帝都オルフェン・アルサレア軍司令本部参謀本部長執務室
現在二人の人物が応接用のソファーを挟み歓談している。
「こうして直接会うのは久しいな、グレンリーダー」
「よく通信越しで会話をしているじゃないですか、参謀本部長」
「なに、物事というのは実際に自分の目で確かめなければ納得できんこともあるじゃろう」
「確かに」
ツェレンコフ・ゴルビー参謀本部長の目の前に居る黒髪の若者、彼こそがアルサレアが誇るエースパイロットでグレンリーダーと呼ばれるクロード・シュヴァリエである。
「それで自分を直接招いた理由はなんですか?」
クロードは単刀直入にゴルビー参謀本部長に問う。
「貴官は現在、次世代機の試作機に乗っているそうじゃな」
「ええ、第2世代型PF『Jフェニックス』に」
現在『Jフェニックス』は地上での実戦テストも済ませており後は多少の調整をすれば地上での量産配備は可能と見られている。
「では話を変えて、―――貴官は今度行われる大規模な軍事作戦は勿論知っておるな?」
「勿論です。何より自分の部隊も参加するんですから知らない筈が無いでしょう」
「ははっ、確かに。でだ、作戦前に貴官には次世代機の宇宙戦での試験的な模擬戦という名目であるパイロットと戦ってもらいたい」
クロードは話の意図が見えず首を傾げる。確かに宇宙に於ける性能テストは必要だろうが、何故態々そのような事をしなければならないのか疑問だった。
「何の為です?」
「貴官は最近噂の暗部の者を知っておるかね?」
突然の質問にますますよく分からないと首を捻るが一応答える。
「ええ、勿論。なんでも任官してから目覚しい活躍を見せている人物ですよね」
「うむ、その人物、ゼロ・エグジス准尉じゃが……色々とキナ臭いのじゃよ、任務外には度々軍のデータベースにアクセスを繰り返しておる。しかもその手口が中々巧妙でな、特定がし辛かったわい。またこれは偶然に判明したことなのじゃが……どうも自身の経歴などを偽っておるのじゃ」
「それは確かにキナ臭いですね」
「じゃが能力はかなり優秀でな、これを見てくれ」
そう言ってゴルビー参謀本部長は数枚の資料をクロードに渡す。
「失礼します。……………これは!?」
「驚きであろう」
渡された資料を読み進めていく内にクロードは驚愕の表情を浮かべる。
クロードが読んでいるのはゼロの士官学校時代の各種データでそれぞれの項目には
【射撃:B+】【格闘:B+】【近接:B+】【指揮:A】【耐G:S+】
それぞれの項目は文字通り各種能力値を表したもので最低F-から最高S+までのランクがある。(なお、近接とは近距離時でのインファイト能力を表す)
そしてクロードはこの資料を読んでいて分かった事が一つ。
「バランスが良すぎる」
「そうじゃ、大抵のパイロットは何れか項目が突出することが多いがここまでバランスが良いのは有り得ん」
クロードはゴルビー参謀本部長の話を聞きながら、なおも資料を読み進める。
別の資料にはゼロと同期の同じ訓練小隊所属の三人の人物のデータもある。
『ナガレ=ジングウ』
【射撃:E】【格闘:A】【近接:S+】【指揮:C+】【耐G:A】
備考:ジングウ流という剣術を扱う少女で射撃などの能力は低いもののそれを持って余りある近接戦時のセンスを持つ。
(内のアイリみたいなものか)
クロードは更に別の資料を見る。
『アキラ=センドウ』
【射撃:D+】【格闘:S+】【近接:A-】【指揮:D】【耐G:A+】
備考:同訓練校の責任者『ゲンジ=センドウ』の息子で父親と同じく格闘技を得意とする。素行に問題有り。
(確かセンドウ殿はPF登場前まで戦場では拳一つでのし上ったという出鱈目な人だとグレン将軍が話してたな。そしてその息子か、色々とあるのだろう)
次へと捲る。
『ユウ・レイジ』
【射撃:S+】【格闘:F】【近接:E+】【指揮:B】【耐G:C+】
備考:今期の訓練校で尤も優秀な射撃適正を持つがその分近距離時での戦闘は最低クラス
(確かに、こういった能力なら砲撃部隊向けだな)
クロードは一人一人を自己評価し終えて資料をテーブルの上に置き、そばの紅茶を手に取って軽く口に含む。
「それで、どうじゃ? この任務を受けるかの?」
