手を惑わすモノでしかなく。制約も多い。
また勿論の事撒布されるのは粒子であるため使用には限度がある(もしこの世界にクレスト社の設備などがあれば話は別だが)。
地を這う漆黒の魔獣が紅き残光を引かせながらゲテモノ共の群れを突き進む。
ジノーヴィーは目の前に現れた要撃級を機体をスピンさせるように回避しその先に居る光線級共をロックオンサイトに納める。光線級がレーザーを照射しようとした瞬間、ジノーヴィーはデュアルフェイスをエクステンションのマルチブースタを使い上空に飛び上がる。その直後、今までジノーヴィーが居た場所に無数の光りが走る。
だが、レーザーを回避した上空で今度は要塞級の触手が迫る。
迫った触手をジノーヴィーは機体を捻りいつの間にか左腕に装備されていたレーザーブレード=ダガーを回転斬りの要領で触手を斬り捨てる。そして機体を捻ったその状態から下に向かってレーザーライフルを一発発射する。
その先にあるのは、いつの間にかパージし投擲されていたグレネードライフル。
そして投擲されたグレネードライフルが飛んでいった先は十数体の光線級と五体の重光線級の群れ。
デュアルフェイスから発射された一発の光弾は高速でそのグレネードライフルを追う。
そしてグレネードライフルが光線級の群れに届いた直後、光弾はグレネードライフルを貫く。
破壊の力を持った光弾の熱がグレネードライフル内の残った小型榴弾を一斉に誤爆させライフル自体の内部機構を破壊蹂躙して行く。その瞬間、光線級の群れの真ん中で一つの火球が生まれた。
火球に因る爆発、爆熱、爆風が光線級の群れを周りに居た他のBETAをも巻き込み焼き尽くしていく。
そして運良く生き残った光線種も直にデュアルフェイスのレーザーライフルとダガーによって殲滅される。
が、これで終わりではない。地面に着地した瞬間ジノーヴィーは機体を別の方角に向ける。その方角は最後の光線級の群れ。
幸い距離は離れていないがジノーヴィーとしてはこれ以上のシステム使用は控えたい所であった。システムに使われる粒子の補給が出来ない以上、次は何時このシステムを使うか分からない。
だからジノーヴィーは通信を繋ぐ、信頼する仲間へと。
「ジャック、悪いがシステムを解除する」
『なんだと!?』
行き成りの通信と内容にジャックは声を張り上げる。
「この世界でシステムを使用するには限度がある。だからジャック、フェイトに支援狙撃をさせてくれ」
『むぅ、分かった。直にフェイトに君の進路上の妨げとなるBETAを狙撃させる』
「頼む!」
喋りながらもジノーヴィーはデュアルフェイスの戦闘設定を随時変更している。
『フェイト、今話した通りだ、頼んだぞ!』
「全くっ、狙撃はそこまで得意じゃないんだがなッ!」
そう言いながらもフェイトは通常のレーダー範囲よりもデータリンクによって広がったレーダーグリッド上でデュアルフェイスの場所を確認し自分の位置から見えデュアルフェイスの進路上の邪魔となるBETAを即座に探し――というよりもデュアルフェイスの左右横から前方にかけて――右腕のレーザースナイパーライフル:FENRIRを態々両手で保持し狙撃する。
だが、狙撃中のフェイトのアラエルに向かって戦車級が跳びかかる。
「!!」
張り付かれる前に迎撃及び回避しようとバックステップを踏もうとした瞬間、横からオレンジの光線が飛来し戦車級を消し飛ばす。
視線の先にはエヴァンジェのオラクル。
「悪い」
『ふん、お前に倒れられるのは我々にとって大きな痛手だからな、勘違いするな。それと周りに集まるBETA共はこの私が梅雨払いしてやるからお前は今は狙撃に専念しろ』
「あ…ああ」
エヴァンジェの苦言交じりの言葉を聞き取りあえずフェイトは再び狙撃に入る。
「エヴァンジェ……ありがとよ」
『ふん』
フェイトのお礼の言葉にエヴァンジェは鼻を鳴らして返す。
そして狙撃態勢に入ったフェイトが最後に一言。
「じゃあエヴァンジェッ! カバーは頼んだッ!!」
『言われるまでも無い。今の私はこのレイヴンズネストの戦闘指揮官だ!』
最後の光線級の群れに目掛け突き進むジノーヴィー、その目はセンサーカメラが映すメインモニターの向こうの戦場だけでなく、各種計器類、レーダー、サブモニターに次々と流れる膨大な情報それらを一斉に処理する。
今のデュアルフェイスは地に足を着けていない。
BETAによって足場と言える場所が無いため地面から約5mほど高度を維持しながら滑空する。
この高度なら他のBETAが邪魔をし光線級は滅多に攻撃できず戦車級以外の小型種は攻撃することが出来ない。ならば後は跳びかかって来ようとする戦車級や突進してくる突撃級に目の前に現れる要撃級くらいだ。
だがそれらも後方からのフェイトの狙撃によってジノーヴィーに害が及ぶ事は無いし、たとえフェイトが撃ち漏らしたBETAがデュアルフェイスを襲おうともジノーヴィーの腕ならば容易く避けられる。
更に現在のデュアルフェイスは背部と脚部のブースタの出力と腕部上腕及びエクステンションのマルチブースタのみを戦闘状態にしそれ以外を通常モードにしている。その恩恵を受けデュアルフェイスのジェネレータ内は余剰エネルギーが十二分に残っておりいつでも全力で行ける状態である。
だが本来ならこのようなことは戦闘時には不可能だ。
ACの各部位にそういった【通常】【戦闘】モードの各種プロセスを行うのはAIであり間違っても人間にそのようなことは出来ない。仮にソフトウェア面に強い人間なら可能かもしれないが今のように戦闘時は到底無理な話である。
そう“普通の人間には不可能”
ならばジノーヴィーは普通の人間か?
