剣(ツルギ)への想い

 

 

アルサレア要塞暗部隊長室

「ザーベイル攻撃作戦ですか」

ゼロの言葉にゼムン中佐は頷く。

「うむ、今回の作戦は宇宙のヴァリム資源衛星に駐留する敵母艦の破壊と戦力の間引きだ」

「攻略ではないのですか?」

「全力で掛かれば不可能ではないと私は思うが、その後のことを考えれば無理だと思わんか?」

「確かに」

確かにアルサレアが全力でザーベイルを制圧しようと思えば不可能ではない。だが、それによって発生する損害が馬鹿にならない、何よりその後維持費や維持などに裂かなければならない人手が無いこと等、明らかにリスクが多すぎるのである。これは勿論ヴァリムがアルサレアの資源衛星ルネオアを制圧しようとしないことも同じ理由である。

ゼムン中佐は話を続ける。

「そこで上層部が判断したのが間引き作戦だ。更に駐留軍の指令拠点である母艦を破壊しその余波でザーベイル上の鉱石などに損害を与え敵戦力及び士気を挫くというわけだ」

更にとゼムン中佐は告げる。

「更に今回の作戦には多くの精鋭部隊が参加する。勿論我が暗部からも数人参加する」

「中佐もですか?」

「ああ、私もセシリアも参加する。但しアクセルは不参加だ」

「え! 何故です?」

ゼロの疑問は尤もだ。二人は組んでからこれまで数十の任務をこなしてきたパートナーなのだ。

「理由はアクセルの適正にある」

「適正?」

「ああ」とゼムン中佐は答える。

今回の作戦に選ばれた部隊は全て適正によって選ばれている。その適正とは空間認識力と空戦能力が高い者が選ばれている。勿論一般のパイロットも訓練を積めば適性の低いパイロットでも宇宙戦は可能だが今回はそのような慣熟期間はまてないので一部部隊によって構成される。

「アクセルはその適正が低いと」

「うむ、逆に私やセシリアに君は適正が高い。宇宙は殊更に特殊な環境だからな、上も万全の態勢で望みたいのだろう。今回の作戦はルネオアの防衛軍などの一部の宇宙戦の経験がある部隊も多く参加する。この意味が分かるな?」

「了解。それだけ今回の作戦は最重要ってことなんですね」

「そういうことだ。出発は明日の早朝からだ」

ゼロは敬礼し了解と述べる。だが、話はそれだけではなかった。

「それと君には宇宙に着いたら早々特殊任務がある」

「特殊任務?」

ゼロは眉を顰める。ゼムン中佐は「ああ」と頷き任務内容を告げる。

「内容は次世代先行試作機の宇宙での試験演習だ。但し、試作機はそのまま実戦試験として当作戦にも参加する」

「次世代機! もう第2世代機の開発が済んでいるんですか!?」

ゼロが驚くのも無理は無い。現在は聖暦21年、Jファー・カスタムが配備されたのは聖暦20年である。幾らなんでも次世代機への代行が早すぎるのだ。

「第2世代機の開発は、ほぼ済んでいると言ってもいい。そう遠くないうちに第2世代機は正式に配備される。――――もっとも暫くはエースパイロットにしか配備されないだろうがな、歳月が経たないかぎりは一般の将兵が第2世代に乗るのはまだまだ先だ」

「分かりました。ですが、何故自分なんです?」

「君の適正が一番優秀だからだ。何より、上は君と試作機のパイロットとの戦いを見てみたいのだよ」

「その人物とは?」

「アルサレア機甲兵団が誇るトップエースパイロットの一人“グレンリーダー”だ」

「グレンリーダーが相手……」

グレンリーダーの名を知らぬ者は居ない。グレン将軍直属の特務小隊、通称“グレン小隊”の隊長だ。グレンリーダーであるクロード・シュヴァリエ少佐は若くしてその隊長を務め多くの戦果を上げている。アルサレア軍最強の一角である。

だが、それを聞いたゼロは縮み上がる所かその口に笑みすら浮かべている。

「面白い。中佐、承知しました。ゼロ・エグジス、その任務精一杯努めさせて頂きます」

「うむ、では退室したまえ」

「はっ」

 

暗部隊長室を出たゼロは要塞の外にでる。そしてその腰には何時も刀を挿している。

ゼロは要塞の外である山中の中の小さな川で立ち止まる。暫し川の流れを見たあとゼロは小川の中でも一番大きな石の上に乗る。

「グレンリーダーが相手…か、面白い。今の俺がどの程度まで喰らいつけるか楽しみだ。上が何を考えてるか知らんが、相手が相手だからな、やるからには本気で行かせて貰うぞ」

ゼロはそこで刀を神速で抜く。その速さは達人クラスでないと見切れないほどだ。そしてゼロが抜いた直後、川から魚が飛び出す。そして刀はその魚を綺麗に両断する。その業は見事としか言えないほど。