ゴルビー参謀本部長の問いにクロードは軽く一息付いた後答える。
「引き受けましょう。純粋にこの人物に興味が湧きました」
「了解した。期待しているぞ、グレンリーダー」
クロードはソファーから立ち上がり退室しようとするが、一つ疑問に思いゴルビー参謀本部長に向き直る。
「そう言えば、何故自分なんです?」
問われたゴルビー参謀本部長は片目を上げる。
「ん? 何故とな。そうじゃな……一重に言えば、君の人を見る眼かな」
要領の得ない回答にクロードは少し困惑する。
「はっはっはっは、年を取れば分かる事じゃ」
参謀本部長の執務室を退室したクロードは自身の小隊が待機しているラウンジに来る。
そこには部下の三人が談笑していた。
「あっ、隊長。もう終ったんですか」
と、そこで部下の一人である少女――アイリ――がクロードに気づく。
アイリの反応に残りの二人――キースとオペレータのフェンナも気づく。
「おっ、隊長! お疲れさん」
「お疲れ様です」
「ああ、皆、待たせた」
クロードは三人の言葉に応える。
「それで、隊長。参謀本部長から何言われたのさ?」
「も、も、もしかしてこの前の任務で機体を大破させたことですか!!」
「アイリちゃん、それは無いと思うよ」
グレン小隊は一ヶ月前の任務でヴァリムの試作兵器と交戦しアイリとキースの機体が大破しクロードの機体は中破した。その結果、アイリとキースの機体は破棄され別の機体を受領しクロードは試作型の第2世代機を受領された。
「アイリ、フェンナの言うとおりそれは無い。あの件は一応機体の損害に相応しいデータを得たからな」
クロードの言葉にアイリは安堵の溜息を吐く。
「それで参謀本部長から言われた事だが、これは皆には直接関係無い事だから余り気にしなくていい」
「隊長、それじゃあ余計に気になるじゃねえか」
「キースの言うとおりですよ隊長、それじゃあ逆に気になりますって」
二人の言い分にクロードは肩を竦める。そしてクロードはフェンナにも視線を向ける。
「フェンナ、君も気になるのか?」
「え、ええ、正直言うと……」
はあ、とクロードは軽く溜息を吐き、ラウンジに備えている自動販売機からコーヒーを購入し椅子に座る。
「まあ、簡単に言うとだ、次の作戦の前に宇宙での『Jフェニックス』の模擬戦による試験をとある人物と行うというものだ」
「とある人物?」
クロードの言う人物に全員が首を傾げアイリが声を出して聞く。
「暗部の人間だ」
暗部と聞いてアイリは表情を歪める。
「暗部って噂で聞いたことありますけど、なんか良い噂聞きませんよ」
「どんな噂? アイリちゃん」
フェンナの質問にアイリはこめかみに指を当てる。
「え~と、確か敵だろうとなんだろうと一切の証拠を残さないって話も聞けば友軍を排除するような人間も居るって聞いた事があるな」
「概ね間違ってないぜアイリ」
アイリの聞いたという噂にキースとクロードが概ね有っていると肯定する。
「えっ! そうなの? 正直眉唾なものだと思ってたんですけど……」
「いや、アイリの話は間違っては無い。破壊を主軸にした者も居れば時には友軍を粛清する者もいる、暗部はあらゆる分野でのスペシャリストが集まっている所だからな、彼等は文字通りアルサレアの闇を担っている部分だ」
「う~~ん、やっぱり嫌な所」
アイリの言葉に今度はキースが返す。
「まあ、そう言うなよ。どんな組織や国でも綺麗なところばかりじゃないんだからよ、綺麗な所も汚い所もあるからこそ国や組織ってのは成り立つんだぜ」
そうキースの言う事は間違っては無い。組織とはどんな綺麗事を述べてもそれだけでは成り立たない。誰かが汚れを引き受けなければ組織は充足に機能しないのである。そしてアルサレアではそれを担うのが暗部なのである。
「そこまでだ、全員時間だ」
クロードは時計を見て全員に言葉を掛けそれを聞いた三人は立ち上がりラウンジから出て行く。
彼等はこれより大型の輸送シャトルでPFと共に宇宙に上がる。
後書き
チャプターⅠ-Ⅶ終了
漸く原作の主人公勢が登場。
一部オリジナルが有りますがご容赦下さい。
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