否
ジノーヴィーは普通の人間では無い“強化人間”である。
――強化人間は知覚系直接伝達を可能としており首筋にコネクタが有る、それを戦闘時に機体に直接接続し文字通り機体と“一つ”になる。
ただしそのままでは莫大な情報量によって人の脳はパンクしてしまい最悪脳死に至る。
そしてそれを解決するのが神経系光繊維化である。
つまりは神経系を光ファイバー化してしまい情報の伝達速度向上を可能とし更に脳の一部を機械化しそこ等の低スペックのコンピュータすら凌駕する演算処理を行い常に機体を最適化する――
つまりはジノーヴィーもそういった強化人間の能力をフルに使いこのような人間離れしたことを成し遂げている。
そして最後の光線級の群れに近づく、数は光線級6体、重光線級2体。
それを確認したジノーヴィーは左肩のグレネードランチャーを展開し一体の重光線級の照射膜に目掛け撃つ。
榴弾を弱点とも言える網膜に受けた重光線級は体液や肉片を辺りにぶち撒けその活動を停止する。
ジノーヴィーは光線級を全て肉眼で確認するとデュアルフェイスを完全なる戦闘モードに移行させる。
そこからは一方的な展開である。
まず固まっている4体の光線級目掛け左肩のグレネードランチャーに残った最後の一発を撃ち込み纏めて屠る。そして残った2体の光線級にレーザーライフルをそれぞれ一発ずつ確実に命中させ、その直後に機体をジャンプさせ――直後に要撃級の腕が空振る――重光線級に跳びかかる。重光線級がレーザーを照射するもジノーヴィーは左腕のマルチブーストだけを起動し機体をスピンさせ多少装甲が焼かれるも紙一重で回避する。
そして左腕に逆手で抜いたZANGETUを振り抜き重光線級の右足を斬り重光線級は片膝を付く、そしてその状態の重光線級の背後に回り順手に握ったZANGETUを今度は縦に振るう。丁度唐竹割りの要領で振ったZANGETUは重光線級を縦に両断した。
そのまま今度は勢い良くZANGETUを抜く、ZANGETUが抜かれた直後デュアルフェイスに返り血が多量に飛び散るがジノーヴィーはそれを無視しそのままZANGETUを自身に迫った一体の要塞級に目掛け投げる。投げられたZANGETUは丁度要塞級の触手がある位置に突き刺さる。
そしてデュアルフェイスに群がって来ようとするBETAを一切無視してジノーヴィーは機体を飛び上がらせ通信を入れる。
「ジャック! エヴァンジェ! 全光線級を排除した」
『了解したジノーヴィー。全機! 反撃開始だ!』
エヴァンジェの号令の元、遂に人類の反撃が始まる。
後書き
第三章第十四羽終了。
ハッハッハッハ! 圧倒的ではないか! ゲーム中のジノーヴィーが嘘みてぇだろ!
うん、自分でもやり過ぎかなって気がしてきたよ。
後、何時ものように作中のACに関することは全てべやろうの独自解釈or俺設定ですので間に受けないでね。
さて次で漸く戦闘が終わります。その後は事後処理うんぬんで少し話を書いた後漸くもって第三章は終わりとなります(まあ外伝とかあるんだけどね!
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