そして魚を斬ったゼロは刀を軽く振る。その刃には一切のシミや汚れが見えなく美しく煌いている、よく手入れがされている証拠である。

ふと、ゼロは空を仰ぐ、そこには一羽の鳥、燕が飛んでいた。燕は優雅に空を飛ぶ。

「そういえば、以前あいつが言っていたな。昔の地球の東の島国に長大な長刀で燕を斬ったという侍の話を……試すか」

ゼロは刀を納刀し腰を落とし居合いの構えを取る。そして眼を閉じ瞑想し明鏡止水に入り自らの心と体を自然と一体化する。一切の雑音が消え世界は静寂する。

その状態をこう呼ぶ――無我の境地――と、

どれだけ経ったのか分からないがそこに一羽の燕が川に向かって飛んでくる。そして川中にいる小魚を取ろうとした瞬間、ゼロは眼を見開き。神速といえる速度で刀を抜く。

刀が風を切り裂く音と共に勢いよく空間を斬る。

だが、それだけだった。

刀は燕を捉えることなく空振り、川の水面を騒がすだけだった。ゼロは構えを解き苦笑する。

「やっぱ、無理か~。撃ち落すのは不可能じゃないだろうけどな。俺に剣を教えたあいつなら可能か?」

ゼロは少し素の自分をだしながら呟く。

そして石の上から飛び退き刀をハンカチで軽く拭きながら歩き去る。ゼロが持つその刀の波紋にはゼロの髪や瞳と同じく美しき蒼である。

この刀は士官学校時代、ゼロと同じ隊にいた少女がゼロの為に見繕ったもので、銘を『蒼月』という。

それからゼロは任官後、一時も離さずこの刀『蒼月』を携えている。それはPFを操縦しているときも例外ではない。PF操縦時は『蒼月』をシート脇に置いている。

ゼロは空を見上げながら要塞へ戻る。その空には燦々と輝く太陽と様々な形へと変える雲に鳥が飛んでいる。

「人は太古の昔から大空に様々な思いを寄せていたと聞く。無限に広がる様を見せる青き空、そしてその空を自由にその翼を持って羽ばたき飛ぶ鳥。翼は一重に人が思い描いた自由への幻想。何故なら人には空を飛ぶ翼は無いから……だが、今の俺には機甲の翼がある」

そう詩的な言葉を呟くゼロ、彼の瞳には一体何が映っているのだろうか?

それは彼にしか解らない。

 

「班長」

要塞に戻ったゼロは自機が格納してあるハンガーへと足を向けた。その目的は宇宙でのグレンリーダーとの戦いのためである。その為、ゼロは自分で決めた制約を破る。

そう、ゼロはグレンリーダーに本気で勝ちに行く心算である。そのため自分の機体とアクセルの機体を整備しているこのハンガーの整備班長にゼロは“ある物”を頼む。

「おう、どうしたゼロ准尉」

「一つ用意して貰いたい武器があります」

「なんだそれは?」

整備班長は顔を真剣にしながらゼロを睨む。

「既存の武器で貴方が思う、いい出来のカタナを用意してください」

「カタナ?」

「ええ、俺は距離に拘った戦いはしませんが、得に自身を持てるのが遠近両兵器を使った近中距離戦です」

整備班長は悩む。彼はこの道数十年のベテランだ、そうでなければ暗部のPFの整備班長は任されない。そんな彼が悩みに悩んで出した結論は……

「ちょっと着いて来い」

整備班長に言われてゼロは班長の後を追う。

「ここだ」

着いた先はPFの武器を保存してある倉庫の一つ。班長は扉のロックを解除して中に入るゼロもそれに続く。

少しして班長はあるカタナの前に止まる。ゼロもそれに倣ってそのカタナを見上げる。

「これが俺が思う既存の刀系の武器の中でも特に良い出来のヤツだと確信してる」

「銘は?」

「無い。コイツは普通のカタナだ、だが、製作過程で思った以上の成果で出来上がったことからここで保管してるんだ。それにこれがお蔵入りしている理由は他に、アルサレアにはカタナを使うパイロットが少ないというのもある」

ゼロは黙って班長の話を聞く。

「そうだな。准尉。コイツは准尉が銘を決めていいぜ」

その発言にゼロは驚く。

「いいのか?」

「構わねえ。それに武器ってのは使ってなんぼだろ。―――但し、銘を決め持って行く換わりに俺の質問に答えてくれ」

「……………分かった」

ゼロは暫し逡巡したあと首を縦に振るう。

「オーケー、それじゃあ―――准尉、なんで今になってカタナを使おうと思ったんだ?」

その問いにゼロはこう答える。

「先も言ったように俺には苦手な距離は無く最も得意なのがレーザーソードなどの近接系の兵器と射撃兵器を使った近中距離戦。そしてもう一つ、カタナを用いた戦い。一応ある流派を元としているが基本我流だ」

「成る程、それで准尉はこれからの戦いの為にもカタナを用いた戦闘もしたい。そういう訳だな」

「ええ」

「なんで、これまでは使わなかった?」

「カタナがあったらそればかりを頼りにしちゃって射撃や格闘が疎かになりそうだったからです。もしそんなことになってしまったら士官学校時代に俺に射撃や格闘を教えてくれたあいつ等に申し訳が立たない」

それを聞いた班長は

「よっし! 分かった。このカタナはお前さんが持っていけ!」

それを聞いたゼロはほんの少し顔を綻ばせながら礼を言う。

「感謝します」

「イイって。それで銘は?」

ゼロは少し悩むも先の鳥や翼、空を思い出し、こう銘付ける。

「では“天(アマツ)”と」

「分かった。“天”だな」

「あっ。後、腰部に専用の鞘を付けてくれませんか? 一応積載にまだ多少の余裕は有りますけど装甲を少し軽くしても構いません」

「OK、OK! 任せとけ」

そしてこの班長の手によってゼロは新たな武器を入手した。

 

 

 

後書き

チャプターⅠ-Ⅵ終了

え~毎度毎度、無計画なべやろうです。今回やっちまった内容は、

本来は今回、初代原作の主人公のグレンリーダーを出そうとしたのですが変わりに本作品の謎多き主人公ゼロのほんの少しの過去に触れました。どうしてだろう?(知らんわ

次回こそは次回こそは必ずグレンリーダーを出します。

誤字脱字、感想等は掲示板にてお願いします。